第三部:米国本土西海岸上陸戦前哨戦(海中・海上での決戦!)

第34話:巨頭集合

 昭和17年8月6日、布哇諸島マウイ島沖合にて伊400甲板上では全乗員が整列して日本の方角を向いて黙祷していた。


 それは勿論、並行世界での日本の広島と長崎に投下された世界初の原子爆弾で数十万の犠牲を出して亡くなった人達に対する黙祷であった。


 黙祷が終わると日下の解散の号令で艦内に戻っていく乗員達であったが橋本先任将校と吉田技術長はそのまま残っていて三人だけになると日下が話し始める。


「昨日、石原閣下から本国で決まった作戦要綱が送られてきたが米国本土上陸作戦を主としたことの事だ」


 日下の言葉に橋本は彼の表情が浮かないことを察知してその内容はあまりよくないとの事ですね? 問うと日下は苦り顔で頷く。


「石原閣下も頭を抱えていたが米国本土侵攻総司令官として『寺内寿一』元帥・各師団長を統括する軍団長は『牟田口廉也』大将・陸軍航空隊司令官『富永恭次』大将・参謀長として『辻正信』『瀬島龍三』だそうだ」


 日下の言葉に橋本も吉田も唖然とした表情を暫く浮かべていたがやっとショック状態から覚める。


「……無能も無能揃いではありませんか! 卑怯者を含み馬鹿×3人……いや、辻達も含めて殲滅されに行くだけではありませんか?」


「しかし……無能卑怯馬鹿の配下に山下将軍や今村将軍に阿南将軍・梅津将軍といった蒼々たる人材がいるが年功序列に厳しい陸軍としては非常に不明だな?」


 日下の疑問は最もであったが陸軍大臣の鶴の一言で決定となり、海軍についても海軍大臣も陸軍と争うのは特ではないと決断して何も言わなかったのである。


「話は変わりますがナチスドイツの勢いは我々が知っている歴史とは大違いですね?」


 橋本の言葉に日下も頷くと石原莞爾から聞いた情報を思い出していた。


 コーカサス油田地帯を放って全軍一丸となってモスクワを占領する作戦をとるとは聞いた時、信じられなかったのである。


「……もしかしたらヒトラーも何かの拍子で前世を生きた別世界の事を思い出したのかもしれないな?」


「どうなりますか? これからの情勢は?」


「ソ連の残党を殲滅させてウラル山脈の西方全てを手中に収めようとするだろうね? それが終われば全軍をもって英国に侵攻と言うわけだ。時期としては今冬かな?」


 日下と橋本の会話を聞いていた吉田がそれでは世界は混沌となるのでしょうねと言うと二人も頷く。


「ナチスの英国侵攻前に日本も西海岸上陸作戦を実施と言う所かな? 最もその時には欧州派遣軍を全て戻った戦力で重防御陣地を築かれた所に突入かもしれないな。 時期としては今秋かな?」


 三人の会話が一瞬、途切れた時、伝令員が今しがたオワフ島から石原大将がこちらに向かっているという事を報告してくる。


「到着まで7分か、まあ米国本土決戦についてだろう。今日の天候は最高日和だから甲板で席を設けて迎えるとするか」


 そういうと日下は伝令員に倉庫から最高級のラムネを持ってくるように言うと彼は敬礼をして艦内に戻っていった。


 そしてきっちり7分後、石原が搭乗した二式飛行艇が伊400の傍に着水すると軍服を着た石原が南雲中将と共に出てくる。


 伊400の甲板に上がった石原と南雲は日下と橋本とお互いに握手をする。


「陸海揃って来るのは珍しいですね?」


「この布哇においてはお互い一蓮托生と考えているからね? 常に連携しないといけないと思っている」


 二人の言葉に日下もウンウンと頷くと冷たいラムネを御馳走しますと言い、甲板に即席の椅子とテーブルが設置されてそこに二人を案内する。


 二人が着席すると日下と橋本も着席すると補給科の乗員がピッチャーにたっぷりと入っている冷たいラムネをグラスに注いでいく。


 四人のグラスにラムネを注いだ乗員は一礼をして艦内に戻っていく。


「さて、先ずは観光名所のマウイ島を見ながら乾杯と行きましょう」


 お互い、グラスをカチンと当てて乾杯と言って一気に飲み干す。

 健やかな炭酸と甘みの見事なハーモニーに二人も満足に頷く。


「いや~、“赤城”でもこんなに上手いラムネを飲んだことはないね。極上だ」


 四人は暫くの間、たわいもない話で盛り上がったが日下が突然、ここにやってきた理由を聞くと二人も真剣な表情になり姿勢を正して内容を話す。


 二人の話は実に二時間にも及びラムネのグラスを5杯は開けていた。


「米海軍の最新鋭戦艦部隊が出撃したというわけですね? 戦艦“ワシントン”“サウスダコタ”を始めとする少なくとも6隻の41センチ砲を積んだ戦艦ですか。確かに脅威ですね? しかし恐れることはないのでは? 46センチ砲9門を積んだ“大和”を出撃させると共に護衛艦“いせ”“しらね”の援護付きであれば余裕かと?」


 日下の言葉に南雲は確かにそうなのだが様相が少し変わってきて山本長官は“いせ”と”しらね“を本土防衛に配置したいとの事を言ってきたことを話す。


「……まあ、理屈は叶っていますね? 何しろ、本土を爆撃されて札幌時計台が破壊されたのだからな。……となるとこの伊400と“晴嵐”の出番ですか」


「ええ、日下艦長にはお手数を掛けますが潜水艦を専門として駆逐してほしいのです。恥ずかしながら手許にある駆逐艦だけでは心ともないので」


 南雲の申し訳なさそうな表情を見て日下はにっこりと笑みを浮かべると承知しましたと言い、輸送船一隻も傷つけさせないという。


 感謝する南雲を石原は頷きながら見ていた。


 そしていよいよオワフ島に戻る時間になり石原と南雲が席を立つと日下は疑問に思っていたことを尋ねる。


「所で先程の話ですが閣下の部隊は完全な独立部隊として動くことが許されているばかりか他の将軍からの干渉を受けなくてもいいと聞きましたがそんな特別な事をどのようにして?」


「ああ、それは伊勢神宮の祭主様にお頼み申した。前世の記憶を取り戻した時、真っ先に伊勢神宮に行き全てを話した所、祭主様直々に裕仁陛下と対面できるようにしてくれたのですよ。そして陛下より直々に勅命として委任状を賜ったのだ」


 石原の言葉に日下達は流石ですと称賛すると石原も笑みを浮かべてお礼を言う。

 二式飛行艇に二人が乗り込むとき、石原はふと何かを思いついて日下のほうに顔を向けて喋る。


「私の感だが……日本の最終の敵はナチスドイツだと思う。その時の世界はナチス以外の国と同盟して盟主として日本の責務が果たされると」


 そういうと二式飛行艇の中に入っていく。

 そして数秒後、轟音を上げながらプロペラが回転していく。

 飛行艇はゆっくりと水面を走りながら徐々に速度を上げていき無事に離水する。


 日下は飛行艇が見えなくなるまで見送ると橋本にそれではこちらもやるべきことをやるかと言うと彼も頷く。


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