第52話:意識回復

 夢を見ていた……

 いつの時代か分からないがこの夢は大東亜戦争に敗れて私が絞首刑になり日本は米国(GHQ)主導の下、次々と急速な国家再建の道へと邁進したがこれが全く嘆かわしい事。


 大東亜戦争終結から100年経った日本の有様ときたら……あの戦いで散っていった若者たちが靖国で泣いているであろう……。


「ああ、神は何故、こんな残酷な夢を私に見せているのか?」


 夢の中で私が涙を流して嘆いていると突然、目の前の景色が変わり信じられない情景が目に飛び込んでくる。


「……こ、これは……!?」


 先程の景色とは全然違って巨大ビルは殆どないが綺麗な緑あふれる区画整理された公園が多々あり、至る所に見慣れない国旗がそこらじゅうに飾られていた。


「旭日旗に似ているが……?」


 その世界で彼は先程から気になっている違和感に気付く。

 それは多々のアジア人種が町の至る所で何事もなく普通に歩いていて皆が和気あいあいである。


 そして再び目の前の景色が変わると何処かの会議場だが驚愕する。

 会議場の真上に大きな垂れ幕が掲げられているがその内容に目を見張る。


「“大東亜連邦成立100周年目記念展”……そうだ、思い出した! 私は別の並行世界で石原莞爾や有泉龍之介と共に大東亜連邦の成立に奔走したのだ」


 再び彼は涙を流しながらそれを見る。

 彼はふと、横の壁に掲げられている写真を見て驚く。


「……私の写真が掲げられているではないか? 大東亜連邦陸軍大学校初代校長である『東条英機』元帥!」


 その瞬間、私の意識というか夢は真っ暗になり再び目を開くとそこは何処かの病院の病室のベッドで横たわっているのに気づく。


「……ああ、思い出した! 確か会議中に頭が割れるぐらいの激痛が走って気を失った……そこまで覚えているが……?」


 不思議な事に頭の中身が健やかな気分で爽快な感じを得る。

 その時、扉が開かれて一人の看護婦が入室してくると目覚めた東條を見て直ぐに主治医を呼んできますと言い、病室を出ていった。


 数分後、主治医が入って来て脈等を次々と測るが異常なしとのお墨付きをもらう。


「迷惑をかけて申し訳なかった! 命を助けてくれて有難う。所で今は何月ですか? それと陸軍省か内務省に連絡をしていただきたい」


 東條の言葉に主治医は笑みを浮かべながら既に陸軍省と内務省に伝えましたので直ぐに飛んでくると言っていましたと共に現在は昭和17年11月15日という事を教えてくれる。


「(戦況はどうなっているのだ? 米国との戦いは? 石原は?)」


 そうこう考えている内にドタドタと駆け足でこちらに来る音が聞こえてきたかと思うと扉が開かれて1人の軍人が入室してくる。


「服部卓四郎大佐じゃないか? 元気そうだね?」


 東條がにこやかな表情で声を掛けると服部大佐も涙を流しながらこちらも元気ですが閣下が目覚められたことが一番の喜びですと言う。


 数分間、たわいもない話をしていたが東條がベッドの上だが姿勢を正すと服部も直ぐに仕事モードに切り替わる。


「報告します、現在の状況ですが……かくかくしかじか」


 服部の報告を一字一句逃さないようにメモを執りながら色々と質問をしていくうちに大体のことが分かったが欧州の状況には一番、驚くと共に残存ソ連軍が満州に侵攻してきたことについて直ぐに対策を立てる。


「米国から辻政信を呼び戻すと同時に牟田口と富永を本国に呼び戻して両名を満州に送り出すと共に君も一緒に行ってくれないか? 辻と君のコンビは素晴らしいからね?」


 東條は自分の可愛い部下であるが前世? を思い出した時に陸軍三大無能として両名が語り継がれたことを思い出して汚名を受ける前に本土に戻そうと思ったのである。


 東條の命令に服部は特に何も言い返さないで直ちに陸軍省に伝えますと言う。

 彼は心から東條を尊敬していたので命令に忠実であった。

 服部が病室から出ていった時、東條は横の窓を開けると爽やかな風が入ってくる。


「……再びこの日本をあの世界軸に連れて行かなければならない。その為には牟田口や富永と言った馬鹿は後方に下げた方がいい。それにしても石原はくじ運が悪いな、本当だったら今頃はサンティエゴを占領していたのに寺内大将ときたら何の価値もないサンフランシスコを占領するとは。とにかく復帰したから直ぐに動かなくては」


 東條は急いで看護婦を呼ぶと同時に現場復帰を試みるが医師により万が一のことも考えてこれより数日間、ベッド生活になったのは別の話。


♦♦


 一方、米国本土サンフランシスコ方面隊司令部では各軍団長がロッキー山脈越えの為の準備に追われていた。


 現地調達した馬や牛・豚等の家畜や接収したトラック等の機械化車両に燃料や補給物資を積めこもうとしていたが精神論の塊である大本営や寺内からの指示で直ぐに出撃しろとの命令が届く。


「ロッキー山脈越えか……正気の沙汰ではないが命令とあらば仕方ないが……」


 良識ある軍人もいてこの無茶な命令でどれだけの命が散っていくのかと思えば気分が優れなかったのである。


 出撃当日、先陣である第5師団が出撃しようとした時、急報が入り出陣が取りやめとなる。

「……何だと!? 寺内閣下が……お亡くなりに?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る