第37話:日米砲撃戦②

「敵艦発砲!」

 “サウスダコタ”防空指揮所にいたリー中将はうろたえるなと声を発す。


 何しろ、敵艦の方が口径が大きいのだから当たり前だと。

「所詮は黄色い猿の砲弾など当たるわけ…………」


 その瞬間、リー中将の意識は一瞬で搔き消される。

 “サウスダコタ”に9発の46センチ砲弾が直撃したのである。


 艦首・第一番砲塔・第二番砲塔・艦橋・煙突・中央部・第三番砲塔・艦尾に命中したのである。


 直下型地震が襲ったかのような振動が“サウスダコタ”を襲った瞬間、各砲塔下の弾火薬庫や船底を貫いて爆発したのである。


 凄まじい爆発音と共に三万トン級の戦艦が文字通り爆散して粉々になったのを見て他の乗員達が呆然となる。


 一瞬で司令官を失った米国艦隊の命令系統は少しだけだったが麻痺してしまう。


「な……っ!! “サウスダコタ”が……一瞬で爆散!?」


 先頭艦“ワシントン”艦橋で『リックサイモン』大佐が唖然とした表情で呟くと同時に参謀が生存者なしとの報告をする。


「再び発砲したぞ!」


 かなりの距離であるのに凄まじい轟音が聞こえてくる。

 “サウスダコタ”の後方を航行していた“インディアナ”の周囲に巨大な水柱が立ち上がると共に4発の徹甲弾が直撃する。


 艦橋を粉々に吹き飛ばし艦中央部の装甲を突き破って船底で爆発すると共に機関室にも徹甲弾が飛び込んできて爆発する。


 止めとして第三番砲塔の天蓋を突き破って弾火薬庫で爆発する。

 凄まじい振動と共に艦の後方部が吹き飛ばされて断末魔のうめきとも聞こえる音を出しながら“インディアナ”は沈んでいく。


 流石の他の戦艦部隊も真っ青な表情になるがそこは軍人である故、気を取り直す。


「射程距離内に入りました!」

「全艦、砲撃開始!! 敵をうってやれ!」


 41センチ砲×27門が一斉に火蓋を切って放つと振動で艦が震える。


「米艦隊発砲!!」

 “大和”防空指揮所で弾着観測員が叫ぶ。


 報告を聞いた有賀艦長は微動だにもせず、少しも動くことなく仁王立ちになっていた。

「……外れるさ」


 その瞬間、27発の徹甲弾が“大和”周辺に着弾するが命中した弾は一発もなかった。

 再び46センチ砲×9門が轟音と共に徹甲弾を吐き飛ばす。


 戦艦“ワシントン”艦橋ではリックサイモン艦長がこの下手くそ揃いが! と喚いた瞬間、46センチ砲弾が“ワシントン”艦上に降り注いできたのである。


 命中率100%で全弾が“ワシントン”に命中すると甲板や砲塔の天蓋を突き破って中で爆発する。


 一瞬で艦内は煉獄の炎に襲われると共に乗員は爆発の衝撃や破片等に身体がミンチ状態や各部が千切れ飛んでいき阿鼻叫喚の地獄だった。


 間もなく弾火薬庫に火が燃え移り閃光と共に船体は粉々になって爆発して轟沈していったのである。


 “大和”ではあまりにもの一方的で凄まじい破壊力を誇る46センチ砲に大歓声が沸き起こる。


「たった数分間で戦艦3隻を撃沈するとは! 流石は世界最強の“大和”ですね?」

「ワシントン条約で煮え湯を飲まされたがこれで溜飲が下がるというものよ」


 参謀たちが興奮しながら話している間にも双眼鏡を覗いていた見張り員が叫ぶ。


「敵巡洋艦や駆逐艦が殺到してきます」


 ほぼ全隻の巡洋艦や駆逐艦が怒り狂ったように突進してくるが彼らの船の側面に突如、次々と轟音と共に水柱が立ち上がる。


 “雪風”“雷”から放たれた日本海軍必殺必中の酸素魚雷が次々と命中して巡洋艦や駆逐艦に命中していく。


 通常の魚雷よりも航跡が分からないのもあったが立て続けに3隻の戦艦が葬られたのを見て“雪風”“雷”の存在を忘れていたのであった。


 戦艦“マサーチューセッツ”と“ノースカロナイナ”はあまりにもの凄まじい破壊力を誇る“大和”に恐怖心を芽生えさせた。


「あんな化け物とまともに相手したらこちらも無事では済まされない! 司令官もお亡くなりになられたからこちらも逃げよう」


 “ノースカロナイナ”艦長の提案に他の残存艦艇の艦長たちも頷く。

 “大和”に突入していった巡洋艦や駆逐艦は“雪風”“雷”の魚雷によって速力が大幅に落ちたりそのまま被害を抑えることが出来ずに爆発炎上して轟沈していく艦が多数みられる。


 2隻の米戦艦が舵を切って離脱しようとするのを有賀艦長はそうはさせないとばかり砲撃を続行するように命令する。


 既に両軍艦艇の距離は7千メールであった。


「……残念だったな、最早……逃げることは不可能だ」


 有賀艦長の言葉通り、数秒後に再び“大和”の主砲が火を噴く。

 その数秒後、“ノースカロライナ”は直下型地震に匹敵する轟音と常識外れの振動に見舞われる。


 艦長席に座っていた艦長は椅子から弾き飛ばされて艦橋窓ガラスを突き破ってそのまま落下して構造物にたたきつけられる。


 一瞬に艦長は天に召されたのである。

 勿論、艦橋も無事ではなく中央部構造物を跡形もなく吹き飛ばす。


 巨弾は次々と落下して容赦なく“ノースカロライナ”を鉄屑の残骸と化すと共に弾火薬庫に命中して火柱を上げて真っ二つに折れて轟沈していく。


 最早、統制を失った米艦隊はパニック状態になり各々の判断で現場海域を去ろうとするが“雪風”“雷”の猛攻により次々と力尽きて轟沈していく。


 そして……最後まで生き残っていた戦艦“マサーチューセッツ”にも死神の大鎌が振り下ろされたのである。


 最期の足掻きとばかりに“マサーチューセッツ”の一発の砲弾が第一番砲塔の天蓋に直撃したが何のダメージもなかったのであった。


「……ジーザス……神よ……」


 艦長『ノーラッドクリス』大佐が呆然としながら呟いたと同時に凄まじい振動が襲ってきて破片が彼の後頭部に直撃してそのまま意識を手放すと同時に天に召される。


 水平射撃により“大和”の砲弾が丁度、石の水切りと同じ状態となって喫水線下の装甲に命中したのである。


 いわば46センチ砲弾魚雷といってもいい死神の鎌が機関室とボイラー室を跡形もなく粉砕する。


 乗員は勿論、五体バラバラになって絶命する。


 “マサーチューセッツ”は停止して大火災を起こしていたがダメコンチームも全員が即死してしまい何もできなかったのである。


 間もなく“マサーチューセッツ”は艦尾から沈んでいったのである。


「米艦隊、壊滅を確認しました! 残存艦艇は駆逐艦数隻で煙幕を張って逃走です」

 見張り員の報告に有賀艦長はやっと笑みを浮かべて頷く。

 大歓声の下、有賀艦長は帰還を命ずる。


 勿論、海に投げ出された米国兵を救助したが僅か数10名であった。


 “大和”は布哇へ引き返す為に反転して“雪風”と共に帰還するが“雷”はもう少し索敵を行って帰投することを言うと有賀艦長は了承する。


♦♦


 “雷”が布哇に引き返す為に“大和”が通った航路を外れて戻るときに、煙幕を張って逃走中に力尽きて沈んでいった米国駆逐艦の生き残りの水兵たちを発見する。


「工藤艦長、いかがしますか? ざっと見て数百人はいるかと……?」


 工藤艦長は迷わずに全員救助するように命じると共に艦橋にいた乗員に言う。


「彼らも同じ人間だ! 我々と同じだ! 弱った敵を助けずして正々堂々と戦う事は出来ない! これは武士道に通じる!」


 この言葉で“雷”の乗員達は一丸となって米国兵を救助して最終的に425名にも及び甲板上は鮨詰め状態になっていたのである。


 “雷”乗員の手厚い看護等に米国兵も特に反抗することもなく捕虜収容所がある布哇へ無事に帰還する。


 この行為に石原莞爾は大いに褒め称える。


 勿論、一部始終を晴嵐から送られてきた映像で見ていた日下達も笑みを浮かべる。

「違う世界と言えど工藤艦長は同じ事をするのだな、全く敬服に値する軍人だな」


 そして……この行為が後の戦いに大いに関係することになるのだがそれはまだ先の話。

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