第36話:日米砲撃戦①

 米国海軍戦艦部隊旗艦“サウスダコタ”艦橋では艦隊司令官『ウィリス・A・リー』中将が困惑した表情をしながら横にいる参謀に問いかける。


 偵察機が偶然にも日本艦隊を捉えたのであったのである。


「なんという大きさだ! 主砲も18インチあるな? 正にモンスターと言うにふさわしいが?」


 リー中将の言葉に参謀が心配そうに危惧を述べると彼も首を縦に振るが数に任せて攻撃を仕掛けようというと他の者達も頷く。


「敵の戦力は18インチを仮に持っていたとしてもたった一隻! しかも護衛は駆逐艦二隻だけです! 我が艦隊の全力を以てすれば仕留められると小官は断言します」


「ふむ、だが……半分の戦艦は覚悟しないといけないな。よし、全艦戦闘用意! 配置につけ! 巡洋艦と駆逐艦は砲撃開始と同時に突入して太っ腹に魚雷を叩きこむのだ! いいな、ここでモンスターを沈められれば士気を大いにあげられると共に我々は英雄だぞ!」


 戦艦“サウスダコタ”“ワシントン”“マサチューセッツ”“インディアナ”“ノースカロライナ”の最新鋭戦艦が二列横隊に展開する。


「T字戦法でいくぞ! 黄色い猿相手だがな?」


 リー中将が笑みを浮かべながら答えると参謀たちが笑みを浮かべながら所詮、黄色い猿が造った戦艦ですので命中も悪いでしょうし圧勝ですと言うとリーも頷く。


 この判断は果たして正解かどうかは数十分後に判明する……。


♦♦


 その頃、日本艦隊と言っても僅か三隻であったがそれぞれの任務をしっかりと理解しあって後は戦端を開くばかりであった。


「砲術長、砲撃可能までどれぐらいか?」

「はっ! このままの速度で行けば後13分12秒後に射程圏内に入りますが?」


 有賀艦長はふむと呟くと少しの間だけ考えて命令を下す。


「本来なら距離を数千メートルまで引き寄せて砲撃するのだが今回は1対5である故、射程距離に入った瞬間から砲撃を開始する! それと同時に“雪風”“雷”に突入命令を下す」


 有賀は不思議とこの戦いに不安は一切、なかったのである。

 何か見えない力がこの艦隊を護ってくれる感覚を覚えていてそれは他の乗員達も同じであった。


 布哇沖に浮上していた伊400艦橋甲板で日下と橋本が会話をしていた。

 甲板では自由時間を利用して釣りに乗じている乗員もいる。


「岩本機からの連絡によると間も無く交戦に入るとの事です」


「そうか、詳細な映像を録画してくるように言っているから楽しみだな? まあ、この戦いの勝敗は最初から決まっている。“大和”の一方的な戦いで幕が下りるだろうしそれにあの“雪風”“雷”がいるのだ。岩本には危ない場面があれば援護しろと言っているから何の心配もないさ」


 伊400の数キロ前方を南雲機動部隊第一群が進んでいく。


 第二群と交代して哨戒行動に移るためであった。


「……数日後には出航するとの事で数週間後にはいよいよ米国本土へ侵攻という事だが石原さん達は布哇のお留守番という事で留め置かれたとの事で閣下が怒っておられたよ」


 二人して苦笑いした時、伝令がやってきて、岩本機から始まったとの連絡が入ってきたと伝えに来る。


 日下は頷くと空を見上げる。

「楽しみだな」


♦♦


 同時刻、戦艦“サウスダコタ”見張り員が水平線上に艦影を発見する。


「敵艦発見!! 左15度」

「総員戦闘配置につけ!! 砲戦準備!」


 リー中将の命令により米艦隊は日本艦隊に全砲門を向けることができるT字戦法を展開する。


 だが、水平線上の日本艦隊もまた、針路を変える。

 双眼鏡でそれを覗いていたリーは一瞬、不安を覚えるが直ぐにそれを打ち消す。


「敵戦艦が18インチあろうとも練度が低く所詮は黄色い猿が造った戦艦だ! 全艦であの黄色い猿のお山の大将を地に引きずり落とす!」


 リー中将麾下の戦艦全てが16インチ砲×9門を持ち日本戦艦“長門”“陸奥”とも互角以上に渡り合える強力な戦艦である。


「砲術長、黄色い猿の駆逐艦は放っておいて全艦全ての主砲をあの戦艦に叩き込む」


 この同時刻、戦艦“大和”防空指揮所で艦長『有賀幸作』大佐が双眼鏡で米国艦隊を覗いていた。


「ふむ……敵さんは二列横隊で“大和”と同じく並行に展開したか」


「艦長、敵さんは45門の41センチ砲の一斉斉射で当艦を狙って来るでしょう。この“大和”も流石に無傷とはいけないでしょうが?」


 砲術長の不安な言葉に有賀艦長は笑いながら大丈夫だ! 私はなぜかこの戦いの展開に全く不安がないのだよという。


「艦長! 主砲に徹甲弾を装填完了! 指示を願います」


 伝声管を通じて第一番砲塔から声が入ってくる。

 引き続いて第二番・第三番砲塔からも同様であった。


「照準を確認!」


 照準手が望遠鏡を覗きながら旋回と仰角手に指示を出すと細かな手作業を器用にこなしていく。


「お前たち、いいな? 訓練通りにやればいいのだ!」

「はい!!」


 未だ10代の若者もいて緊張に震える彼らをベテランの士官が励ます。


 46センチ砲弾が各砲塔に押し込められて装填完了のベルが鳴る。


「前列中央の戦艦を狙うのだ! 恐らく指揮艦が乗る“サウスダコタ”級だ!」


 双眼鏡を見ながら砲術長が落ち着いた声で答えると有賀艦長も頷く。

 発射準備のベルが鳴り響くと共に発射ボタンを次々と押す。


 世界初の46センチ砲の咆哮が辺り海面に鳴り響くと共に9発の必殺必中の徹甲弾が放たれた。

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