第27話:攻撃開始

 昭和17年5月12日、伊400はカムチャッカ半島・占守島付近沖合10キロの海上に浮上していた。


 数十分前に日下艦長が無人戦闘機“晴嵐”を射出させて周囲の偵察を実施するように命じて現在に至る。


「艦長、何を考えているのですか? まさかこの付近に米国機動部隊が出現すると思いですか?」


 橋本先任将校の問いに日下艦長は艦橋甲板から双眼鏡で周囲の海上を見ながら静かに頷く。


「……すると……米国の目的は本土空襲……? ですか……」


「うん、ただ全隻で行動するとは思わなくて空母一隻だけだと思うのだが? やはり主目的は南雲機動部隊の撃破だろうからね? 司令官がレイモンド・スプルアーンス中将だろうから慎重に行動すると思う」


「……だとするとやはり史実と同じ正規空母“ホーネット”に積んでいるB-25が16機搭載されていると?」


「そう睨んでいるのだがね? もしかしたらそれは一切なく全兵力で南雲機動部隊に立ち向かう事もあるだろう。ま、晴嵐からの報告を待つしかないな」


「ちなみに発見すれば……?」


「勿論、殲滅する! B-25が発艦していなければ超長距離誘導魚雷で撃沈するがもし、発艦していれば岩本機とルーデル閣下機で全機、撃墜してもらう」


「食堂でルーデル閣下とガーデルマン少佐が今か今かと疼いていましたね?」


 日下は橋本の言葉を聞いてルーデル閣下の飛んで暴れたいという表情を思い浮べて苦笑する。


 ちなみに岩本大尉と草深少尉は格納庫内で愛機の整備を実施していた。


 二人が会話している時に航海科の西島航海長が顔を出して心配事が発生した事を報告してくる。


「……太陽フレアーが異常を示していると?」


 ちなみに伊400には長年の各平行世界を旅している時に数々の装置を手に入れていたがその中には太陽活動を詳細に観測できる装置を積んでいるのである。


「ここ数日の間に地球規模の無線障害が発生する恐れがありますが伊400と晴嵐に関しては全く問題がありませんが」


 伊400と晴嵐はレーザー光から為る光通信システムを構築していて古典的な無線障害は全く心配ないのであった。


「期間としてはどれぐらいかな?」


「まあ、一週間前後と見ていますが?」


「……結構、長いな? まあ、確定とは言えないから係員には引き続き厳重に観測してくれと言っておいてくれないか?」


「了解しました! それでは」


 西島航海長は再び艦内に戻っていく。


 それを見送った日下は上空を見るが現在、熱帯低気圧が発達したせいで海面も荒れていて風速15メートルの強風が吹いていたのである。


「橋本君、そろそろ中に入って待つとするか! 寒くなって来たな」


 橋本も頷いて日下と共に発令所に入ると直ぐに“晴嵐”機をコントロールしている乗員が十数機の編隊を発見した事を伝える。


「急いでスクリーンモニターに切り替えろ!」

 スクリーンモニターに16機のB-25が編隊を組んで飛行していて位置は“新知島”上空であった。


 日下は米軍機の行動の速さに吃驚したが直ぐに頭を切り替えて魔王閣下と岩本に出撃命令を下す。


「全力で追いつく頃にはB-25編隊はどの付近を飛んでいるのか?」

「釧路市上空ですね、恐らく目標は……札幌市かと思います」


 伊400前部格納庫扉がゆっくりと開いてルーデル閣下操縦の“晴嵐”が引き出される。


 20秒後、轟音を上げて射出される。

 その後、岩本機も続いて轟音を上げて飛び立つ。


「艦長、当艦はいかがするのですか?」


「無人“晴嵐”で敵空母を補足すると同時に長距離誘導魚雷で仕留める! 布哇を出撃した南雲艦隊の援護も兼ねる為、南下は出来ない」


「魔王閣下と岩本大尉の活躍に期待ですね?」

 増々、風速がきつくなっていき軽巡洋艦並みの伊400でも船体が荒波に揉まれていたので潜航命令を出して伊400はゆっくりと海中に潜っていき水深70メートルで停止する。


「よし、恐らくだが……間も無く敵空母を発見できると思う」

 そう日下は言うと魚雷管制室の通話ボタンを押して魚雷装填の準備をしていつでも報告が来た座標をインプット出来るように待機との命令を出す。


 それから数十分が経過した時、敵空母発見の報告が入り映像がスクリーンモニターに映し出される。


「ふむ、やはり“ホーネット”だな! しかし一隻か、まあ余分に戦力を回せないからな。それと空母を護衛している艦船だが東京初空襲をしたときと同じだな」


空母 “ホーネット”

重巡“ヴィンセンス”

軽巡“ナッシュビル”

駆逐艦“グウィン”“グレイソン”“レディス”“モンセン”

給油艦“シマロン”の8隻が航行していた。


「現在、反転して北方に針路を変更したようだな? 恐らく本隊と合流するのだろうが……それは画塀の餅だな」




 そう言うと日下は魚雷管制室に連絡を入れると既に8門全てに魚雷を装填して座標を入力し終わった所でいつでも発射できるという事であった。


「流石だな、発射10秒前カウントダウン」


 カウントダウンが0になった時、伊400の艦首魚雷発射管から8発の超長距離誘導魚雷が放たれた。


驚異的な350ノットの高速で獲物に向って行く……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る