第35話:風雲再び!
昭和17年初秋の9月2日、日本本土から史上最大規模の大輸送船団とそれを護衛する連合艦隊が布哇沖へ到達する。
実に1000隻を超える日本の国力限界の兵力であった。
「……むう、海を覆いつくすというのはこんな事だな! 生まれて初めて見たな、ここまでの大規模の船団を」
潜水空母“伊400”の指令塔内にて石原莞爾が呆れた表情で偵察ドローンにより映し出されている船団の映像を見ながら呟く。
「そうですね、ちなみに閣下も前世の事は覚えていらっしゃると思いますが日本本土に来た米国船団の規模はこれの何百倍でしたからね?」
超チート装備の塊となった伊400の初陣であった日本本土決戦での戦いを思い出していた。
「……そうだな、しかしあの船団がここまで無事にこれたのは貴艦と別世界から来た海上自衛隊の力によって太平洋全域の米国潜水艦を全て潰してくれたお陰である」
「しかし……よく大本営が中国大陸から精鋭部隊を米国侵攻作戦に転進させるという事をしましたね?」
今回の作戦のため、中国本土に駐留していた100個師団のうち、60個師団を本国に帰投させたのである。
「数か月前の札幌空襲でこれはいかんと真っ青になって急遽、決まったと聞いているがはっきり言って心配だな」
石原は今回の米国本土侵攻作戦の総大将が寺内大将で参謀として牟田口中将及び辻中佐であることに辟易していたのである。
「しかもあの卑怯者の富永も航空隊司令官として来たと言うではないか! 陸軍無能三大馬鹿が率いる事になるとは」
石原の言葉に日下も頷く。
先の三人の悪行は両名とも、嫌というほど知っていたからである。
「まあ、不幸中の幸いと言うか実際に進軍する師団の中には、山下大将・本間中将・畑大将・梅津大将・阿南大将がおられるからな? あの無能連中も無下には出来ないだろうがね?」
石原の言葉に頷いた日下の所に情報班の担当員が一枚の紙をもって日下に渡すと敬礼して再び戻っていく。
日下はその報告書に目を通すと黙って石原に渡す。
石原もその内容を読んで眉をしかめる。
「米国が欧州派遣を完全に放棄して全軍を米国本土に帰還させることを決定して計算によると半年後には欧州派遣軍50万が戻ってくると……」
「アイゼンハワーやパットンにブラッドレーですね? しかし米国の本気になったことを考えると半年以内には西海岸に展開してくると考えたほうがいいと思いますがパナマ運河は晴嵐で完膚なきまで叩き潰しましたので西部鉄道で運搬するということですね」
日下と石原がこの内容について思い更けていた時に通信班員がやってきて南雲中将から通信が入り、その内容について話したいので両名とも“瑞鶴”まで来てほしいという事を伝えに来る。
日下と石原は頷くと了解したと伝えてくれと言うと石原に行きますかと言う。
それから数分後、二人は南雲が派遣した二式水偵二機の機上の人となって“瑞鶴”に向かっていく。
♦♦
その頃、日本本土から派遣されてきた大艦隊が布哇沖に次々と⚓を下す。
勿論、輸送船に搭載している兵器は米国西海岸に上陸させるので積んだままである。
南雲と会談を終えた石原が布哇司令部に戻ると間もなく寺内大将以下の各将軍たちがお見えになるという事を聞く。
「やれやれ、私を嫌っている殆どの者達とご対面と言うわけか……」
石原の本心からくる嫌な言葉に横にいた樋口・牛島・栗林中将もなんと声を掛けていいか分からなく黙っていた。
「ふう、まあ……清水寺の舞台から飛び降りる気分で行って来るか! 君達はそれぞれの持ち場に戻ってくれないか? どんな嫌味を言われるか分からないぞ?」
そういうと石原は布哇司令部の入り口に移動する為、執務室から出ていく。
三人はお互いに顔を見合わせると無言で頷いて裏口から出ていく。
石原が覚悟した通り、寺内を始めとする各師団長との顔合わせは最悪な展開になり建設的な話は出来ずに終わり無駄に疲れただけであった。
しかも石原が辟易した一つに寺内・牟田口・富永の三大馬鹿がわざわざ芸者を連れてきていてオワフ島の日系料理店でどんちゃ騒ぎを始めたのであった。
溜息をついていた石原の元に数少ない友人の一人である阿南大将がやってきて御苦労さんと労ってくれる。
「阿南閣下も大変ですね? まあ、向こうに行っても閣下たちがおられるので無茶なことはしないと思いますが?」
♦♦
その頃、布哇防衛兼偵察艦隊旗艦超戦艦“大和”偵察機が米国戦艦部隊を発見する。
「……くっ! 何とタイミングが悪いのだ! 空母が一隻もいないばかりか随伴が駆逐艦二隻だけとはな」
大和艦長『有賀幸作』大佐がしかめっ面をしながら電文内容を見ながら喋る。
参謀が艦長から内容を伺うと戦艦5隻・巡洋艦8隻・駆逐艦12隻の大部隊からなるという事であった。
「敵さんは16インチ砲ですがこちらは18インチありますのでアウトレンジで攻撃できるのでは?」
有賀がまあ確かにそうだが駆逐艦をはじめとする小艦艇を仕留めるためには魚雷戦が必要だという。
「艦長、“雪風”と“雷”から発行信号です! 内容は我ら僚艦で切り込み隊長として突撃するとの事です」
駆逐艦“雪風”艦橋では艦長『寺内正道』中佐が陽気な表情をしながら突撃するぞと言うと艦内から歓声が沸き起こる。
同じく駆逐艦“雷”艦橋でも艦長『工藤俊作』中佐が仁王立ちになりながらこれより“雪風”と共に突撃することを館内放送で伝える。
日本艦隊は僅か三隻であったが士気は怒髪天を超えるほどである。
ちなみに戦艦“大和”上空に岩本が操縦する“晴嵐”が護衛として飛んでいたのであるが勿論、彼らは知らない。
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