第38話:大統領の決意!

 昭和17年初秋に発生した日本戦艦部隊と米国戦艦部隊との激突は米国艦隊の全滅に終わり日本艦隊は死者無しの圧勝で終わり事実上、太平洋上には、米国海軍の姿は完全に駆逐したのである。


 この報告を聞いた大本営は今こそ侵攻のタイミングだと判断して日本の歴史上初めての大規模艦隊が順次、出撃していく。


 連合艦隊が大船団を囲むように護衛しながら威風堂々と米国本土へ向けて航行する様子は圧巻であった。


 各々の駆逐艦は対潜聴音機に耳を澄ませて見張りを厳としていたが既に太平洋上には一隻たりとも米国潜水艦の姿は皆無であったのである。


 日本初陸軍空母“秋津丸”では各師団長が集合して最終確認を実施していた。


 第3師団・第5師団・第7師団・第8師団・第9師団・第10師団・第12師団・第13師団の8個師団その他含めて実に総員15万の兵が米国本土に向かっているのである。


 勿論、それだけではなく中国本土から転身した部隊が順次、米国本土に送り込まれるのである。


 満載状態の輸送船に載せられなかった兵器等は日本海軍の艦艇に積まれていた。


「う~む……実に凄まじい威容だな! 我が無敵たる皇軍の下、軟弱な米国兵なんか恐れるに足りん! 西海岸から進撃してワシントンまで驀進だ!」


 寺内大将が豪快な笑いをした横で牟田口中将も頷いてこの戦いで閣下の威名も爆上がりして日本歴史に残る偉人となりましょうと言うと寺内も喜びながら頷く。


 その様子を見ていた第13師団長『樋口季一郎』中将は無表情をしながらも彼らを心の中で馬鹿にしていた。


「(何がワシントンまでだ。行き当たりばったりの作戦じゃないか! まああの辻正信が参謀長だからな)」


 実は今回の米国本土上陸戦では石原率いる部隊は梯子を下されていたのだが石原の友人である板垣中将の推薦で布哇防衛軍三個師団のうち、一個師団を連れて行かないか? とのことで急遽、樋口季一郎に白羽の矢がたったのである。


 石原は牛島・栗林両名は攻勢より防御戦の方が優れているので強力で有能な戦車大隊を率いている樋口を選んだのである。


「樋口中将、私は今回の米国本土侵攻はかなり難解になると確信している。大敗するという事はないかもしれないが総司令が親の七光りの馬鹿大将で肝心な場面で逃げて責任を取らない牟田口の卑怯者がトップだからな。幸い、貴官は後方に配置されて前線には積極的に出されないと確信している。生きて生き抜くことだけを考えて無傷で布哇に戻ってくることを優先としてくれ」


 石原の言葉を思い出しながら樋口は改めて今回の作戦に参加する兵力の陣容を思い出す。


 第3師団長『本間雅晴』中将

 第5師団長『阿南惟幾』中将 

 第7師団長『梅津美治郎』中将

 第8師団長『今村均』中将   

 第9師団長『板垣征四郎』中将

 第10師団長『山下奉文』中将 

 第12師団長『畑俊六』中将 

 第13師団長『樋口季一郎』中将


 先ず、シアトルを占領してポートランドを経由してサンフランシスコを攻略後、ロスアンジェルスを攻略して西海岸の米軍を殲滅した後、内陸部へ侵攻するという事を思い出していた。


「机上の空論だな、石原閣下の当初の作戦通りにすれば損害も無くいけたのだが」

 

 日本海軍もほぼ全てを出撃させていた。

 戦艦7隻・空母10隻・重巡10隻・軽巡洋艦10隻・駆逐艦50隻・潜水艦25隻という大部隊である。


 その中でやはり布哇防衛軍に配備された艦艇も引き抜かれていて現在布哇方面に展開されている大型艦は、戦艦“大和”・正規空母“瑞鶴”“翔鶴”小型正規空母“鳳翔”だけであったのである。


「(実戦部隊を率いる将軍達は有能な方ばかりだから……石原閣下が恐れるようなことはないかもしれないが? まあ、気宇で終わればいいがね? しかしあの広大な米国本土を全て制圧できると思っているのだろうか? 石原閣下が提案していた作戦を以てすれば早めの停戦が出来たのではないか?)」


 再び樋口は海を見渡すと海面を覆いつくすほどの大艦隊が航行をしている。

 やはり彼も軍人である故、戦いの血が沸き立ち心が高揚してくるのを感じる。


「やり抜いて生きて閣下の下に帰る」


♦♦


 一方、欧州派遣軍の先遣隊がやっとニューヨーク港に到達してアイゼンハワー大将が輸送船から降りてくるとルーズベルト大統領自らが迎えに出ていたのである。


 硬い握手を交わした二人は大統領と共に車に乗り込む。


「将軍、よくぞ帰って来てくれた! 聞いているかもしれないが極東の島国の黄色い猿の軍団が西海岸に殺到してくる。それを迎撃してほしい」


 日本を侮蔑している大統領の言葉にアイゼンハワーはゆっくりと顔を縦に振りながら既に迎撃作戦は構築しているというと大統領は破顔になる。


「三日後、主要将軍達が帰国しますのでそこで作戦を披露します。一人残さず生きて日本に帰すことはないとお約束します」


 アイゼンハワーの言葉に久しぶりに心を休ませることができたルーズベルトは車内に置いてある極上のワインをグラスに注いで彼に渡す。


 二人はカチンとグラスを合わせてそれを飲み干す。

 それから三日後、ホワイトハウスに終結した将軍たちは一同大会議室にまみえる。


「それでは日本軍撃退作戦の概要を話しますが至極簡潔です。日本海軍の艦載機の援護が出来ない距離まで奥深くまで進撃させるのです。焦土作戦をしながら敵に出血を出させて補給路を断ち弱った時、一気に攻勢をかけて殲滅する。それだけのことです。迎撃地点はロッキー山脈を越えた時を考えています」


 アイゼンハワーの言葉に英国陸軍『モントゴメリー』が挙手をして発言する。


「西海岸の諸都市の防衛は放棄すると?」


「いや、州兵を中心に主力以外の軍を日本軍にぶつけて少しでも損害を出させて少しずつ退却しながら奥深くまでおびき寄せる」


 完全な消極的で焦土作戦内容に半分ほどの将軍達が異論を唱えるがアイゼンハワーはそれを一通り聞くが強い口調をもって放つ。


「この作戦はここにおられる大統領も承諾している。焦土作戦によって米国民の憎悪を日本軍にぶつけるのだ! 女性や子供もゲリラとなって日本兵を一人でも多く殺すであろう! それに対抗して日本軍は民間人も手に掛けるであろう。その残虐さに国民も輪に掛けて抵抗する。その憎しみの連鎖によって敵を奥深くまで誘い出して恨み骨髄となった国民も私達と共に日本軍を叩き潰すであろう」


 彼が喋り終わったとき、ルーズベルトが車椅子から立ち上がると大きな声で宣言する。


「これは米国の誇りを掛けた戦いだ! 既に大統領令を発動した! 諸君たちはこの国を護る為、アイクの指示に従うのだ!」


 大統領の鶴の一声に皆は黙り込むと共にアイゼンハワーの指揮に従いますと誓うと彼は満足そうに頷いて再び口を開く。


「作戦名は……“ダウンフォール”!! 殲滅だ」

 その時、廊下からドタドタバタバタと駆け足が聞こえたかと思うと勢いよく扉が開いて秘書官が飛び込んでくるが息も絶え絶えであった。


「何事だ!? 日本が西海岸に上陸したのか!?」


 大統領の荒い言葉に秘書官は首を横に振ると口を開いて内容を言うがその内容に皆が驚天動地の表情である。


「英国王室一家が脱出した輸送機が撃墜されてチャーチルもろとも……死亡!?」

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