第22話:それぞれの邂逅

 伊400での邂逅は実に三時間にも及び、至れり尽くせりの歓迎で樋口達は久しぶりに心と身体が満足したのである。


 再び桟橋に降りて伊400が姿を消して去って行くのを見送った石原達は司令部へ足を向けながら話をする。


「時を巡る潜水艦ですか、ロマンがありますね? そして……本土決戦ですか、自衛隊と言う存在が大きな要となったのですね」


「石原閣下、伊400での会話で何故私達をこのハワイ攻略に呼ばれたか分かりました。しかし、沖縄戦での戦いですがもっと事前準備が出来ていればもっと敵に出血を出させることが出来たと思いますね」


 牛島中将は、伊400で教えてもらった別の世界での沖縄戦の一連の流れと映像を思い出しながら答えると栗林も頷いて硫黄島の戦いでももっともっと大本営がきちんと物質等を補給してくれれば史実の何倍もの期間を戦えたはずだという。


「私も驚いたがまさかソ連が日ソ中立条約を破って千島列島へ侵攻したなんて信じられなかったが……事実だったのですね? 占守島ですか、彼らの奮闘で北海道は護られたという事ですね」


 樋口中将は感慨深そうな表情をして喋ると石原からはこの世界でもあのような悲惨な運命を辿る日本には絶対させないと誓う。


「さて、貴官達にはハワイ防衛の企画を進めてもらうので数日の内に提出して欲しい! 海軍の南雲中将と連携を取って欲しい。先方にも伝えているので南雲中将も喜んでと言っていた」


 石原が司令部の前まで来ると樋口達は敬礼をして自分達の宿舎に戻りますと言い解散する。

 三人はそれぞれ自分達の宿舎に戻りながら沸々と闘気が沸き起こるのを感じる。


「やってやるか!」


♦♦


 その頃、ハワイ方面軍司令官『南雲忠一』中将は航空母艦“瑞鶴”の司令官室で艦隊の再編制と運営について悩んでいた。


「正規空母二隻と小型空母一隻か……。ふむ、やはり二群編成で運用した方がいいかな? ハワイ近海での哨戒と休息の二交代制だな」


 前世の記憶を思い出した南雲は山本長官にお願いをしてハワイ方面の司令官としてこの地に残りたいというと山本も少し吃驚したが快く頷く。


「まだ米海軍には正規空母三隻が存在する。必ずこの海域に進出してくるだろう! ミッドウェイの恥辱を注ぐ!」


 メラメラと心の奥底で闘志が沸いてくる南雲は徹夜で編成を考えてそれを整理して夜に行われる陸海軍会議で発言する事になっている。


 南雲が司令官室から出て甲板上に出るとまだ薄暗かったが水平線が明るくなっているのを見ると頷く。


 その時、草鹿参謀長がやってきて仮眠をお取りになった方がいいと言ってくれて南雲はその言葉に甘えるとする。


「しかし、貴官も残るとは意外だな? 赤城からわざわざ退艦して瑞鶴に乗り込んでくるとは」


「無礼を承知で申し上げますが長官はかなりお変わりになられました。前の印象では慎重に慎重を重ねて臆病ではと言う場面も見られましたがやるときにはとことんやるという気迫が見られます。一体、どのような心境の変化があったのでしょうか?」


 草鹿の質問に南雲は苦笑いすると少し考えて自分の意見を言うと草鹿は成程と頷いて変わった長官がこれから何をするかこの目で見たかったためにこの地に残った事を話すと南雲は頷いてこれからも頼むと言い、艦橋に戻っていった。


 草鹿が真珠湾口を見ると第六駆逐隊が出航していく姿が見えた。

 それを見送りながらふと、例の最新鋭潜水艦の事を思いだす。


「……山本長官や石原閣下は知っているとの事だが……本当に存在するのか? 南雲長官も知らないというし……そのうえ、パナマ運河とサンティエゴ海軍基地を叩いたというあまりにも信じられない情報だが実際に運河や基地は破壊されているという」


 既に山本長官率いる連合艦隊主力は内地に引き返したがもう一人、その潜水艦の存在を知っている石原莞爾の下を尋ねてみようかと思う。


♦♦


 伊400では日下と橋本が世界地図を見ながらこれからの局面の事を話しあっていたのである。


「大西洋艦隊は果たして何処からやってくるのだろうか? 南米を周りマゼラン海峡を渡るかグリーンランドを迂回して北方からやってくるかが分からないな」


「艦長、私は北方から来ると睨んでいます。普通の感覚なら間違いなくマゼラン海峡を抜けるのが常套だと思いますが?」


 橋本の言葉に日下も頷いてそれは私も同意見で必ずグリーンランドを迂回してベーリング海に入ると断言できるが期間としてはまだまだ先で恐らく春先ぐらいだと思う事を言う。


「まあ、何にしろ当面は米潜水艦に気を付けないといけないな、石原閣下にお願いして南雲長官と『木村昌福』提督とお会いしたいとお願いするかな? 意思疎通は絶対に必要だからね」


 日下は石原莞爾と連絡を取って南雲長官達との面談を頼むと石原から思い切った提案がなされたのである。


「いっその事、一定の階級以上の陸海軍人全員の前で貴官達の事を喋ってみてはどうかね? 案外、受け入れてくれて結束が固まると思うのだがどうかな?」


 石原の言葉に日下は暫く考えると確かにそれも一手だなと思い快諾する。

 その会談は一週間後のマウイ島で行われることが決定する。

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