第43話:砲撃開始!!

 一路、威風堂々と戦艦“武蔵”を先頭にして砲戦準備に入る各戦艦の主砲塔内ではこれから始まる本格的な事に興奮すると共に煮え切れない気分の二つの感情が交差していた。


「何で俺達、敵艦ではなく地面相手に撃つのだ?」

「血反吐や血尿を垂らしながら歯を食いしばって訓練に明け暮れた結果がこれか?」

「やる気がなくなるな」


 彼らにとって砲撃手と言うのは敵艦と殴り合う為に訓練をしてきたのに地面相手は確かに落胆するが他の意見もあった。


「聞けばその敵艦が太平洋上からすべて消えて砲撃対象がないということだ」


「それを言うと“大和”は幸運だよな? 5隻の戦艦を1隻で撃沈させたというではないか! 真珠湾で同期と再会した時に自慢されたよ」


 そんな愚痴の言い合いをしていた所に上官が米国は日本より遥かに生産力があるから直ぐにポンポンと戦艦が出現するからそれまで我慢だという。


 他の皆は納得してない様子だったが間もなく砲撃5分前の号令がかかると直ぐに気持ちを切り替えてそれぞれの配置につく。


 オーシャンビーチを始めとするカリフォルニア州の海岸は強固な陣地や対空砲を始めとする各種砲が設置されていて通常ならば数週間はかかるであろう。


 防衛軍もそう思っていてそれはサンフランシスコ市民も同じでこれがもしナチスドイツなら一目散に避難するだろうが当時の白人は黄色人種を完全に動物以下とみなしていたので遥か沖合いに海を覆いつくす船を見ても特に恐怖がなく直ぐに追い払ってくれるであろうの考えであった。


 だが、その妄想は幻に終わるのだがそれは後、数十分後の事である。


 一方、日本軍は昨日に航空機からビラを大量にサンフランシスコ市上空へばらまいていて非戦闘民はさっさと逃げておけとのメッセージであったが生憎、市民たちは東洋の野蛮な猿のことと嘲笑っていて誰も行動しなかったのである。


「長官、やはり誰も避難する気配がないとの偵察機からの報告です」

 “武蔵”艦橋でその報告を聞いた山本長官は無銀で頷く。


「(やはりそうなるか、しかし……幸いなことにこの世界では宣戦布告がきちんとされて騙し討ちと言われていないのが幸いだな。あの未来潜水艦の艦長がいた世界でのこの戦いは宣戦布告が30分以上遅れたということで騙し討ちとなりリメンバー・パールハーバーの合言葉で挙国一致で一気に戦時体制に移行して物量で日本を叩き潰したというが今回はそれと違う)」


 物思いにふける山本の耳に戦闘準備完了の報告が入り我に返ると山本は砲撃戦準備と命令する。


 昭和17年10月1日、日本艦隊はサンフランシスコ沖に出現して全砲門をオーシャンビーチに照準を合わせる。


 46センチ砲×9門・41センチ砲×16門・36センチ砲×32門が間もなく火を噴く時間である。


 重巡洋艦部隊は照準を金門橋の橋梁と支柱を狙う。

「各艦から観測機を射出しろ!」


 その命令で各艦船から次々とカタパルトから煮沸されて各々の目標上空に向かっていくがその時、上空を警戒していたゼロ戦隊が敵機の編隊を見つける。


「敵機発見! 野郎ども、行くぞ! ヤンキーに侍魂を見せつけてやれ!」


 サンフランシスコ郊外にある民間等の小型飛行場から予備配備されていた陸軍航空機が迎撃にやって来て総数86機であった。


「笹井中尉、敵機がかなりいますね?」


 中国戦線から転属となった空母“蒼龍”隊所属の『坂井三郎』一飛曹が不敵な笑みを浮かべて無線で言うと笹井からもそうだなと返答が来る。


「全機、突入!! 一機たりとも返すな!!」

 ゼロ戦78機が速度を上げて米国陸軍航空隊に突っ込んでいく。


 通常なら予備燃料を積んでいる胴下にある増槽タンクを切り離すのだがゼロ戦隊はそのまま突っ込んでいったのである。


 その様子を見ていた“武蔵”防空指揮所で山本が呆れた表情で横にいる宇垣参謀長に顔を向けると彼も同じ表情だが世界最強のゼロ戦の性能と搭乗員の技量を信じましょうと言うと山本も頷く。


 この時点で太平洋全域においての米海軍の戦力は、小型艦艇・潜水艦をも含む一隻も存在しなかったのである。


 この様子を伊400司令塔内のモニターで見ていた日下と橋本は間もなく始まるであろう砲撃戦を待ちかねていたのである。


「まあ、この時点ではゼロ戦の圧勝で終わるな? 残念ながら当時の米戦闘機では横綱と幕の内の戦いだ」


「どうやら日本機の編隊の中に坂井三郎がいますね?」


「そうだな、ちなみにやはり岩本大佐の存在は無いそうだ」


「それはそうです、この伊400という潜水艦も私達の存在もないのですから」


 二人が話している内に遂にゼロ戦隊と米国航空隊が激突したのだが僅か5分にも満たない時間の間に全機が火達磨となって撃墜されて日本機の損害は僅か2機という圧勝的完封大勝利であった。


 ちなみに搭乗員も脱出に成功して駆逐艦に拾われて無事である。

 一方、山本長官の下に全艦砲撃準備完了との連絡が入る。

 山本長官は無言で頷く。


「砲撃開始!」


 この一言の命令の数秒後、海上一帯を震え上がらせて天が割れたかのような地響きな音が支配する。


 米国開闢以来、どの勢力からも攻撃を受けなかった米国の大地が今まさに攻撃を受けようとしていた。

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