第5部:進撃! 樋口軍団(カリフォルニア州奪取編)

第56話:新体制!

 石原莞爾、戦死! この報はたちまち本土は元より布哇方面へも急報として伝えられたのである。


「はあ!? 石原閣下が戦死? ふざけた冗談ではないのだな?」


 牛島中将が報告してきた伝令員に聞くと彼も大きな声ではっきりと間違いありませんと言う。


 そして時間が経つにつれて戦死した経緯が伝わってくると牛島と栗林は勿論、将兵全員が牟田口と冨永を罵る。


 だが、直ぐに冷静になると共に布哇諸島守備軍の動揺を抑える為に行動を起こして何とかうまくいったがとてもサンティエゴ占領作戦は出来そうもない状態であった。


「布哇諸島各地の動揺を抑えないといけないから閣下の死を悲しむ暇がないがそれがいいのかもな」


 日本海軍・南雲中将も石原莞爾戦死の方と経緯を聞いた時、艦橋で一人自分を罵しったのである。


「前世? の世界で山本長官が戦死した時と同じじゃないか! くそったれ! 反対を押し切ってでもゼロ戦全機をお付けするのだった!」


 サンフランシスコ方面に展開する連合艦隊司令部から現時点の段階を維持せよとの命令が来てそれに従う事にする。


 石原莞爾戦死の報告は勿論、本土にも届きその報を聞いた時、東條英機は持っていた書類の束を落としたが気付くことがなく暫しの間、体が固まっていたが部下の言葉に我に返る。


「あの石原が……戦死……? はは、何かの冗談だろう」


 昔から相性が悪くお互い嫌悪の仲であったが本音はお互いの能力を認めていたがもうそれは過去の事になったのである。


「……石原よ、別世界では大東亜共栄圏をお互いに力を合わせて成立させたがこの世界は無理だったな? いや、そうでもないか! 前世の記憶ははっきりと覚えているからこの俺が貴様の想いと共にこの国を変えていかないといけないか」


 東條がそう呟いた時、いつも冷静な部下がドタドタと駆け足で執務室に飛び込んでくると東條は冷酷な目でジロリと睨むが部下はそれどころではなさそうであったので何が起きたのだ? と聞くと部下は(*´Д`)言いながら答える。


「宮内省から至急、皇居に行き陛下の御前に参るようにとのことです! 至急です」


 東條は直ぐに石原の件についてだなと思い参段する為に急いで服を着替えて皇居へ向かう。


 皇居につくと直ぐに牧野侍従長が迎えに来てくれて陛下がお待ちしていますが相当、機嫌が悪く拝謁した瞬間に怒鳴られるかもしれないので覚悟してくださいと言う。


 東條は息を大きく吸い込んで吐き出し心を落ち着かせると覚悟を決めて裕仁陛下に挨拶する。


 予想通り石原莞爾の事で激しい怒りを以て東條に話しかける。


「東條よ、先ずは無事に回復して何よりだ。所で既に聞いていると思うが石原大将の件についてだが一体全体陸軍は何がどうなっているのだ? 先日は誇りある皇軍の大将が娼婦を抱いている途中に暗殺されるという前代未聞な恥を晒して今度は朕の信頼する石原が簡単に戦死する……聞いた話では朕の命令を深く考えないばかりか無視した無能のせいだととも聞いているが真相はどうなのだ?」


 東條は一瞬で自分が可愛がっていた部下である牟田口と冨永を切り捨てることにしたのである。


 真の大東亜共栄圏を成立させるにはあの二人は邪魔な存在であった。


「はい、事の真相ですが……かくかくしかじか……以上が今回起きた石原莞爾戦死の経緯です」


 東條の説明に裕仁陛下は厳しい表情をしながら聞いていたが最終的に益々、眉間にしわを寄せていた。


「……東條よ、朕が陸軍や海軍の人事に直接、介入することは出来ないが朕の意向は伝えることができる故、言うがその無能な者を厳罰として処罰するように」


 裕仁陛下の言葉に東條は平身低頭で頭を下げて深々と敬礼する。


 それを見た裕仁陛下は侍従長に目配せをすると侍従長が東條の下に行き手紙を渡すとこれは石原莞爾が万が一に何か起きた時の為に記した遺言状であるという。


 恭しく受け取った東條は手紙の内容を熟読すると驚天動地の表情になり裕仁陛下の方を見る。


「東條よ、この手紙には石原の切なる気持ちが込められている。朕は石原の心を汲み取ってやりたいと考えている故、この遺言状の内容に沿って事を運ぶのだ。これは朕の最上たる命令だ。反論あるものは遠慮なく皇居にきて朕に言いに来るがいいと言うのだ。以上だ」


 東條は深々と礼をして皇居を出ると迎えの車が待機していたが東條は考えたい事があるから陸軍省まで歩いていくと伝えてゆっくりと歩き始める。


「……石原め、何を考えている? 『樋口季一郎』中将を米国派遣総大将とし、右翼左翼に『牛島満』中将・『栗林忠道』中将を据えて事を進めるようにと……完全に年功序列を無視しているではないか! 確かに前の世界では樋口は本土に上陸した米軍を叩き潰した戦功があり、牛島・栗林も沖縄戦に硫黄島戦で米軍の肝を冷やさせた名将だが……今の段階では無名に近い存在だぞ……。しかし、この人事を完全に進めないと今度は陛下の怒りがこの私に降り注ぐことになろう。そうなれば奴が描いた真の大東亜共栄圏を成立させる事が出来なくなる……」


 結局、東條は陛下の意志を実現させるために陸軍省に帰還すると直ぐに関係者を集めて説明するがやはりというか古参の将から猛反対の意見が出るが東條はこの内容は陛下が認めた内容である故、文句があれば直々に陛下の所に直訴しろと陛下が言った言葉そのまま伝えると流石に全員が沈黙する。


 結局、特例の特例として石原の遺言通りの内容が承認される。


『樋口季一郎』中将を大将に昇任させて米国方面遠征軍最高司令官に任命すると共に『牛島満』・『栗林忠道』両中将を最高司令部幕僚参謀に任命して米国方面における人事権等の自由裁量を与える事を決定して内外に発表する。


ここに新たに……真の最強たる布陣を以て米国侵攻に当たることになる。

それと同時に凋落を辿る者もいるがそれは又、別の話である。


*次話(第57話)は伊400日下艦長の想いです。

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