第47話:上陸成功、そして!

 無数の上陸用舟艇が間もなくオーシャンビーチに到達するが不気味な事に一切、海岸線から攻撃がなかったのである。


 一番先頭の艇に乗っている『橋田雪道』少尉は怪訝な表情をしながら浜辺を見る。


 至る所から黒煙が上がっていて凄まじい艦砲射撃だったことを感じるがこうも何も反撃がなければ反対に心配になってくる。


「罠か? もしそうならその対策をしておかないと」


 橋田は舟艇に乗っている兵士に体を低くしてそのまま浜辺に到着したらすぐに匍匐前進をするように言う。


 橋田のみ、職業軍人で他の者達は赤紙で徴兵された新人であったが彼には不思議なカリスマ属性を持っているため、橋田小隊は至極落ち着いていた。


「いいな? お前達は初陣だがこの俺が指揮しているのだ! 誰一人も欠けずに勝利するぞ!」


 彼の言葉に小隊の皆は元気よくOH! と答える。

 それと同時に遂に舟艇の底が砂に重なる。


「行くぞ!!」

 橋田小隊がオーシャンビーチに上陸すると同時に他の舟艇も続々と兵士を吐き出していく。


 二個師団が上陸したが、敵の反撃は一切なく砲撃で叩き潰された各種兵器や体の部位があちこちに飛び散っている米兵の遺体が転がっているだけである。


「……何という有様だ! 戦艦の射撃でここまで破壊出来るのか?」


 山下中将が仁王立ちになりながら辺りを見渡すと副官がやってきてこれより橋頭堡を築きますと言うと山下は頷いて偵察隊を出してサンフランシスコ市の状況を探るように命令する。


「本格的な進撃は4時間後の1700時だ! 敵の奇襲に備えて待機せよ!」


 次々と輸送艇から戦車が吐き出されると共に輜重部隊も上陸してくる。


 当時の軍隊だがトラックを始めとする機械化部隊は米国しかなくそれ以外の国は相変わらず馬や牛に頼っていたのである。


 あのナチスドイツでさえもポーランド侵攻から始まり、バルバロッサ作戦でソ連奥深くに侵攻する時にも殆どが牛馬頼りであった。


 話は戻るが莫大な食料や砲弾・燃料が所狭しと積まれていく。


「閣下、この時期に狙われたら一大事になりますね?」

「まあ、確かにそうだがそんな心配はしなくてもいいと思うがね?」


 山下が人差し指で上空を示すと参謀は、空を見上げる。

すると日の丸をつけたゼロ戦の編隊が上空を乱舞していた。


「……成程、確かに大丈夫ですね?」


 そこに通信員が駆けつけてきて海軍機から市内の様子を伝えにきてくれたことを言うと山下は頷くと参謀に言う。


「大まかな事は上空から見た方がいいな」


 通信員からの報告によるとサンフランシスコ市は大パニックになっていて我先にと内陸部へ逃げ出していく状態であると伝える。


 山下は暫く何かを考えていたが今しがた来た『畑俊六』中将にサンフランシスコ市に本格突入するのは明日にでもいいのではと言う。


「このまま進軍すれば必ず一般市民に被害を与えてしまう。誇りある我が皇軍が戦うすべを持たない市民に被害を与えればどんな罵りを受けるか分からないぞ? 下手したら100年たっても言われるぞ?」


 山下の言葉に畑も強く頷くと確かにそうだなと言い、進撃は明日にするという事で海軍に頼んでビラを撒いてもらおうと提案する。


「まあ、こんな事もあろうかと用意してきている」


 内容は、こちらに手を出してこなければ一切、危害を加える事はないとのことが書かれていた。


「ほう、という事は既に海軍さんの許可は得ているのだな?」

「そこは抜かりなく! 知人が連合艦隊司令部で勤務しているので手を回して山本長官の許可を貰った」


 畑のどうだ? と言った表情に山下は笑うが直ぐに真顔になり総司令官の許可は得ているのか? と聞くと畑はあの七光りの坊ちゃまに言っても無駄だから独断でしたが奴は何も知ろうとしなく、参謀の牟田口もそこまで頭を回していないだろうと言う。


「本当の所、真実を言うがこの経緯を描いたのが石原なのだ。気に食わないが真珠湾を出るときに石原からこうこうこういう事になるから先手を打ってこうすればいいと……ね?」


 畑の言葉に山下は苦い表情になるが溜息を付くと頷く。


「気に食わないが奴は間違いなく軍略の天才だ! 電撃的に満州事変を起こして成功させたからな?」


「取り合えず、今は橋頭堡を築いて万端の準備を以て進撃しましょう」


♦♦


 その頃、日本戦艦部隊はサンフランシスコ湾を南下しながら艦砲射撃で次々と沿岸部分の各種工場等を叩き潰していく。


 至る所で大火災が発生しており、現地は消化を諦めて内陸部に避難したようで一向に火が収まる気配がなかった。


 戦艦“武蔵”防空指揮所では、双眼鏡で市内を見ていた山本長官は腑に落ちない表情をしながら双眼鏡から目を話して横にいる宇垣参謀に言う。


「私が知っている米国人はこんな時でも本格的に銃を取って向かってくる気質を持っていたが今の状況を見るととても信じられない」


 山本の言葉に宇垣は実際にこういうことが起きないと人の本質は分からないのでは? と言うと山本もそうかもなと頷く。


「(……石原さんが言っていた通り、騙し討ちではなく正々堂々と宣戦布告をしたお陰で米国民の一致団結の意欲が削がれたという事か。しかし、恐ろしい男だな、石原莞爾……か、あの想像を絶する伊400潜水艦の艦長と親交を結んでいる……まあ、この戦いを早期に終わらせるのが先決だな)」


 山本は再び双眼鏡を覗く。

 戦艦による一斉射撃による地響きの振動が心地よく改めて戦艦の使い方を知った山本であった。

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