第46話:遂に上陸へ! 

 日本戦艦・巡洋艦部隊の艦砲射撃によって上陸予定地の米国軍陣地はほぼ完膚なきまで叩き潰される。


 その報告を受けた陸軍部隊が続々と上陸用舟艇に乗り込んでいく。


「ようやく我々の出番が来たか! 先陣を賜るのが私とは光栄だ」


 第10師団長『山下奉文』中将が軍刀を腰に差した状態で仁王立ちとなって海岸を睨みつける。


「同時に第12師団は、山下閣下と協力して上陸を果たしてもらいたい」


『畑俊六』中将は大きく頷いて山下と握手する。


「オーシャンビーチに上陸後、サンフランシスコ市一帯を完全に制圧して南下。そのまま揚陸部隊はサンフランシスコ湾に突入して“リッチモンド”“オークランド”“ヘイワード”“フリモント”“サンノゼ”を占領して橋頭堡を築き、引き続き派遣されてくる師団を以て“ロスアンジェルス”へ進撃する予定です」


「ふうむ……すべてに共通するのは海軍の戦艦が持つ主砲の射程圏内だな?」


 阿南中将が地図を睨みながら答えると辻参謀長が頷く。

 辻が指揮棒でリッチモンドから東方の場所を叩く。


「ここに日系人に対する強制収容所が存在していることを掴んでいる。その収容所を解放するのが第13師団だが分かるかね、樋口中将? ああ、それと……中には信じられないが米国に忠誠を誓うという日系人もいるそうだがそんな卑怯者が一人でもいればその収容所にいる非国民を全員、始末して破壊しろ! これは総大将『寺内寿一』大将も承知している」


 樋口は眉を潜めながら収容されている人数は万を超えているがそれを一人残さずですか? と問うと辻は頷く。


「貴官は甘い考えをしているからな? 東条閣下も最終的には承知したと言え、同盟国ドイツのユダヤ人抹殺の政策に反抗してユダヤ人を多数救った事について上層部は未だに不信感を抱いている故、それを払拭できるチャンスでもあるのだ。よろしく頼んだよ? 樋口中将」


 樋口はポーカーフェイスで敬礼するが返答を避けたが心の中で激怒していた。


 辻の方ももしかしたら命令無視するのではと思っていて、もしそうなら粛清の対象にしてやろうと考えていたのである。


 何しろ、石原莞爾と言う異端な将の直属配下故。


「(冗談じゃない! そんな阿呆な命令を忠実に実行する馬鹿が何処にいる? 間違いなく収容所にいる殆どの日系人たちは米国に忠誠を誓うだろう)」


 樋口の頭の中では収容所の日系人を解放して内陸部に逃がそうと思っていた。


 自分の直属の上司は石原莞爾であるので例え、命令違反をしても石原閣下が必ず助けてくれると確信していたのでそうしようと決めたのである。


「(ふう、あの寺内・牟田口・辻がいなくなればこの戦いの行く末も明るいのだが……)」


 樋口がそう思っている間にも続々と先陣として上陸用舟艇に乗り込んでいく日本兵の士気はMAXであった。


 そして……無数の上陸用舟艇がエンジンを吹かしながら動き始めてオーシャンビーチに向けて殺到していく。


 それはアメリカ建国以来、外敵の上陸は一切、許していなかった世界最強たる米国の誇りが今まさに崩れ落ちていく瞬間であった。


♦♦


 一方、全速力で西海岸に向けて水深300メートルを航行している伊400艦長室内で日下はベッドに寝転んで物思いにふけっていた。


「思えば……生き返ってから実に676年間、伊400と共に過ごしていたのだな。色々な並行世界を旅したな。鳥羽伏見での徳川幕府が勝利した後の日本、榎本武明さんの蝦夷共和国が成立したままの第二次世界大戦突入、大東亜戦争で本土決戦を経て崩壊した大戦終了後の日本分断統治下の独立戦争、2.26事件で皇道派が実権を握った日本……その他、数えきれない程に。まあ、たまに本当の異世界に行くこともあったな。しかし、本当に色々なIFの日本を救ってきたが……今回は……非常に苦しい戦いになるだろうな。あの潜水艦との決戦は」


 かつて一度だけ伊400が大破したことがある並行世界での戦いを思い出す。

 その戦いで3名の戦死者を出したことが悔やまれる。


「……あの時の戦いは奴の操艦ミスの隙間をついて倒したが今回の艦長はどんな人物なのだろうか? 今度は誰一人も戦死させずに勝利してみせる」


 そう思った時に艦長室扉がノックされる。


「橋本です、よろしいでしょうか?」

「おう、入ってくれ」


 日下の返答に扉が開かれて橋本が入って来てこれからの日下の意見を聞こうと思ってやってきたのである。


「米国単独での戦いならば伊400の戦闘力を以てロスアラモスを始めとする原子爆弾関連施設や五大湖の大工場や造船所を破壊できるのだがナチスとの戦いになればやはり米国の力が役に立つからね? これが石原さんなら丁度いい落とし前で講和を結べると思うのだがあの無能大将だから難しいね? 所で質問だが欧州派遣軍は既に本土に返って来ている筈だがどのような状況なのだ?」


「現在、大陸縦断鉄道で続々とコロラド州デンバー市に運ばれていてそこに巨大な飛行場や陸軍基地に修理工場等信じられないスピードで建設されていて昭和18年半ばには、とんでもない大規模な基地が誕生するかと?」


「本格的な戦時体制に突入か。その時期ならエセックス級空母やアイオワ級戦艦が続々と就役して週間空母や月間正規空母がポンポンと誕生するな。それまでこの戦いを終わらせて日本に有利な講和条件で手締めをしたいものだが……。今回も影ながら彼らの援護をしていこうと思う」


 日下の言葉に橋本は了解しましたと敬礼して艦長室を出ていく。

 それを見送りながら日下は自分も司令塔にいくかと呟いて上着を着て艦長室から退出していく。

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