第57話:日下艦長の想い

 石原莞爾死す! この報告入手に関しては伊400には少々、他とは違うのであった。


 伊400には小型なれど超高性能の偵察人工衛星を所持しており各並行世界に到達したときにはそれを打ち上げて情報を収集するのである。


 特に通信関係は地球上に飛び交っている各無線会話を無尽蔵に自動的に蓄積していき通信班は無尽蔵にある通信文をカテゴリーにわけて解析していき重要なものと判断すればそれを日下の下に報告するのである。


 そんな中、通信班の一人が日下の下に気になる無線文があると言いに来て日下はそれを受け取って見る。


「……ほう? 布哇からサンフランシスコへ向けて電文か……。陸軍独特の無線暗号文でガッチガッチにしているな。解析はどうだ?」


「はい、既に解析完了ですがそれから後の無線部分が意味不明と言うか……」


 歯切れの悪い言い方だが通信班はよくやっていると日下は思う。


 通信班が言う意味不明の部分と言うのが次の無線は平文で発せられていてその内容を吟味した結果、布哇から石原莞爾大将がサンフランシスコに行く事を暗号文で送ったが現地では石原を迎えに行く陸軍航空基地へ平文で詳細を送っているという事を説明する。


「ちなみにこの無線が発せられたのは昨日です」

「……何だと?」


 日下は直ぐに悪い予感がして米国中央部で偵察している無人戦闘機“晴嵐”をサンフランシスコ周辺に向かわせることを命令したがその数秒後、凶報を受信する。


 石原莞爾、壮絶な機上戦死したとの事……である。

「…………馬鹿な……?」


 日下の頭の中は真っ白になり思考停止状態が数秒間続いたが直ぐに布哇司令部と南雲中将の下に打電する。


「もしこれが本当だとすれば並行世界における山本長官戦死と同じではないか!」


 日下自ら布哇方面の南雲長官とのコンタクトを取って事の詳細を聞くとガクッと膝をついて暫くその場で動かなかった。


 他の乗員達も目を伏せる。

「艦長……」


 橋本が日下の肩に手をやると日下は顔を上げて大丈夫だと言う表情をしながらポツリと喋る。


「……分かっている、分かっているが……この世界ではもう会えないのかと思うと……残念だという気持ちが大きい」


 そう、人それぞれには魂と言う物があるがそれは無数にある並行世界の何処かに転送されてそこで再び生を受けるのである。


 死と言う概念は肉体と言う容器を失っただけであり魂は永遠の存在である。


 三途の川と呼ばれているところが各種並行世界への入り口である。


「石原閣下は……この世界では生涯を終えたが又、別世界で転生されていると思う。普通の人は再び会う事は出来ないがこの伊400とその乗員は数々の並行世界を渡り歩くことができるからいつかは会える時が来るのだが……」


 日下はゆっくりと立ち上がると帽子をきちんと被ると言葉を発する。


 通信員が再び南雲中将からこの伊400に向けて電文が発せられてきたのを聞いた日下は頷いてその電文を受け取ると真剣な表情をする。


「石原閣下は万が一の時の為に備えて侍従長に手紙と言うか遺言状を残していたそうで米国方面最高司令官を樋口季一郎中将を免じて大将に任命すると共に人事権等の権限を米国侵攻戦に限り、彼に渡す事。牛島・栗林中将にも双璧として権限を与える事等が記されていたそうだ」


 日下の言葉に橋本がそんなことを良く大本営と言うか陸軍省は許可を出しましたね? と言うと日下は恐らく裕仁陛下の御聖断によるものだと言うと成程と納得する。


「いずれにしても樋口さんが総指揮を執るとなれば石原閣下の初期案を採用して直ぐに行動を移すと思う。即ち、サンティエゴを占領するという事だ」


「しかし、あれから間もなく一年が経ちますのでかなり復旧しているのではないでしょうか?」


「それがどうした? 再びこの伊400で潰せば何も問題ない」


 日下の言葉に他の乗員達も頷く。


「近いうちに布哇方面から牛島・栗林両閣下率いる軍団が出港するだろうね? 一兵たりとも死なすわけにはいかない。サンティエゴを叩き潰すと共に護衛を兼ねないといけないが樋口閣下と連絡を取りたいな」


 そういうと日下は、南雲中将を経由して樋口閣下に連絡を繫いでほしいと懇願すると直ぐに返答が来て了解したと。


 10分経過しただろうか? モニターTVがチカチカと点灯したので日下はボタンを押すと画面に樋口大将が画面に出てくる。


 お互いに敬礼すると自然と石原莞爾の話題に入るが暫くして本題に入ることになり樋口が喋る。


「日下少将、ここ数日の間に米国方面軍を大幅に編成し直そうと思っています。阿南閣下等前世時に米軍と戦っていない方達は全員、内地に帰っていただき反対に米軍と交戦した方達を呼ぼうと」


 樋口の言葉に日下は大きく頷いてそれがいいですと賛成すると樋口も大きく頷くと共に布哇に駐留している軍団をサンティアゴに向けて出撃させることをいう。


「樋口大将、一隻たりとも敵に触れさせないのでご安心を」


 笑みを浮かべる樋口と敬礼した日下は通信を切る。

 日下は天井を見つめながら心の中で石原に喋りかける。


「石原閣下、この世界では貴方と最早、話することも出来ませんが……いずれ他の世界で再び会えることを信じています。そして……この世界の日本も又、誇りある素晴らしい国にするお手伝いをする覚悟です。どうか再び会うまで壮健で」

 

                                            

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