第28話:B-25迎撃

 話を三月前に戻し……


 アメリカ合衆国ホワイトハウス大統領執務室にてルーズベルト大統領はある書類を舐めるように熟読している。


 ハワイを落とされて西海岸最大の海軍基地を叩き潰されてルーズベルトは非常に焦っていた。

 アメリカ合衆国開闢以来、本土攻撃をされなかったがその伝説も終わり現在、国内状況は混乱を招いていた。


 時に頷きながら、時には何か考えて書類を読んでいたがようやく終わったようで顔を上げてキング作戦本部長に問いかける。


「……賭けでもあるが……やってみるか! 直ぐに取り掛かれ」

 大統領令で直ちに立案計画が立てられて僅か一月で出来上がり直ぐに訓練にとりかかり僅か数週間で準備が完了する。


 米国最大規模軍港ノーフォーク基地で正規空母“ホーネット”甲板上に16機のB-25が所狭しと並んでいた。


「壮観な眺めですね? スプルアーンス中将」


 頭が禿げた中肉中背の大佐の階級をつけた人物が横にいるスプルアーンス中将に問いかけると彼も頷いて答える。

「ドーリットル大佐、この任務は片道出撃と同じだ、一応は爆撃に成功した後、ソ連の空軍基地に向かう事になっているが……」


 そこまで言うとドーリットル大佐は首を横に振って笑みを浮かべて大丈夫です、必ず生きて戻って勲章を受け取る事を言うと二人は笑う。


「出撃は明朝0700時だな、私は空母“ヨークタウン”“ワスプ”“ラングレー”の三隻の空母を引き連れてベーリング海峡を通過して日本海軍を撃滅する!」


「提督、お互い武運を祈ります」


 固い握手をしたスプルアーンスは数分後に“ホーネット”から退艦する。


 それから明朝0900時、スプルアーンス率いる米国機動部隊は濃霧が一帯を支配するノーフォークから次々と出港する。


 空母三隻、重巡四隻、軽巡七隻、駆逐艦二十隻、輸送艦五隻である。


 ドーリットル大佐が乗艦する“ホーネット”はその二時間前に既に出航した後であった。


「……しかし、日本の空母は六隻だと聞いた、日本本土からも恐らく続々とハワイに集結してくるはずだ! 我が艦隊は全艦海の藻屑となるかもしれないが少しでも時間が稼げれば戦時体制が完了して直ぐにでも大逆転できる」


 旗艦である正規空母“ヨークタウン”の全部甲板上で視界が見えない海を見つめていてそれを見た他の幕僚達も改めて心を一致する。


♦♦


 そして……約三月後、“ホーネット”を基幹とする艦隊はベーリング海峡を抜けてカムチャッカ半島沖を航行していた。


「ドーリットル大佐、出撃は明朝0600時だ! 幸いにも哨戒行動をしているであろう日本潜水艦等に発見されずにここまで来たのは神の加護だと思う」


マッコリー艦長とドーリットル大佐は固い握手を交わす。

今日は出撃前の宴会という事で大いに盛り上がった夜であった。


 翌朝、0600時になると甲板上に待機していたB-25の発動機が回転してゴウゴウと音を鳴らしていた。


「良い音だ! こいつらも今日は御機嫌でいつにもましてエンジンも絶好調だ」


 ドーリットル大佐を始めとするB-25の乗員達が続々とB-25に乗機する。


 管制室からGOサインが出ると先頭のB-25が動き出したかと思うとそのまま僅か数メートル進んだところで機首が上がり見事、離艦に成功する。


 歓声が上がる中、次々とB-25が舞っていき無事に全機16機が出撃していった。

「頼みますよ、大佐!」


 見る見るうちに小さくなっていくB-25の編隊を艦橋から敬礼しながら見送った艦長であった。


♦♦


 離艦したB-25編隊は一路、千島列島を南下していく。


 先頭を飛行している隊長機内ではドーリトッル大佐がコーヒーを飲みながら海図を広げていて確認していた。


「後、三十分で釧路市上空か! そのまま高速で札幌市に爆弾を落としてソ連領に突っ込んでいくのだ。厳命だ! 絶対に爆弾を投下したら何があってもそのまま逃走だ」


 大佐の激励等で士気が増大しているB-25の編隊はやっと釧路市上空に到達するが迎撃機は一機も上がっていなかった。


「拍子抜けだな、ジャップは油断しすぎだ! このまま札幌に突入だ!」


 五番機のフレイ機長が笑みを浮かべた瞬間、突如凄まじい震動が機体を襲うとバランスが崩れて見る見るうちに急降下していく。


「な、何事だ!?」

 彼が後ろを振り向いた時、後部が吹き飛んでいてその瞬間、彼の意識は途絶えてしまう……。


 機関砲の弾が彼の眉間を砕いたからである。


 次々と他の僚機が爆散していくのを先頭機であるドーリットル大佐はパニック状態に陥っていた。


「何が起こっているのだ!? 正確な情報を!」


 このB-25の編隊を攻撃したのは勿論、伊400艦載機であるルーデルと岩本が操縦する二機の“晴嵐”であった。


「ふうう、やっと追いついたぜ! ガーデルマン、行くぞ! 全機撃ち落としてやれ! 岩本に負けるな」


 ルーデルが操縦する“晴嵐”が信じられない旋回行動をしながら三十ミリ機関砲をぶっ放すとB-25が一撃で木っ端微塵に破壊されて地上や海上に墜ちていく。


 僅か数分も経たないうちにルーデルと岩本は十四機のB-25を撃墜したが残りの二機は低気圧の関係で低空に降りていた雨雲の中に突入して姿を見失う。


「ふん、無駄だな! 魔王閣下、このまま行くが一機ずつだぞ? 独り占めはよくないからな?」


 岩本の問いに魔王は風防から親指を立てて頷く。


「ほんまかいな?」

 溜息をつきながらも二機の“晴嵐”は雲海に突入する。


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