第60話:閑話⑥悪魔の笑み

 ロンドン塔屋上に鍵十字たるハーケンクロイツの旗が威風堂々と風になびいていて下ではドイツ軍が万歳万歳と叫んでいた。


「マインシュタイン元帥、おめでとうございます! 宿敵たるイギリスを降伏まで追い詰めた功績は永遠に帝国史に残りますな」


 英国本土侵攻戦の総司令官『マインシュタイン』元帥はバッキンガム宮殿前にて『ハインツ・グデーリアン』上級大将の挨拶を受けていた。


「これも総統閣下の賜物ですな、ソ連をも下して英国も落とした今こそ欧州全土を平定するタイミングでもありますな」


「地中海でもロンメル大将がエルアラメインの戦いで北アフリカ英国軍を完膚無きまで叩き潰してトブルクを落としてそのままカイロへ進撃中との事」


「それもこれもあの別世界から来た例の潜水艦艦長のお陰か、何でも自動追尾で命中するまで追いかける魚雷を無尽蔵に提供してもらったとの事だが? それで英国海軍のH部隊を始めとする艦隊は次々と海の藻屑と化したとのこと」


 二人の会話は尽きず他の将兵も皆が笑顔で勝利を祝っていたが……首都ベルリンでは魂も凍える程の恐怖の会話が為されていたのである。


♦♦


「ほう、ゾンビ軍団設立を?」


 総統執務室ではヒトラーとライプチヒ艦長が二人で秘密話をしていた。


「はい、人の腕や足を始めとする臓器は脳から発せられる電気で動いているのです。その電気信号を外側から第三者の手で自由自在に操ることが出来る技術を提供したいと思いますが?」


 邪悪な笑みを浮かべたままヒトラーに言うと彼もにやりと笑うともっと詳しく聞こうではないかと言う。


「今、この欧州の地には何十万たる死体がゴロゴロと転がっていて墓場には未だ新鮮な死体が沢山ありますがその死体の脳に特殊な装置を装着して強制的に電気で動かすのです。もっといえば白骨だけでも可能ですが? その何十万もの死体を自由自在に操る事が出来れば生きている自国の軍を使わずに制圧できるという事です」


 ライプチヒの説明にヒトラーも邪悪な表情の目を輝かしながらもっと詳細に話してほしいとせかす。


「しかもですな、今正に生きている人間をもゾンビの如く自由自在に操る事が出来るのです。対象者を仮死状態にして脳に特殊な装置を埋め込めばその人物の意に反して手足を操る事が出来ます。その技術があれば暗殺もいとも簡単ですな。最も総統閣下は神に選ばれしアーリア人にはそんな非道な事は考えてもいないでしょうが?」


「ふふふ、ライプチヒ将軍! その通りだ。だがな、私はそこまで邪悪な人間ではないぞ? 同じ白人には慈悲を与える気であるが?」


 ヒトラーの言葉にライプチヒは頷くと白人以外の下等民族が欧州にいるではありませんか? と言うとヒトラーも頷く。


「アウシュビッツを始めとする収容所には多数のユダヤ人がいるがそれに例の装置を付けて操ると言うわけだな? それは素敵なアイデアだ! 下等民族はこの世に不必要だからな」


「勇敢たる総統の親衛隊であるSSに命令すれば直ぐにでも実行できるでしょう」


「先ずは実験としてそこらの戦場に転がっている死体を活用しようではないか。所で最終的にゾンビ軍団を揃えることができるのはいつかな?」


「後、二年は必要ですね? その時なれば100万人もの生きる屍軍団が出来ます」


「よろしい! その時になれば米国東海岸及びアジア全域に侵攻して極東の日本を滅ぼす! そこで私の戦いは終わり新たな千年帝国が成立するのだ」


 その時、扉がノックされて一人の人物が入ってくる。

 白衣を着ていて見るからに科学者であるという事が一発で分かる。


「ハイル・ヒットラー! 総統、朗報をお届けに参りました」


「ほう? 我がドイツが誇るエイヒリマン博士はどんな内容でこの私を喜ばせてくれるのかね?」


 エイヒリマンはライプチヒに深々と会釈をすると自信満々な声で原子爆弾の爆発実験に成功したことを報告する。


「でかしたぞ、博士! 世界に先立ってドイツが原子爆弾の実験に成功したとは至極上々である」


「はっ、これもライプチヒ艦長による技術提供の賜物です。現在、開発中の六発重爆撃機に小型化した原子爆弾を搭載する予定です。一九四五年四月頃に完成する予定です」


 ヒトラーはその報告を聞くと益々、機嫌がよくなると共に饒舌な言葉になる。


 ライプチヒはこれで退室しますと言うとヒトラーは頷くと共に何か欲しいものがあるか聞いてきてライプチヒは英気を養う為に酒と女を所望する。


 ヒトラーは頷くと直ぐに手配しようとの言葉を聞くとライプチヒは静かに退室していく。


 コツコツと廊下を歩きながら小声で独り言を言う。


「総統閣下の覇業を邪魔するのは必ずあの潜水艦だ! 日下敏夫、忌々しい奴だ! そしてあの伊400という並行世界を旅する潜水艦……あれを片付けなければ全てが画餅の餅となるであろう」


 そう、ライプチヒがいた世界は大東亜連邦共和国軍とアメリカ合衆国連合軍により祖国は滅ぼされて全てが灰燼になったのである。


「見ているがいい! 必ず復讐を遂げてやる」

 

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