第59話:一路、サンティエゴへ!

 布哇諸島中心地にあるオアフ島内海軍基地では明後日に出撃するための準備で大急がしで皆が走り回っている。


 桟橋では輸送船を始めとする沢山の船が武器弾薬を搭載して順次、真珠湾口の外へ向かっていく。


 真珠湾口沖合には南雲機動部隊が集結していて最終点検に入っていた。


 その作業を布哇司令部から見ていた『牛島満』中将と『栗林忠道』中将はいつにもまして無言状態であった。


 『石原莞爾』戦死の報を聞いた時、全く信じられなかったが時が経つにつれて詳細が分かり愕然としたのである。


「……栗林中将、いつまでもこんな状態では駄目だな、靖国にいる閣下に怒鳴られる」


 牛島の言葉に栗林もそうだなと頷くと両手で頬をパチンと叩き気合を入れる。

 それを見た牛島も己に気合を入れる為に同じ行動をする。


「……それにしてもサンティエゴ占領か、あれから一年以上経っているがかなり復旧しているのではないか? 未確認だがパナマ運河も応急的だが通過出来るとの事だ」


 栗林の言葉通り、米国の底力は恐ろしく破壊された後、急ピッチで運河の復旧を目指して通過のみだが復旧に成功する。


 サンティエゴ基地も急速に復旧を兼ねると同時に要塞化するための建設が始まっているとの事である。


「……しかし私達にはあの伊400という信じられない未知の性能を持つ潜水艦が付いていてくれるからこんなに安心感を得るとは誠に感謝しないとな」


「数々の並行世界を渡り歩く旅人か、日下艦長の話では別の世界では私達は米軍に心底、恐怖を与えて玉砕したということだが……やはり私は生きて再生した日本を見たかったと思うな」


「前世ではそうだったが今世では全く展開が違うではないか。必ずこの戦争を早く終らせて胸を張って本土に帰還しようではないか!」


 牛島と栗林はお互いに正対すると固い握手を交わして石原莞爾が靖国でゆっくり出来るように全力を注ごうと新たに誓い合う。


 沖合に停泊している南雲機動部隊総旗艦正規空母“瑞鶴”甲板上には搭乗員や乗員が所狭しと整列して南雲中将の訓令を聞いていた。


 他の各艦艇でも艦長が南雲と同じ訓令を喋っていたのである。


 壮絶な戦死を遂げた石原莞爾が仕切っていた布哇基地では皆が一心同体であったので心は一つに纏まっていた。


 戦艦“大和”も最大まで砲弾を積んでいて46センチ砲を艦砲射撃する為に皆が張り切っていた。


「今度の相手は戦艦ではないが勝利の一角を任せられるとは光栄だな」


 出撃準備も予定より早く終わりそうなので前夜祭ということで飲酒もその日限り許可することになった。


 そして……遂に出撃する日を迎える。

 数百隻にも及ぶ輸送船には武器・弾薬は勿論、4万人もの陸軍兵が乗船していた。

 真珠湾を始めとするオワフ島全域に出航合図のラッパが高々と鳴り響く

 先陣として駆逐艦・巡洋艦が動き出し、次に空母“瑞鶴”“翔鶴”が動き出して最後に戦艦“大和”がゆっくりと微速前進していく。


 輸送船団を囲むように南雲機動部隊の各艦船は動きながら隊列を整える。


「サンティエゴまで二週間か、それまでは俺たちの出番はないわけだ」


 輸送船甲板上で栗林師団所属の“バロン西”こと『西竹一』中佐が呟くと横に盟友でもあり上官でもある栗林が横に来る。


「はりきっているではないか! 暫く会えなかったが元気そうで何より」

 二人は笑顔で会話に入っていく。


♦♦


 一方、伊400は現在、サンフランシスコとサンティエゴの丁度中間地点の海上にいて日下艦長と橋本先任将校が艦橋甲板で双眼鏡を覗きながら周囲を見渡していたが周囲全方角、何も無かったのである。


「今頃は真珠湾から大部隊が出撃した頃だな?」


 双眼鏡を覗くことを辞めた日下が橋本に言うと彼も頷く。


 最も二人は全く心配していなく二週間後にはサンティエゴに上陸しているだろうと確信を持っていた。


「そういえば……米国最大の海軍基地“ノーフォーク”に続々と艦船が集結していますね? 無人偵察機“晴嵐”から送られてきた映像にはエセックス級空母にカサブランカ級護衛空母、アイオワ級戦艦、小型艦艇なら数百隻以上停泊していることです」


「……戦時体制に移行しつつあるという事だがもしかしたらB-29が大量生産に入っているかもしれないな?」


「パナマ運河とか米国の五大都市を始めとする工業都市をこの伊400で壊滅させれば至極簡単ですが……しないのですね?」


 橋本は絶対にそんな展開にはならないことを確信していたが再度、日下の考えをきっちりと知っておきたかったのである。


「確かにこの伊400の持つ全兵器で対応すれば数時間で米国全土の基地及び都市は廃墟にできるがそれでは駄目なのだ! 日本陸海軍が正面切って正々堂々と決戦して勝利を得る事こそが大東亜共栄圏の成立に不可欠な事だ。最も国力を考えたら全く喧嘩にもならないからね? そこはバランスを以てこの艦で潰す」


「……まあ、我々は艦長の下、付いていくだけですのでこれからもよろしくお願いします!」


 二人はお互いに顔を見合わせると頷いて固い握手をする。

 そして再び視線を水平線に向けた時、通信員が走って来て言う。


「つい4時間前にロンドンにハーケンクロイツが翻ったとの事です!」

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