第61話:閑話⑦護衛艦”しらね”
日米が戦っている中、日本本土防衛の任務に就いていた旧海上自衛隊護衛艦“しらね”は東シナ海大隅諸島近海にて哨戒行動を実施していた。
「艦長、聞きましたか? 遂に日本軍はサンフランシスコを制圧したとの事ですよ?」
艦長席に座って冷たい水を飲んでいた『山崎塔屋』二等海佐に船務科通信担当班長『篠原安踏』一等海尉が通信文を挟んでいるバインダーを渡すと山崎はさっと目を通して頷く。
「まあ、開戦当初の日本海軍や陸軍の兵力ならば十分に可能だよ。俺達のいた世界でも真珠湾攻撃と同時にハワイ諸島を占領しておけばよかったのだ。所で天候はどうなっている?」
山崎の言葉に航海科気象観測班長『新幡順二』一等海尉が間もなく10分後にスコールが来襲してきて一時間は続くとの事を報告してくる。
「うん? そうか、所で新幡一尉、君はどう思う? 確か防衛大学を上位の成績で卒業したのだな? 戦史の事も習ったのだろう?」
先程の内容を振られた新幡は暫く考えた後、それは不可能というかそういうことは議題にも上がらなかったのではと言う。
「当時の陸軍や海軍はお互いが好きな事をやっていて一緒に行動すると言う事がなく仲違いしていましたから実現は難しかったかと思います。この世界では『石原莞爾』大将が『山本五十六』司令長官と手を組んだことで実現しましたが」
新幡の言葉に山崎はそうだなと頷くと篠原一尉がその石原莞爾大将が機上戦死されたという事で東京では大騒ぎだったそうですねという。
「一度だけあったが流石俺たちの時代でも有名であった石原莞爾そのものだったな。おしい方を失った」
そんな話をしている内にレーダー員から緊急連絡が入ってくる。
「レーダーに潜水艦一隻を探知しました。これより音紋照合に移ります」
山崎は頷くと第二戦闘配置の号令を発すると艦内全区域にそれに対応するベルが各所に鳴り響く。
非番や公休の乗員達も直ぐにいつでも第一戦闘配置につけるよう準備する。
「艦長、照合判明しました! 米国海軍所属のパラオ級潜水艦で艦名は……“ボーフィン”です」
護衛艦“しらね”とヘリコプター搭載護衛艦“いせ”には伊400が数百年かけて全世界のありとあらゆる種類の音紋数万隻分のデーターを貰ってそれをコンピューターにインストールしていたのである。
「“ボーフィン”……何処かで聞いた名前だな?」
山崎が思い出そうとしているときに新幡があっ! と大きな声を出したかと思うと喋り始める。
「思い出しました! 昭和19年8月11日に撃沈された“対馬丸”を沈めた潜水艦です」
「……そうか、俺も思い出した! 対馬丸事件だ。戦時中の出来事だが非常に悲しい出来事だったと聞く……しかし、おかしいな? ボーフィンは1943年8月に配備されたという事だが……何故だ?」
「歴史は変わったのですから艦の竣工も変わるのでは?」
艦橋にいた乗員達もこの並行世界に迷い込んでからというもの大東亜戦史の事について徹底的に勉強したので直ぐに思い出す。
「……艦長、いかがしますか?」
副長『靖国道畑』三等海佐が山崎に言うと山崎は直ぐに攻撃命令を下す。
「総員第一戦闘配置! 飛行科は対潜へりSH-60を出撃させろ! アスロック発射も視野に入れる」
艦内全区域に第一戦闘配置のベルが鳴り響くと皆が真剣な表情で己の配置場所に飛んで行って僅か一分で配置完了する。
各区域から配置完了の報告が続々と入ってくると山崎は満足そうに副長に流石は俺が鍛えただけあって素晴らしいな言う。
その通りですと副長が言ったと同時に後部甲板から一機の対潜ヘリSH-60が離陸していくのが見える。
「艦長! ボーフィンの三時方向に輸送船らしき船を発見! スクリュー照合によると……えっ!? ……まじ……?」
あまりにもの素っ頓狂な言葉に副長である靖国が馬鹿者! はっきり知らせろと怒鳴ると直ぐに返答が来る。
「つ……対馬丸です! 日本郵船所属の対馬丸です!」
今度は艦橋にいた全員がえっ!? と大声を出すと山崎も流石に絶句する表情をしたが直ぐに命令を出す。
「砲雷科に告ぐ! ボーフィンが万が一、魚雷発射すれば“しらね”の68式3連装短魚雷発射管Mk.32 魚雷で奴の魚雷を破壊する。SH―60にも連絡だ! 緊急である故、射程距離に入れば直ぐに攻撃だ! そっちの判断に任せる!」
ボーフィンの全ての行動が“しらね”に把握されて秒ごとに解析されていく。
SH-60から攻撃可能まで後5分だとの連絡が来ると山崎が頷く。
「艦長! 奴の魚雷発射管開放の音を探知しました!」
山崎は即、CICに命令する。
「CIC、奴の魚雷の速度を計算してMk.32で迎撃だ!」
一方、その“ボーフィン”内では艦長『ミハイル・スミス』中佐が潜望鏡にて対馬丸を撃沈するため、今まさに魚雷発射を命じようとしていたのである。
「ジャップめ、油断大敵じゃないか? 護衛の駆逐艦もいないしこの海域を己の聖域と思っているみたいだな?」
「ジャップの主力は全て本国にいっていますのでこの海域に入るのは楽だったですね?」
「忌々しいイエローモンキーめ! 俺たちの祖国に土足でズカズカと踏み込んできやがって! 許さんぞ」
スミスが潜望鏡を見ながら怒りの言葉を吐き出すと発射準備完了の報告が入る。
「1番から3番、発射!!」
艦首魚雷発射口から3発の魚雷が放たれる。
“しらね”艦橋の山崎の下に敵潜が魚雷発射しました! と言うとMk.32の発射を命じる。
3連装発射管から3本の魚雷が放たれると水中でスクリューが起動してホーミングとして魚雷追尾に入る。
CICでは微調整をしながら魚雷制御をおこなっている。
「当時の魚雷と今の魚雷では速度も3倍違うからな、計算上では十分に迎撃できる」
現時点で対馬丸にはソ連と戦う為に満州へ送られる新兵2千人を運んで旅順へ向かっていたのである。
“しらね”から放たれた魚雷は見事、敵魚雷に次々と命中して水柱を上げて破壊すると対馬丸も敵潜の攻撃と気付いてジグザグ航法に切り替えて全速力で北上していく。
「艦長! 我が魚雷が命中前に破壊されました!」
「ば、馬鹿な!?」
その瞬間、凄まじい振動が艦を襲いスミス達は吹き飛ばされて背中の骨が折れる音がしたと同時に海水が濁流となって流れ込んでくる。
「ば……馬鹿な……神……よ……」
その瞬間、意識がなくなり“ボーフィン”は艦長以下全員が海底に沈んでいき船体も真っ二つに折れて海底に落ちていく。
“しらね”艦橋では敵潜撃沈の方に沸き立つ。
「よくやった! しかし敵潜がここまでやってくるのは意外だった! これより対潜哨戒を密にする!」
こうして“しらね”は対馬丸を救ったわけだがその対馬丸には伊400から受け取ったこの時代でも作成できる兵器の設計図を基にして日本が開発した新兵器も積まれていて戦局が有利に働くものであったが別の話でもある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます