第44話:作戦名『旭日の嵐』

 日本艦隊がサンフランシスコ沖合いに現れたのをオーシャンビーチを始めとする海岸沿いに重防御陣地からも見えていた。


 海岸線の塹壕の中でサブ二等兵は同期のボブ二等兵と会話をしていた。


「見ろよ、ジャップの艦隊だぞ? 凄まじい程、多いな」


「ふん、所詮は物真似しかできない黄色い猿の寄せ集めで野蛮人が造った船なんか怖くもないさ! ジャップが上陸してきてもここを突破することはできないさ」


 二人で軽い口調で話していた所を上官がやってきてお喋りはここまでにしておけと注意をするがやはり彼も極東の端にある日本を完全に舐め切っていたのである。


 その時、サンフランシスコ全体に響き渡るような轟音がする。


「ジャップが発砲したぞ? ふん、当たるものか……」


 その瞬間、三人を始めとする塹壕にいた米兵たちの記憶が途切れる。

 戦艦“武蔵”以下の戦艦の砲弾が次々とオーシャンビーチの陣地に炸裂したのであった。


 その火力は正に数個師団規模の火力であった。


 上空では観測機が飛んでいて距離等を所属の艦に無線を送って修正箇所を報告しておりそれを元に砲撃をするのである。


 “武蔵”艦橋防空指揮所で各戦艦部隊の砲撃を食らった海岸線に展開する陣地が破壊されるのを双眼鏡で見ていた。


「……むう、凄まじい威力だな。俺は戦艦なんか役に立たない木偶の坊と思っていたが陸地に対する艦砲射撃なら最高の兵器だな」


 次々と連続で砲撃を受けて陣地に展開している戦車や兵士が紙切れのように吹き飛んでいくのが見える。


「よし、このままサンフランシスコ湾に突入して沿岸部分の敵陣地を砲撃する! “武蔵”以外の戦艦は三式焼夷弾に変更して火災を起こすのだ」


 観測機の偵察飛行でオーシャンビーチに展開する陣地は完膚なきまで叩き潰されて至る所に巨大なクレーターが出来ていた。


「長官、報告によるとオーシャンビーチの防御陣はほぼ全滅との事です! 機能している物は一切ないと」


「……よろしい! 少々やりすぎたかもしれないがこれで陸軍さんも上陸しやすくなったと思う。念のために空母艦載機で偵察させて上陸に邪魔な存在になるものを掃討しろと送ってくれ」


 伝令員が去っていくのを見送った山本が再び視線を正面に戻すと巨大なサンフランシスコ名物の金門橋が倒壊するのを見る。


「巡洋艦部隊が橋桁を砲撃で潰したとの事です」


「うん、この他にも橋があるからこのまま湾内に突入して全て破壊しろと命令してくれないか? ここから二手に分けて我々戦艦部隊はこのままサンフランシスコ湾を南下しながら海軍工廠や造船所を始めとする沿岸地域を徹底的に艦砲射撃で叩き潰す。巡洋艦及び駆逐艦隊は湾内を北上して沿岸部分を叩き潰してほしい。敵の事は心配しなくてもいい! 我々には軍神が護ってくれているから」


 山本は、陸軍が無傷で上陸出来るように徹底的に障害物を排除することを念頭に置いて行動する。


 普通なら無謀ともいえる作戦だったが上空には“晴嵐”が待機していて邪魔になる航空機等は密かに潰しまわっていたのである。


「ふふふ、光学迷彩とステルスシールドのお陰で両軍から見えないで行動するのは気持ちが良いな」


 操縦席で岩本大佐が不敵の笑みを浮かべていた。


 数百年間もの数々の並行世界を旅している間に“晴嵐”の性能も人智を超えた? 程の性能を誇っていたのである。


 既に小規模の航空基地や滑走路に展開している軍用機を見かけたら破壊しまくっているので完全にサンフランシスコ一帯の制空権は100%日本のものであった。


♦♦


「……ウウッ!! 痛い!」


ボブ二等兵は意識を取り戻すが起き上がる事が出来なかったのである。


下半身が土砂に埋まっているのを確認したので両手で脱出しようとしたが両腕が千切れ飛んでいるのを知る。


「アアアアッ!!? お……俺の……俺の腕が無い!!」


 絶叫が辺り一面に響いたが返答がなく彼が横に目を向けると頭と両足が吹き飛んで絶命したサブ二等兵を見る。


「な……っ!?」


 声にもならない程、変わり果てた同僚の姿を見て初めて体の芯奥から恐怖と言う感情が芽生えてきたのである。


 周辺を見渡すとほんの数十分前には重砲や戦車を始めとする火砲が配置されていたが今は至る所にクレーターがあり粉々になった兵器の残骸が散乱してるだけで原形をも留めていない死体が無数に散らばっていたのである。


「うわああああ!!! 助けてくれ!!!」


 ボブの泣き叫ぶ声は誰にも届かなかったのである。


 興奮が収まると共に両腕を亡くした痛みの激痛が彼を襲ってあまりにもの激痛に意識を再び離してしまう。


 一瞬でオーシャンビーチを始めとする海岸線に展開している重防御陣地が廃墟と化すのを各家から眺めていたサンフランシスコ市民たちはこの時初めて恐怖を覚える。


「ゴールデン・ブリッジが破壊されたぞ!?」

「一瞬で防御陣地が破壊された!?」


 そして、沖合から無数の上陸用舟艇が海岸に向かってくる様子を見た市民たちはパニック状態に陥り我先にと逃げる準備を始めて大混乱に陥る。


「野蛮な猿の軍団が攻めてくるぞ! 捕まったら皮は剝ぎ取られて餌にされてしまう!! 」


 ちなみにサンフランシスコ市長はこの時、不在で州知事に陳情のために離れていたのである。

 

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