第29話:進撃の魚雷!

 僅か数分で十四機のB-25を撃墜されたドーリットル隊は雲海の中に入ったがあまりにもの惨劇に誰も口を開くことは出来なかったのである。


 一番機と四番機の二機は雨雲の中に突入して激しい雨粒が風防に叩きつけられていた。

 ドーリットル以下全員は沈黙状態であった。


 難しい任務で大部分が未帰還となるであろうとは覚悟していたがまさか敵と出合って直ぐに壊滅したという事が信じられなかったのである。


「……何なのだ? ジャップの戦闘機の性能は……?」

 二機のB-25は全速力で札幌市に向かっていてそれを晴嵐が追う形となっていた。


 ドーリットルの言葉に機長が間も無く札幌上空に達しますと喋った時、四番機が突如、火を噴いて上空で爆散する。


 先程、編隊を潰滅させた戦闘機二機が迫ってくるのを確認した時、ドーリットルは非情な覚悟をする。


「ここは札幌上空だな? 機体を急降下させて体当たりする! 皆、祖国に帰せなくてすまない! 天国で懺悔する」


「何、言っているのですか? お供します! どうせ脱出できたとしてもジャップに無残に殺されるのは分かっていますからね?」


 B-25一番機は既に急降下態勢に入っていてそれを目視した岩本とルーデルは判断に苦しんで一旦、急上昇して急行下態勢に移行した僅かの間にフルスピードで急降下していくB-25がやろうとしている事に気づく。


「お……おい! 閣下、あいつ……もしかしてこのまま体当たりするつもりでは?」

 岩本の大声にルーデルも頷く。


 二機は急降下態勢に入りB-25を追いかけると照準範囲に捉えることが出来た。

「くたばれ!!」

 岩本が三十ミリ機関砲のトリガーを引くとドンドンと強烈な振動と共に放たれる。


 三十ミリ機関砲弾はB-25の主翼を吹き飛ばして操縦席にも弾丸が入り爆発する。

 ドーリットルはその衝撃で両手両足を吹き飛ばされて床に叩きつけられる。

 操縦席は地獄の様相で全員がバラバラになって鮮血が飛び散っていた。


 薄れていく意識であったが最後に風防の割れ目から下を覗くと大きな時計塔が見えたのを確認する。


「…ふっ! 米国の誇りを舐めるな!」

 それが彼の最後で意識が無くなりその瞬間、札幌時計台に激突して爆発炎上する。


「くっ!! 札幌時計台が……破壊された!」

 岩本の悲痛な叫びにルーデルもほぞを噛みながら炎上している時計台を見た。

 B-25に搭載していた爆弾全てが誘爆したようで札幌時計台は原型を留めない程、破壊されていた。

「岩本! 取り敢えずは成功したのだ、母艦に帰投しよう!」


 ルーデルの言葉に岩本は悔しそうな表情をするがそうだなと言い、二機の晴嵐は急上昇して母艦に向かう。

 伊400では、札幌時計台が破壊されたことの通信を受け日下は静かに頷く。

 乗員の中には札幌市出身もいて時計台が破壊されたことを聞くと悲しそうな表情をしていた。

「まさか米国が特攻の真似をするとは……な! しかしこれでこれ以上の被害は出ないであろう。そして魚雷も間も無く命中する頃だ」


 日下と橋本が腕時計を見るとお互い顔を見合わせて頷く。


♦♦


 一方、空母“ホーネット”を基幹とする艦隊は一路、全速力で北方に向かっていた。

 艦橋では艦長以下幕僚達が集まって会話をしていた。


「大佐からの報告はないのかね? そろそろ目的地上空なはずだが?」


「すみません、気象班からの報告で太陽の異常で大規模通信障害が発生していて何処とも連絡が取れません」


 その言葉が終わった瞬間、突如……凄まじい震動が“ホーネット”を揺るがしたかと思うと艦橋を始めとする船内にいた殆どの乗員が即死する。


 船体下部で爆発した誘導魚雷は格納庫内に保管していた爆弾や魚雷、航空機燃料が一瞬にして誘爆を起こすと同時に各区画の防壁扉が吹き飛んでそれが凶器となって乗員達に襲いかかる。


 そして、“ホーネット”は真っ二つに折れて一瞬で轟沈したがそれを皮切りに他の随伴艦にも次々と魚雷が命中する。


 重巡“ヴィンセンス”軽巡“ナッシュビル”駆逐艦“グウィン”“グレイソン”“レディス”“モンセン”給油艦“シマロン”は例外も無く退艦する暇もなく瞬時に爆沈したのであった。


 その様子を無人戦闘機“晴嵐”で見ていた日下は無言で頷く。

「艦長、どうやら成功しましたね? 後は南雲さんの力量ですが……」


 橋本の言葉に日下が振り向いて何か喋ろうとした時に航海科の乗員が速足で入ってきて急報を届けに来る。


「……太陽フレアーの大異常で地球規模の無線通信障害が発生しただと? 布哇方面にも連絡が取れないか……。晴嵐とはどうだ?」


「はい、岩本機と魔王機とはメリット5で通話可能です!」

 日下は収容予定地点の緯度と経緯を二機に送るようにと言うと針路を布哇方面へ向ける。


「今の南雲さんなら無線が使えなくてもスプルアーンス提督を撃ち破ると信じている」


「折角、護衛艦“しらね”も出撃したのですがあまり活躍は出来ませんね? 自慢の水上レーダーや対空レーダーも使えないとなるとヘリだけですがそれも通信手段がないので」


 伊400は晴嵐収容地点まで速度四十ノットの高速で水中を航行している。


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