第四部:米国本土上陸作戦(サンフランシスコ戦①)

第41話:歴史のページが開かれる

 時は少しさかのぼる……

「え……っ!? 上陸地点を変更する?」


 航空母艦“赤城”艦橋で第一機動部隊司令官『角田覚治』中将が参謀から聞いた話の内容に驚く。


「はい、サンフランシスコに変更するとの事で寺内大将から山本長官経由で命令が届きました」


 角田は少しの間無言であったが首を縦に振り了解したと伝えてくれと参謀に言うと敬礼をして艦橋を出ていく。


 日本海軍の指揮系統は山本長官自ら戦艦“武蔵”に乗り込んで連合艦隊の総指揮を執っていて角田は“赤城”“加賀”“蒼龍”“飛龍”の4隻の空母を指揮する。


 日本戦艦部隊の指揮官は『近藤信竹』中将と『栗田健男』中将である。


「まあ、こちらとしては陸軍さんの手伝いをするわけだから敵がいればそれを叩き潰すだけだ。しかしサンフランシスコと言えば西海岸を代表する大都市だな、勿論その周囲には航空基地があるだろうから先ずはそこを叩き潰す必要があるがいずれも山本長官の考え一つだからな」


 角田がそう思っていたころ、陸軍の方でも少なからずの混乱が生じていたが辻政信の説明に反論が出来なかったのである。


「小官が手に入れた情報によると米国本土における殆どの日系移民が不当に収容所に入れられて弾圧されているという。特にカリフォルニア州のサンフランシスコ郊外には数万規模の日系人が収容されていると聞く。そこを解放して共に米国に立ち向かえばかなりの戦力になる」


 結局、辻の説明に反論出来なかった阿南たちはとにかく我々は軍人だから粛々と動くだけだと言ってその場は収まるが樋口季一郎は心の中でそれは違うと思っていた。


「(石原閣下に聞いたことがあるが日系人は祖国たる日本ではなく現在住んでいるアメリカ合衆国に忠誠を誓っていて日系人専用の部隊も編成されているとの事。絶対に我が皇軍に全力を以て抵抗してくるだろう)」


 樋口は数キロ前方に航行している戦艦“武蔵”を見る。

 威風堂々という言葉に相応しい正に浮かぶ鉄の要塞であることが分かる。


「連合艦隊全艦による一斉艦砲射撃は実に爽快だろうな、それは私としても見てみたいものだ」


♦♦


 その頃、南極大陸から北上している伊400司令塔で日下は無線で岩本を呼び出して会話をしていた。


「……成程、まあ詳細が分からない限りその方法は正しいと言えるな? 流石は変人参謀と言われている『辻政信』少佐だな。だが、その思惑は失敗に終わり必ず全力を以て日本軍に立ち向かって来るだろうな。岩本大佐はそのまま“晴嵐”で監視を続けて君の判断で日本軍の手助けをしてほしい。何かあっても全ての責任は私にあるから遠慮なく動いてくれたまえ」


 日下の言葉に岩本は元気な声で了解と返答を送ると無線会話を終了する。

 橋本が先日の事を話すと日下も頷くが奴らの目的は米国だから今回は連合艦隊は元より陸軍には何も起きないだろうという。


「まあ、心配することは三馬鹿のとんでもない命令が心配だよ」

「……確かにそうですね? それはそうとつい先ほど、当艦から3時の方角、130海里に米国潜水艦8隻を探知したとの報告がありましたが?」


 日下は橋本の方を向かずに一言だけ言葉を発す。

「破壊だ」


 橋本は頷くと伝声管を通じてCICに仕留めろと伝える。

 数十秒後、艦首から8本の魚雷が放たれると時速700キロの高速で自動航路で米国潜水艦に向けて爆走する。


 位置をインプットすれば人工知能による判断で食らいつくまで追いかける容赦ない魚雷であった。


 間もなくCICから米国潜水艦全隻を撃沈との報告が入ると日下は頷く。


「……それではこちらも潜航開始とするかな?」

 そういうと二人は艦橋甲板ハッチから司令塔に滑り込むように中に入っていく。


「メインバラストタンク内へ海水注入! 潜航だ」


 艦内全区画にベルが鳴り響くと伊400はゆっくりと海中へ船体を隠していく。

 急速潜航の場合は僅か数秒で海中へ身を隠すことが出来るばかりか一気に深度1000メートルまで降下出来る性能を持つが負荷は凄く核融合炉に影響が出る為に滅多にしない。


♦♦


 サンフランシスコ郊外にある“メアリーズビル”空軍基地から哨戒機“カタリナ”が20機にも及ぶ臨戦哨戒を実施していた。


「キャプテン、ジャップの艦隊がサンフランシスコに近づいていると聞いていますが本当でしょうか? 東洋の猿にそんな芸当が出来るのでしょうか?」


「実際に布哇が落とされているのだから間違いないだろう。ミッチェル少尉、黄色い猿と言えど油断は禁物だぞ? 獅子はウサギを狩るときにでも全力を以て動くというからな?」


 ミッチェル少尉が頷いた時、レーダーに無数の光点が出現すると緊張感が走る。


「間違いないだろうし確かめる必要もなかろう。直ぐに司令部へジャップを発見したと……いや、どれだけの規模か確認するのも必要だな」


 ミッチェル少尉が無線で日本艦隊発見の報告が入った時点で“メアリーズビル”空軍基地の滑走路上には400機にも及ぶ戦闘機と艦爆機及び100機のB-17・25が発動機を回していつでも出撃できる体制が整えられていたのである。


「よし! 前機出撃開始だ、ジャップの船を地獄に叩きこんで来るのだ!」


 空軍基地司令が大声で気合を入れる。

 その時、遥か上空からキ~~~~ンという音が聞こえてくる。

 それは……正に死神が叫ぶ声であった。

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