第54話:急報……

「何!? 寺内大将が暗殺された?」


 サンフランシスコから緊急電が入りそれと同時に本土からも驚愕するような報告が入ってくる。


 布哇オワフ島総司令部にて『石原莞爾』が素っ頓狂な言葉を発するが直ぐに頭を回転させると一人頷いて南雲中将を始めとする各上級将校をここに集合するように命令すると伝令員が敬礼をして執務室を出ていく。


 石原は窓のほうに移動すると窓を全開にする。

「心地よい風だな……だが、向こうは混乱中だろう。樋口は大丈夫だろうか?」


 石原の心配をよそに続々と海軍と陸軍の将校たちが入室してくるがサンフランシスコから入電した内容に一同、何とも言えない表情をしていた。


 海軍代表の『南雲忠一』中将・そして……牛島・栗林両中将を始めとする総員20名の将校たちが席に着く。


 石原は彼らが席に着き終わったのを確認すると早速、サンフランシスコで起きた内容を話すと共に先程、本土から東條英機が意識を回復して現場に復帰出来る程との事と陛下からの勅命でこの石原が全面的な総司令官として米国本土に転身することを話すと皆がおおっ! と声が沸き起こる。


「こんなこと言っちゃ悪いがあの坊っちゃま七光り大将閣下だといずれは遠征軍は壊滅しただろうからさっさと退場してくれて全体的によかったではないか?」


「石原閣下が全指揮を執られるとなると我が軍もこんな島で暇を持て余さず米国本土に行けるな?」


「牟田口中将や富永中将にあの狂人参謀殿の辻政信も本土に召喚されて満州に飛ばされるとの事ではないか」


 口々に皆の言葉を聞いていた石原は特に浮かれているようでもなく頭の中で色々と策を考えていたのであった。


「石原閣下、これからの私達がやる指示をお願いしたい」


 牛島が起立して石原に言うと他の皆も真剣な表情で石原の方を向く。

 南雲中将も襟を正して石原の口から出る言葉を待っていた。


「……この石原を全面的に支持してくれる貴官たちに改めて感謝いたす。私が頭に描いているこれからの方法を皆に言うが分かるまで何回も説明するから安心して聞いてほしい」


 良く大切な事は一度しか言わないぞという人が殆どだが石原は分かるまで説明することが大事だと常日頃の考えであった。


「ここ数日後に私は一旦、サンフランシスコに赴いて阿南中将達と会って色々と話をする。そして、本土からくる5個師団を布哇方面防衛に駐留させると共に牛島・栗林と私の直轄師団はそのままサンティアゴを占領する! これは当初からの予定である。なお、その前に例の日下少将の伊400が再び暴れてくれよう。サンティアゴを制圧すればそこを拠点として鉄壁防衛を築く。そうなれば米軍は必ずサンフランシスコを放っておき全軍がサンティエゴに攻め寄せるだろう。そこを陸海空一斉に攻撃して叩き潰す」


 石原の言葉に皆が元気な声でおおっ! と叫ぶ。


 南雲も頷くと石原に布哇に駐留している艦船全てを米国方面へ出撃させるのですかと発言すると石原は頷くとこれは陸海総動員で米国を叩き潰す作戦なのでここに停泊している全艦船を連れていくという。


「了解しました! サンフランシスコ方面には一航戦と二航戦がいますので五航戦揃えば真珠湾同様の布陣が出来ましょう。そのうえ、隼鷹・飛鷹・鳳翔・龍鳳・龍驤・祥鳳・そして新たに編入される雲龍が加わりますのでかなりの戦力になりましょう。そして忘れたらいけないのが“大和”ですね」


 米戦艦五隻を一撃で葬った四十六センチ砲の威力を誇る“大和”の活躍を皆が思い出す。


 それから会議は続き全員が全てを理解できるまで石原は根気よく説明してやっと終わったが時間は2300時だった。


「ではこれで解散だ! 明日から三日間は交代で全将兵に特別休暇を与えてやってほしい。休む暇はこれからないのでな? 休息が終われば私はサンフランシスコに出発するつもりだ」


「では、サンフランシスコに暗号電文で送ります。それと閣下の護衛をするための援護機と搭乗員及び航空機を決めます」


♦♦


「艦長、報告です! ルーデル閣下が操縦する“晴嵐”は満州国境に押し寄せているソ連機甲師団を叩き潰したとの事です」


 橋本先任将校が楽しそうな表情で日下に報告すると彼も呆れた表情になりながら全くあの御仁は共産主義が大嫌いと見えるね? スターリンは既にいないにもかかわらずと言うと橋本も頷く。


「しかし……東條さんが意識回復したのは良かったな? それに……牟田口や富永にあの辻政信が召喚されて満州へ飛ばされるとはね?」


 先日、石原から詳細な報告が届き日下はまさかそんなことが起きたとはと驚愕したがそれが寺内大将の運命だったのかと思う事にする。


 そして石原が陛下の勅命により全軍の指揮を執ることになったことを知った日下はおめでとうを言うと共に早めに米国との落としどころを決めれるだろうと思う。


「橋本先任将校、どうやら満州方面は大丈夫だろう。ルーデル閣下にはキリが良いところで引き上げるようにと言ってくれないか? 当艦は再びトンボ帰りでサンティエゴを火の海にして無傷で牛島中将達の軍団を上陸させる」


 こうして伊400は少しでも早く到着できるように抵抗が少ない海中航行を選び深度60メートルを最大戦速で進む。


 そして……布哇諸島付近まで戻った時、信じられない凶報の無電を受信する。


それは……サンフランシスコ沖合海上にて『石原莞爾』搭乗機が米軍機に奇襲攻撃されて壮絶な機上戦死を遂げたとの報であった……。

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