第30話:日本艦隊出撃
昭和17年春頃に時計の歯車を回す……。
布哇方面“南雲機動部隊”に待望の援軍と言うか新たに支給される艦船が真珠湾に入港する。
「おお~っ! でかいな、あれが……大和か! 四十六センチ砲×九門って……化け物だな! 後ろにいる戦艦“金剛”“榛名”が小さく見えるぜ」
空母“瑞鶴”甲板にて乗員達が手を振って大和以下十一隻の艦船を盛大な拍手で迎える。
布哇方面軍最高司令官『石原莞爾』陸軍大将も甲板上で呻き声をあげながら大戦艦に見惚れていた。
「山本長官は約束を守ってくれたようですね? 南雲さん、空母もいるが正規空母なのかね?」
石原の横にいる南雲は、首を横に振りながら説明すると石原は成程と頷く。
「客船を改造した空母“隼鷹”に同じく改造した小型空母“祥鳳”です、戦艦“金剛”“榛名”“重巡洋艦”高雄“”筑摩“”に新型戦艦“大和”、そして駆逐艦五隻の十二隻ですね。主力空母はやはり南方作戦や豪州遮断作戦を展開する為に必要なのでしょうが私にとっては空母二隻が増えたことは作戦が立てやすいです。それにあの戦艦“大和”は世界最強です!」
南雲の言葉に石原は米国の機動部隊が出現した時には“大和”も出すのかなと聞くと南雲は否定して真珠湾を守護する海上移動要塞として運営する事を言う。
「まあ、敵戦艦部隊が出て来たときには……“大和”も出撃させますが航空機の波状攻撃には戦艦は太刀打ちできませんからね?」
♦♦
そして月日が経ち、未来の別世界から漂流してきた海上自衛隊護衛艦“いせ”“しらね”の両二隻を新たに編成させた時期にベーリング海に米国機動部隊発見の報告を受ける。
護衛艦“いせ”と戦艦“大和”に駆逐艦四隻を真珠湾防衛に回してその他の全艦艇に出撃準備の指令を発令する。
その準備中に石原がやってきて困った表情で南雲に近々、太陽フレアー異常による地球規模の通信障害が発生するかもしれないと伊400から連絡が入った事を伝える。
「……通信障害ですか? しかも地球規模と言うと……米国も同じ状況だという事ですね? 敵のレーダーが完全に使用できないと考えれば我が軍にとって有利な状況と言えるが……?」
「だが、敵を発見できたとしても通信手段が無ければ位置を送る事も出来ないが何か対策を考えないといけないのでは?」
南雲と石原は海上自衛隊の上級将官をも参加させて会議及び対策を考えたが中々、答えが出なかったが苦肉の策としてリレー方式を採用する。
「一番先頭の索敵機が敵を見つけた場合、目視による計測と共に後方に配置している偵察機に引き継いでそのままずっと繰り返せば母艦に伝えることが出来る。まあ、本当に面倒な事だが?」
南雲の提案に他の者達もう~んと首をひねりながら他にも考えるが結局は代案が浮かばなかったのでその意見を採用する事にしたのである。
「まあ、これも敵さんも同じ事だから……後は提督達の個々の能力の勝負だな」
石原の言葉に参加者達は無言で首を縦に振る。
そして出撃編制が発表されて出航が明後日の0600時となる。
その最中、彼らの下に伊400から連絡が入り札幌市が敵機一機による自爆により時計台が破壊された事を伝えると共に敵空母から離艦した爆撃機は全機撃墜した事と爆撃機を運んでいた空母“ホーネット”以下七隻の艦船を轟沈させたとの事。
その報告に石原は一安心したが時計台の破壊に巻き込まれた市民がいるのかどうかは分からないという。
「ふむ、その件についてはこの私に任せてもらおう。それより……大本営はどう動くのかな? もしかすると報復として私達とは別に師団を編成して西海岸都市に上陸をかけるとか……ありうるな」
石原の言葉に南雲も頷くとそうなれば今後の動きがちと複雑になり下手すれば布哇方面に駐留している三個師団が引き抜かれるかもしれないという最悪な事が彼の頭の中で浮かび上がる。
「……山下閣下や板垣とか一流の指揮官が来れば万々歳なのだが……牟田口みたいな馬鹿な奴が来たら最悪だ」
石原の言葉に南雲は未だ決定事項ではないので焦りは禁物で無線とか使えなければ計画自体が練られないのかもというと石原ははっとなって南雲に礼を言う。
「全く……だ、色々な考え事が先行したようで申し訳ない。今は米海軍撃滅の事だけ考えるべきだな。それに……だ! 伊400は無線障害等には関係ないとの事だから彼等にも協力してもらおう」
♦♦
そして……明後日、真珠湾出航時間が迫ってきていた。
真珠湾港外には第一群機動部隊が勢揃いしている。
第二群も真珠湾口に単縦列で五ノットの速度で進んでいた。
総旗艦は正規空母“瑞鶴”で『南雲忠一』中将が乗艦していて群司令官をも兼ねていた。
正規空母二隻・改造空母一隻・小型空母一隻・戦艦四隻・重巡・軽巡は全隻・駆逐艦は五隻を残して全艦出撃するのである。
そして、護衛艦“しらね”も出撃する事になり先導を務める大役であった。
出港定刻になった時、出港ラッパが高らかに真珠湾に響き渡る。
勇壮かつ重厚溢れる軍艦マーチが演奏されて日本海軍艦艇が次々と抜錨してゆっくりと進み始める。
石原を始めとする各師団長及び布哇防衛艦隊として残存する艦船の乗員達が手を振っている。
護衛艦“いせ”の甲板上に石原以下の将兵達が敬礼をして見送る。
「賽は投げられたか、正にルピコン川を渡ったが……」
「大丈夫ですよ、私の勘ですが勝利すると思っています」
「うん……そうだな」
石原はそう言うと“いせ”の後ろに停泊している巨大戦艦“大和”を見上げながら心の中で大丈夫だと確信する。
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