第48話:閑話⑤:ある勇者の行動
*注意:この話は現在よりも先の話です。(新大東亜戦争への道、終了後のお話です)
ある並行世界での行動を終えて新たな航海に旅立った伊400であったが乗員に変更があり、二代目先任将校『橋本以行』大佐が引退して元海上自衛隊潜水艦“うりゅう”艦長であった『富下貝蔵』一等海佐が三代目先任将校として伊400に乗艦する。
そして処女航海から技術部の一身を引き受けていた『吉田重蔵』技術長も艦を降りたのである。
新たな顔ぶれで伊400は再び、並行世界の別世界へ旅立つ。
その最中、新たに乗艦した富下は日下艦長の案内の下、艦内を案内されていてその都度、呆然としたり驚愕な表情をして日下を楽しませていた。
「富下先任将校、今でこんなに吃驚していたようではこれからの航海で起こる出来事に心臓がついていけるかな?」
意地悪な笑みを浮かべた日下に富下も負けじと笑みを返すと大丈夫です、直ぐになれますのでと返答すると日下も笑う。
「楽しみだ、それでは引き続き案内しよう」
日下の案内の下、伊400の心臓部区画……いわゆる熱核融合炉機関室区画に入ろうとした時、壁面の上に一人の若い青年の写真が掲げられていたのを見た富下は日下に尋ねる。
日下はそれを見上げて優しい表情になり目をつぶり何かを思い出していたようだが直ぐに目を開けて富下の方を見て言う。
「……そうだな、貴官も知っておかねばならないな? この伊400を救った……一人の若い戦士を……」
日下の説明によると120年前、別世界での戦いで伊400は絶体絶命に陥っていて敵潜水艦との危険なチキンレースに押されていたのであった。
「艦長! 6時の方向からレーザービームがやってきます!」
ソナー員の叫びに即、日下は大声で指示する。
「プラジマシールド及び磁気シールド展開だ!」
伊400全体にシールドが展開されたと同時にレーザービームが直撃すると凄まじい振動が伊400を襲う。
仁王立ちの日下も衝撃と共に膝をついたが直ぐに立ち上がる。
「最大戦速! 深度5000メートルまで急潜航! 海底山脈へ向けろ!」
伊400の安全潜航深度12000メートルである故、5000メートルは完全な安全圏であったが重大な出来事が発生する。
「何? 外壁装甲ダメージが60%だと!?」
「はい、奴のレーザービームは普通の物ではなく我々が知らない未知のエネルギーで攻撃しているかと?」
吉田技術長の説明に日下はう~んと唸るが直ぐに潜航は大丈夫なのか? と聞いた直後、ソナー員から報告が入る。
「3時の方角、本艦から300メートル地点に魚雷が出現! こちらに向かってきます!」
「奴め! 瞬間物質移動機を持っているのか? シールド間に合わないか、総員衝撃に備えろ!」
その瞬間、凄まじい振動が伊400を襲う。
爆発の衝撃で立っていた者全員が転げ崩れる。
「艦長! 3B区画装甲ダメージ100%! 破損部分に海水が流れ込んできます」
伊400初めて装甲が破れた瞬間であった。
現在、水流はそこまで酷くなく直ちにダメコンチーム3名が駆けつけて補修に入るが敵潜水艦が再び放ったレーザービームが伊400に命中しようとしたが咄嗟の操舵で交わすが深海の水圧により損傷を受けていた箇所が一気に破れて濁流となって流れ込んでくる。
「ダメコンチーム、撤退しろ! 区画を閉鎖する! 急げ!」
日下の命令が彼らに届くとダメコンチーム全員が弾くように隣の区画に逃げ込んで閉鎖しようとしたが衝撃で反対側の扉が歪んでしまい閉鎖不可能になったのを見つける。
「艦長! このまま撤退すればこの機関室に多大な影響が出ます。私が行きます」
そう言うと一番若い『相模幸弘』少尉が泳ぐように数メートル離れた扉に行き歪みを直そうと試みる。
司令塔では橋本がこのままいけば機関室に多大なダメージが発生して核融合炉に致命的な損傷を受けるので何が何でも補修しないといけないという。
「分かっている! だが俺たちは仲間であり家族同然だ! 誰一人も欠けるわけにはいかない! 相模、聞こえるか? 片方の核融合炉は奴にくれてやるから急いで退避しろ! 機関室全体を完全に閉鎖する!」
日下の命令に相模は初めてその命令を拒否する。
「それは出来ません! この艦は僕たち家族の家同然です! 私の事はいいので扉を閉鎖してください! 機関室のこの扉は必ず直します!」
相模の決死の覚悟をした表情を見た日下は苦渋に満ちた表情で区画扉閉鎖を命じると扉は閉鎖される。
伊400内の各区画扉の水圧に対する耐久は∞である。
そして……数十秒後、核融合炉区画に直結する扉の完全閉鎖の完了ランプが点灯する。
それから一時間後、敵潜水艦の艦長判断のミスを逃さずに敵潜水艦を葬る。
木っ端微塵になった潜水艦を見送った後、急速に浮上して海面に躍り出る。
そしてこの世界での味方勢力のドックに入り、修繕をすることになり区画の浸水箇所の水が全て流れ去り日下達がその区画に飛び込むように入った時、扉のハンドルを固く握った相模の姿があった。
笑みを浮かべて絶命していたのである。
相模の遺体は海軍式に沿って水葬を以て実施すると共に伊400の守護神として遺影を掲げることにしたのである。
「このことがあった為、万が一に備えて乗員の命を護る為に特殊潜水服を創作して全乗員の傍に置くことにしたのだ。ちなみにこの潜水服は令和時代の世界では実現不可能な技術をもっていて最大深度2万メートルまでの水圧に耐えれるばかりか一緒についている酸素ボンベも一月間装着したまま持つ」
「……という事は……その潜水服を着装した時はマリアナ海溝海底でも自由に泳げると?」
富下の言葉に日下は頷く。
「この伊400の推進施設は知っての通り、スクリューではなく核融合炉の爆発で得たエネルギーを以て超伝導電磁石を利用し強力な磁場を作り出し、磁場中の海水に電流を流してローレンツ力により海水を噴射するウォータージェット推進方式を採用していてこれによりスクリューや内燃機などが不要になりほぼ無音航行が可能になる。しかし片方だけではそれが不可能になるばかりか荷電粒子砲“(建御雷神の矛)の発射も不可能になるので彼が命を懸けてくれた行為は正にこの乗員全ての命の恩人であるのだ」
日下の言葉に富下は神妙な表情で聞いていて説明が終わるとその遺影に向かって敬礼をする。
「初めまして、新たに橋本先任将校の後釜の富下貝蔵と言います。これからの航海、よろしくお願いします」
それを見ていた日下も優しい表情で相模の遺影を見て頷く。
「大丈夫だ、相模が命を懸けて護った俺達の家……であるこの伊400は絶対に沈めさせない! 安心して見守っていてくれ」
そういうと二人は核融合炉室に入っていく。
その遺影は微笑んでいて今すぐ傍にいるような雰囲気をさせていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます