第45話:閑話④ヒトラーの野望

 日本がサンフランシスコ上陸作戦開始した同時刻、ナチス・ドイツ国首都ベルリンにある総統府ではアドルフ・ヒトラーが陸海軍閣僚を集めて会議をしていた。


「ゲーリング君、アシカ作戦Ⅱに導入できる戦力はどれぐらいかな?」


 ドイツ空軍最高司令官ゲーリング元帥が元気よく立ち上がり手許に持っていた資料を見ながら報告する。


「重爆撃機600機・軽爆撃機300機・戦闘機3000機を導入できます! 尚、ギガントの大量生産に成功して500機揃えることが出来ました! 海と空から一気に攻撃できます」


 ヒトラーは満足そうに頷くとその横にいる海軍最高司令官レーダー元帥に参加可能艦艇の隻数を聞くとレーダー元帥はスラスラと答える。


「現在、最新鋭Uボートを含む200隻がいつでも出撃出来ます! しかも例の彼のお陰で最新鋭の自動追尾魚雷を搭載できますので水上部隊がなくても十分にロイヤルネービーを叩き潰すことができます」


「うむ! デーニッツ元帥によろしく頼んでいたと伝えてくれたまえ」


 満面な笑みを浮かべたヒトラーの言葉にレーダーはナチス式敬礼を以て答える。


 ヒトラーは次にナチス親衛隊SS長官ヒムラーに声を掛けて例の件はどうなっているかを聞くとヒムラーは淡々と順調ですと言う。


「既に特殊部隊はロンドンに侵入してエリザベス王女を確保したとの報告を受けていますので友軍が上陸するまで保護するとの事です」


「そうか、一つだけ言っておくぞ? ヒムラー君。絶対に彼女に危害を加えてはいけない! 罵られようと唾を吐きかけられても絶対に手を出すな!」


 地獄の魔王のような鋭い視線を浴びながら言われた命令にヒムラーは緊張しながらもナチス式敬礼で了承する。


 それから内政に関する政策の確認等を終えたヒトラーは給仕に命令して極上のワインを持ってくるように言う。


 数分後、各閣僚及び元帥の手にワインが入ったグラスが配られてヒトラーの掛け声で飲み干す。


「それでは諸君、勝利の美酒を再びこの場所で飲みたいものだな」

「ハイル・ヒトラー!!」


 次々と出席者達が総統執務室を退出するが宣伝相ゲッペルスだけがその場に残る。

 ヒトラーもそれを承知して全員が退出したのを確認すると扉の鍵を閉める。


「ゲッペルス君、ライプチヒ提督を呼んできてくれないか?」


 ヒトラーの言葉にゲッペルスは既に読んでいて隣の部屋で待機してもらっていますと言うとヒトラーはそうかと言い、自らその部屋に向かう。


 ヒトラーが隣の部屋に入ると無機質な表情をしている無骨なドイツ軍人に声を掛ける。


「提督、貴官のお陰で短期間で我が国の兵器の性能を格段と上げてくれて感謝しているよ? 流石はアーリア人の末裔だな?」


 上機嫌なヒトラーにライプチヒも立ち上がり頷くが雰囲気が違和感バリバリであった。


「君たちがいたこの世界とは別の並行世界では脳以外は全て機械の体……いわゆるサイボーグだと聞いたのだがその技術はこの世界でも対応できるのかね?」


 ヒトラーの質問に提督は首を横に振りそれは不可能だと答える。


 彼の説明ではこの時代の技術では到底不可能で仮にこの時代でサイボーグを実現するには最低数百年は必要だという。


 ヒトラーはそれを聞くと特に残念がる様子もなくそうかと言いそれ以上聞かなかった。


「提督、私は永遠の命は欲しいが脳以外機械の体はいらないと考えている。人間の三大欲である食欲・性欲・睡眠欲……この欲があるからこそ人間だと私は思っているのだよ」


 ヒトラーの言葉に提督も誠にその通りで自分達が選んだ選択は間違いだったと今は思っていることを言う。


「取り合えず、今は欧州全体をナチスの支配下に置くことが先決と考える。英国を電撃で落としてその勢いでスペイン・ポルトガルを制圧して北欧も手中に収めなければならない。出来る事ならスイスも制圧したいがこちらの被害も馬鹿にならないだろう」


 ヒトラーの言葉を引き継ぐようにゲッペルスが話の続きを言う。


「ロンドンで暗躍しているSSにヒムラー長官経由でオランダやベルギー等の王室の一族をことごとく捕らえるように命令しています。既にハプスブルク家の一族も拘禁拘束しています」


 ヒトラーは満足そうに頷くと自分が考えている案を話す。

 それは戦慄する内容であった。


「欧州全土を制圧すれば欧州における全ての王室に連なる王族全員をギロチンにかけて処刑する! スペイン・ポルトガルもしかり! そのあと、エリザベス王女を私の后としてアーリア人としての大ローマ帝国の復興を宣言して世界唯一の皇帝となり世界をこの手に収めて見せる」


 他の人が聞いたら誇大妄想を広げている狂った総統と思うだろうが当の本人たちを始めとする閣僚たちは本気で思っていて確かにそれを実現できる戦力を持つ。


「だが……私の野望を完遂させるに邪魔な存在がある」


 ヒトラーはコツコツと正面の壁に掛けられているアジアの地図のある国を指さしていまいましい表情で言う。


「極東の小国、日本の皇室だ! あの存在こそが我が野望を妨げるのだ! 日本の皇室の後ろにある高天原における神々を倒さねばならない! 幸いに日本はアメリカと叩きあいしているがそれが長引くようなら尚更、結構だ! その間に欧州・アフリカ・中東・インド・満州を制圧して一気に神の国を叩き潰す。提督もそれに力を貸していただきたい」


 ヒトラーの言葉に提督も首を縦に振って頷くが彼の頭の中に日本の守護神たる存在である伊400潜水艦の事を思い浮かべる。


「(総統閣下の野望を達成のお手伝いを喜んでさせてもらう。その為には日本の守護神を叩き潰さねばならないが今は英国の海軍を殲滅させて英国全土を制圧することが大切だな)」


♦♦


 その頃、サンフランシスコと布哇の丁度真ん中の地点の海上にて伊400が浮上していて甲板艦橋で日下艦長と橋本先任将校が会話をしていた。

 

「どうやらナチスは英国本土上陸作戦、いわゆるアシカ作戦Ⅱを発動するみたいだな?」


 日下は紙コップに入った緑茶を啜りながら横にいる橋本に喋りかけると彼もまた、頷いて予断は許さないでしょうねと言う。


「私の予測だがヒトラーが極東の日本圏に来るのは早くて昭和20年の春ぐらいだと考えている。それまで米国との戦いを終えて日本の兵器の性能を上げることが急務だな」


「艦長、ヒトラーの目的はやはり全世界の皇帝を目指しているのでしょうか?」


「そうだな、どの並行世界へ行ってもヒトラーは全世界征服を考えていたからな? そしてヒトラーにとって邪魔な存在は日本国……いや、正確に言うと皇室の存在だな。もっとも正確に言えば伊勢神宮にある高天原への入り口たる特異点」


「今までなら伊400だけでも圧倒できるのだが……奴の存在があるからな? だが、それでも奴らの野望を叩き潰して見せる! 今回の戦いは……この伊400も無事に済まないだろうと確信している。最悪、轟沈するかもしれないが」


「その時は、奴を道連れにして地獄へ行くという事ですね?」

 二人は顔を見合わせるとニヤリと笑って頷く。


「そういえば……英国は最早、地図上から無くなるのですね?」


「まあ、そうなるな。アシカ作戦Ⅱが発動されれば間違いなくハーケンクロイツの旗がロンドンに翻るだろうね? 奴の技術援助を受けたなら英国海軍も全滅間違いなしだ」


「そうなれば……パレスチナ問題はこの世界では発生しないのですね?」


「いや、そうでもない! ヒトラーはアーリア人以外は下等な生き物と信じているからね? ユダヤもアラブ人も根絶やしする存在だと思っている」


「奴が世界を征服すれば……。それを必ず阻止しないといけない! その役目は我が祖国、日本であってほしいのだが? 石原莞爾閣下や樋口季一郎さんに杉原千畝さんが主導となってくれればいいと思っている」


「そこまで行くには遥かに厳しい道を進まねばなりませんね?」


「そうだ! だから早く米国と早期講和をしなければいけない。その為には、日本が圧勝的に戦局を薦めなければいけないね? では、西海岸に向けて改めて行こうか! この時間ならサンフランシスコに上陸した所かな?」

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