第40話:閑話③
伊400は一路南下してタスマニア海を抜けようとしていた。
「現在、深度4500メートル・速度60ノットで航行中です。後、6時間後に特異点に到達する予定です」
司令塔の天井から吊り下げられているモニター画面を見ながら報告を受けた日下は無言で頷く。
その表情は硬く、何か憂いごとを心配しているかのようで横にいる橋本も日下の方を見ながら心の中で呟く。
「(この表情時の艦長は絶対、何か不穏な事が起きる前兆と確信している表情だ)」
橋本が日下に声を掛けようと口を動かす寸前、警報音が司令塔に鳴り響く。
「ソナー室です! 本艦に向けて魚雷らしきもの接近中! 速度300ノット、命中まで14秒です!」
「プラズマシールド展開! 念のため、総員衝撃に備えろ!」
日下の命令と同時にプラズマシールドが展開して伊400全体を包み込む。
このプラズマシールドはいかなる物理・光学等ありとあらゆる攻撃を無効化する防御兵器で伊400を無敵とする要因の一つである。
「交わすことができません! 命中です」
全員が万が一の衝撃に備えて何かに捕まっていたが何も起こらない。
直ぐに伊400外部に何が起きたか精査が開始される。
「どうやら……物理的な魚雷ではなく音波兵器の一種です」
「音波兵器……か、何処から発射されたか分かったか?」
日下の問いにソナー室から即、報告が入る。
発射位置が分かった瞬間、その地点にいたであろう何者かは突然、姿を消したようで探知不可能だという事。
「魚雷の方角は正に特異点から一直線にこちらに向かってきた。分かっているのはこの時代の物ではないな?」
「ええ、深度4500メートルで魚雷を放つ潜水艦はこの時代では不可能ですので考えられることは……」
橋本の言葉を引き継いで一段と険しい表情をしている日下が答える。
「どうやら……特異点から別世界より正体不明な存在が迷い込んできたのかもな? 吉田技術長、伊400船体外部に残っている物質等を解析してどこの並行世界から迷い込んだか調べて頂けますか?」
伊400は過去数百年に及んで無数の並行世界を旅していてその都度、その世界の大気や草木等ありとあらゆる存在を記録しているのである。
「了解しました、数十分後には判明するかと」
「うん、よろしく頼みます。在塚機関長、熱核融合出力を200%に増速してどれぐらいの時間もちますか?」
数秒後、機関室から10分間なら大丈夫ですとの報告が入ると日下はそれでお願いしますと言う。
伊400は緊急速度100ノットに増速して特異点に向かう。
「艦長、長年数々の並行世界を旅していますが未だに特異点の詳細と言うか存在そのものが分かりません」
「橋本先任将校、それは私もだ。祭主様なら全てを御存じだと思うが……その特異点と言うかゲートは我々凡人たる人間には到底、理解できない物だろうな? まあ、神々の遺産? オーパーツという所かな?」
10分後、伊400は通常巡航速度40ノットまで減速すると特殊ソナーを全方位に放ち探索開始する。
「艦長、当艦以外に物体の存在、無しですが念のため、次元レーダーをも試みます」
日下が頷くと吉田技術長が司令塔に入ってくるがいつもの陽気な表情ではなく強張った表情である。
「吉田さん、どうやら悪い報告のようですね?」
吉田は頷くと報告書を日下に渡すと彼はそれに目を通すと直ぐに一段と険しい表情になりそれを黙って橋本の方に渡すと彼もそれを読んで目を見張る。
「……凄い由々しき問題ですね、353番目の並行世界から迷い込んできたのか? しかも最悪な事にあの国の潜水艦だとは……」
「U905……ⅥXC型、レーザー核融合動力搭載、20センチ反重力砲ですね? 伊400と充分、タイマン張れる潜水艦です」
その時、ソナー室から連絡が入る。
「針路3-0-0方角に潜水艦らしき存在を探知! 150ノットで北西に移動中です。あ、次元レーダーからロストしました」
日下はそれを聞くとやはりそれはU905だなと確信する。
今度は橋本が憂いた表情で日下に行きつく先は勿論、あの国……ですねと言うと日下も頷く。
「私達と同様に別世界とは言え同じ祖国に手を貸すという事は至極当たり前なのだが現在のあの国の様子から言えば間違いなく鬼に金棒だな?」
「今のヒトラーならあの潜水艦の乗員のいう事を信じるだろうな」
「艦長、もしあの艦と再び遭遇したらいかがしますか?」
「勿論、沈めるとも! 放置すればこの世界が草木一本も残らない砂漠の星と化すだろうからな? 所で特異点の状態はどうだ?」
特異点が存在する地点に到達した伊400は探索を開始したが特に異変は見られなかったので歪みが正常に戻ったと判断するがその前にこの世界に飛び出てきた例の潜水艦を撃沈しなければいけないと誓う日下であった。
「……大欧州ローマ帝国か、全員が改造人間という異質の集団国家で破壊と殺戮のみの狂った国家だったな」
「恐らく生き残りでしょうね? 元の本家は私達とUSA国家連合との共闘で聖帝ヒトラーを倒したというか自滅と言うか? 幸いに大東亜連合国とは無関係でしたのでこの世界でも報復はないと思いますが米国には……」
この一連の出来事を特殊な方法で伊勢神宮祭主様に報告すると同時に“晴嵐”から連絡が入る。
「え……? 当初の予定に反して連合艦隊全軍がサンフランシスコに? あの七光り坊ちゃま大将の気まぐれか?」
日下は盛大な溜息をつくと急いで反転して西海岸に針路を向ける。
* 次話から本編の続きが始まります。
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