第21話:暗雲?

 東條英機が倒れて二週間後、新たな政権が樹立する。


 杉山元総参謀長が陸軍大臣に就任すると共に内閣総理大臣を兼任すると共に東條の懐刀である内務省憲兵隊総長を牟田口廉也が就任する。


 海軍人事は特に変わっていないが前と同じく陸軍に引っ張られるという図式である。


「杉山内閣か……。最悪だがそれ以上に内務省憲兵隊隊長があの牟田口? 冗談もほどほどにしてくれ」


 石原が本土から来た文を読むと紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に捨てる。

 時をおかずとして山本長官が執務室扉をノックしてきて入室してくるが彼も渋い顔をしていた。

「海軍さんも何か悪い情報が入って来たのですか?」


「……ええ、石原さん! 連合艦隊の殆どは明後日一月十一日に本土へ帰還します。このハワイに駐留させる艦船ですが戦艦“扶桑”“山城”・航空母艦“瑞鶴”“翔鶴”“鳳翔”・重巡洋艦“最上”“熊野”“鈴谷”“三隈”・軽巡洋艦“鹿島”“名取”“球磨”“阿武隈”そして駆逐艦“吹雪”“睦月”“初雪”“如月”“雷”“響”“暁”“電”“漣”“夕立”“松”“雪風”“陽炎”・潜水艦五隻・潜水母艦一隻です」


「……違法建築戦艦ですか、旧型も旧型の戦艦ですね。航空母艦は最新鋭二隻を残して頂けるのですね。そして駆逐艦は……ほう! “雪風”がいるのですか、これは幸先が良いですな。潜水艦は伊58・伊168・伊19がいますね? 山本長官、有難うございます! これで十分です、それにこちらには……守護神がいますので」


「……ああ、確かにそうですな! そうそう、石原さんに確約は出来ませんが先日新たに就役した戦艦“大和”をハワイに送れるようにしますので」


 石原と山本は固い握手をして数十分間会話をして執務室を出ていく。


 石原は窓から山本長官が真珠湾に戻っていくのを見送りながら溜息をついて目を瞑り一応、仲直りをした東条英機の事を思いだす。


「馬鹿者めが! こんな大事な時に倒れるとは何事だ! しかしあの牟田口に憲兵隊を使えるのか? 東條に心酔している者ばかりだが」


 その時、扉をノックする音が聞こえてきて本土からの命令について電文が来たことを副官が伝えると入るように言う。


 扉を開けて副官が入室すると数枚に渡る電文の紙を渡す。


 それを読んだ石原はやれやれという表情をして頷くと樋口・牛島・栗林をここに呼び出してくれと命令すると副官は敬礼をして出ていく。


「……無茶苦茶だな、そうだ! この際だ、あの三名にも伊400に案内して日下艦長達と意思疎通をしてもらうか」


 石原は伊400と直接通話ができる無線機を取り出してマウイ島沖に停泊している伊400に連絡を取ると日下艦長が出てきて石原が三名を伊400に招待したいというと日下は二つ返事でOKする。


「こちらもあの有名な御三方にお会いしたいと思っていたのですよ! 樋口閣下とはあの日本本土決戦が終わった後にお会いしましたが牛島中将・栗林中将とは未だでしたからね? 歓迎します」


 三十分後、樋口以下三名が石原の下に来た時、本土からの命令を伝えられると案の定、三人は(;゜Д゜) (;゜Д゜) (;゜Д゜)ポカーンとした。


「はい? 俺達はこのハワイ諸島で米軍が奪回に来るまで何もするなという事ですか? 輸送船も足りないので現地調達で宜しくですと?」


「要するに本土からしたら俺達は用無しという事だよ、まあ考え方を変えれば楽が出来るという事だがね?」


 石原の言葉に樋口が疑問を呈して言葉を発す。


「幸いにハワイ諸島は自前で食料とかは自炊できるでしょうが燃料も米軍が残したものを使えばいいですが砲弾とかはどうするのですか?」


 あれやこれやと質問が出るが石原はハワイ諸島の工廠を使えば何とかなると技術将校も言っていたから大丈夫だという。


「それに……我々には守護神がいるからね? 貴官達にその守護神の所へ案内しようと思う」


「守護神と言うと……パナマ運河やサンティエゴ海軍基地を単艦で破壊した潜水艦ですか? 本当にそんなものが実在するのですか?」


 樋口の言葉に石原は静かに頷くと今夜2300時に迎えが来るから第一桟橋に集合してくれと言うと三人は頷く。


 それから少しだけ会話をして三人は退室していく。



♦♦



 2300時、石原以下四名は第一桟橋で立っていると突然、桟橋に巨大潜水艦が出現する。

「( ゚Д゚)ポカ~ン」

「( ゚Д゚)ポカ~ン」

「( ゚Д゚)ポカ~ン」


 石原だけ特に驚くでもなくじっと立っていると艦橋ハッチが開いて一人の海軍軍人が出て来る。


「石原閣下、お待ちしていました! 樋口季一郎中将・栗林忠道中将・牛島満中将! ようこそ伊400に。乗員一同、歓迎します」


 日下艦長の挨拶に三人はしどろもどろだったが石原にさあ、乗りこもうかと言うと先に入って行く。


 樋口達も急いで甲板に移って艦橋タラップを昇り艦橋ハッチから艦内に入ると吃驚仰天する。

「……これは……!? まるで未来小説の世界だ」

「潜水艦と言えば狭くて異臭が酷いと聞いていたが何だ? 高原にいるかのような爽やかで涼しい空気が溢れている」

「見たこともない機械だ……」


 ポカーンとしている三名に日下艦長は食堂に御案内しましょうといい食堂に向かって行く。


 三人も石原と一緒に黙ってついていく。


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