第31話:全機発艦!

 日本艦隊が出撃したその時刻、伊400は晴嵐二機を回収して洋上航行をしていたのである。


 艦橋甲板上で日下と橋本が話している所に吉田技術長がやってきて間も無く一時間後に太陽フレアー異常が発生して三時間後には地球規模の無線及びレーダーが作動不能になる事を伝えに来た。


「うん、了解した! 伊400には関係ないが晴嵐以外とは通信も送れないし受信も出来ないか。南雲さんはどのような戦法で索敵を実施しているのだろうか?」


「どうですかね? まあ、米国も同じ条件ですのでもしかしたら出合い頭即、お互い攻撃に入るかもしれませんね?」


 橋本の言葉に日下は頷くと空を見上げる。

 どんよりとしていて天気観測班によると間も無く低気圧が発生して時化になる可能性が大との事。


「まあ、今の南雲さんならやってくれると断言できる! 俺達は布哇近海の警戒と防衛に移行するが大丈夫だ」


 日下の自信ある言葉に橋本は笑みを浮かべて頷くとそろそろ発令所に入りましょうかといい、二人は発令所に入る。


 それから数十秒後、伊400はゆっくりと潜航開始してその船体を海中に忍ばせて布哇方面へ航行する。


♦♦


 真珠湾を出港した南雲機動部隊は一路、北方に針路を取って多数の艦載機を索敵に出していたのである。


「我が機動部隊の航空戦力ですが……ゼロ戦が51機・99式艦爆が90機・97式艦攻が74機ですが上空直掩機用として20機が艦隊上空にいますので残り31機で捜索していますが……中々、効率が悪すぎます」


 航空参謀の『淵田美津雄』がぼやきながら南雲に報告している。

 南雲も同じく困っていたが指揮官たる自分が不安を見せてはいけないと思い堂々たる姿勢で立っていた。


「太陽も出ていないから観測も出来ないが方角的に間違いなく米艦隊と近づいていると思うが……」


 横にいた草鹿参謀長が南雲にいっそこのまま艦攻や艦爆を一気に出撃させて往復で帰還できる距離まで偵察兼見つけ次第、攻撃に移行するような方法を具申する。


 南雲もそれを考えていたが万が一ということもあり言い出せなかったがこの現状の中、展望が見えないので草鹿の案を採用する事にしたのである。


「艦を風上に向けると共に全搭乗員に出撃命令を出すのだ! 十分後に直掩機以外を発艦させる! 急げ」


 各艦から発光信号でその旨を伝えると各艦から了解の返答が来る。

 各空母甲板上には発動機がバリバリという快調な音が響き渡っていて艦載機が所狭しとビッシリと並んでいてその機に搭乗員達が次々と愛機に乗り込んでいく。


 全員が飛行帽に必勝と書かれた鉢巻をまいていた。

 “瑞鶴”の97式艦攻隊飛行隊長『村田重治』少佐が愛機に乗り込むと整備兵が親指を立てる。


「おし! 任せろ、敵空母のどてっ腹に酸素魚雷をぶち込んでやる」


 そして……甲板上に設置されている信号が青になり旗振りが発艦許可の合図を出すと先ず、ゼロ戦が発艦して次に99式艦爆が出撃して最後に97式艦攻が艦から舞い上がる。


 甲板上や艦橋から帽子が振られて見送る。

 三隻の空母から百八十機の航空機が発艦していったのである。


 南雲たちは艦橋から編隊を組んで地平線へ消えていくまで双眼鏡で見送り姿が見えなくなった時点で艦橋の中に入った。


「艦長! 六時の方角からゼロ戦一機がこちらに向かっています」

 防空監視していた見張り員が双眼鏡でゼロ戦を確認すると共にゼロ戦が発光信号で内容を伝えに来る。


「あれは……翔鶴のゼロ戦だな? 何て言っている?」

「……我、敵機動部隊を発見! 方角は艦隊の前方約三百キロ」


 発光信号の内容を聞いた南雲以下幹部はう~~ん……と唸り声をあげる。


 まさか敵と真正面、しかも三百キロの直近だという事に驚愕したが直ぐにするべき事を思いだして命令する。


「恐らく敵さんも出撃させていると断言して対処に入ろう! 全艦艇に対空戦闘用意の報を入れて第一級戦闘配置につかせてくれ」


 南雲の命令に草鹿は頷くと発光信号で対空戦闘準備せよの命令を送ると共に速度を最大戦速まで増幅するようにと送る。


「混戦に持ち込んで戦艦や巡洋艦・駆逐艦で仕留めるのも一興だ!」

「長官はやはり水雷屋の方が向いている事がわかりますな」


 草鹿は苦笑いをしながら言うと南雲はにやりと笑うと否定と肯定の返答をする。


 南雲機動部隊は遥か前方にいるであろう米国機動部隊と激突する為に驀進していくと共に厳重な対空戦闘態勢に移行していた。


 だが敵機がこちらにくる様子も無く前方を哨戒しているゼロ戦や艦隊上空直掩機も今か今かと待ち構えていたが全然出現しないので段々と不安になる者もあらわれる。


「……各空母の直上は大丈夫か? 一瞬の隙を狙われたらかなわんぞ?」

 南雲が艦橋から上空を双眼鏡で眺めている。


 前世で正に……ミッドウェイで“赤城”が直上から来た急降下爆撃機によって艦は炎上後、自沈となった悪夢を思い出す。


 南雲たちは知らなかったが米国機動部隊も南雲と同じことを考えてスプルアーンスは百五十機全機を出撃させていたが予想を外れていたのである。


 そしてその米機動部隊航空部隊は伊400が浮上航行している地点を目指していたのである……。


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