第19話:急転!

 パナマ運河を破壊した岩本とルーデルの晴嵐が帰投して海面に着水するとクレーンで引き上げられて再び主翼が畳まれて格納庫に収納される。


 二人が船内に入ると日下と橋本が出迎えてくれて拍手をする。


「御苦労だったな! これで当分の間、太平洋は安泰だと思う。今日はクリスマスイブだからな、シャンパンとケーキを用意している。休憩時間に食べてくれ」


 日下の言葉に二人は敬礼すると談笑しながら格納庫から出ていく。

 それを見送った日下は橋本に発令所に戻るかと言い、戻っていく。


 発令所に戻った日下は真珠湾に引き返す事を命令して年末年始はハワイで正月を迎える予定だと艦内放送をすると艦内全域から歓声が沸き起こる。


「ワイキチビーチに行くのだ! 金髪のビキニネーチャンいるかな?」

「サーフィンという遊びをしてみたいな」

「釣りしたい」


 色々な所で休みの過ごし方について花が咲いていた。

 最も、ビキニという水着はこの時代には未だ、ないのだが……。

 それから数日後、日本で重大事案が発生する


♦♦


 それは、十二月三十日、陸軍省にて首相兼陸軍大臣『東條英機』大将は石原莞爾から送られてきた内容について主要なメンバーを招集していたのである。


「布哇の石原からの報告ではパナマ運河とサンティエゴ海軍基地を破壊したとの事を聞いたのだが私の意見として米国本土上陸を早めてみてはどうかな? と思うのだが諸君の意見を聞かして欲しい」


 東條の言葉に出席者達は無言の状態で特に発言も無かったが殆どの者が石原の成功を喜んでいない表情であった。


 そんな沈黙を一人の人物が立つ。


 『辻政信』中佐でパナマ運河やサンティエゴ海軍基地を潰したならわざわざ米国本土に上陸せずともその間に南下してインドやオーストラリアを占領するのが先決ではないか? と発言する。


 彼の言葉に他の出席者達も賛同する。

 殆どの出席者達が石原莞爾と言う異端児を毛嫌いしており奴の下で働かなければいけないという事を嫌ったのである。


 そんな様子を見ていた東條は呆れ顔で何か言おうとした時に急に頭痛がしてそれがすごく酷くなり椅子から転げ落ちてしまう。


 皆が吃驚して直ぐに軍医を呼ぶ。

 数分で駆けつけた軍医たちが担架に乗せて病院に急行する。

 勿論、会議は中断となりその日は解散となる。

 東條英機倒れるというニュースはたちまち日本全国に知れ渡り勿論、その詳細はハワイにも届く。


 総司令部で緊急電を受け取った石原は直ちに師団長三人と南雲を呼び出して今後の対策について話す事にする。


 この時点では伊400もマウイ島に錨を降ろして停泊していたが何分、機密の為に表舞台に出ていなかったが直ぐに情報を掴んでいた。


「東條英機が脳梗塞で倒れたみたいだね? 史実に無い事が起きてしまったか」

「この時点で既に史実ではないですが?」

「さて、私の見立てではこれから暗雲が立て籠もるような気がする。いや、絶対だな」


 日下の言葉に橋本が苦笑しながらこの時の艦長の言葉は当たるからなというと他の者達も頷く。


「まあ皆も知っている通り、石原莞爾という人物は史実でもこの時代でも異端児として大いに嫌われているからね。東條英機の後釜というか臨時として就任するのが誰であろうと石原莞爾が好きな人物ではない事は確実だな。恐らくハワイ諸島司令官は外されないがこれ以上の進展は白紙に戻される確率が大きいと思う」


「……米国本土上陸作戦は白紙となる公算が大という事ですか?」


「そうだな、恐らくインド方面や東南アジアにオーストラリア方面へ進出すると睨んでいるのだがね? まあ、俺達が知っている史実通りに」


「艦長、陸軍はそうだとしても海軍はどうなるのでしょうか? まあ、陸軍の協力なしでは米国本土上陸は画塀の餅でしょうから」


「米国本土やハワイ諸島占領は石原閣下が山本長官に提唱した事だからね? その時でも海軍大臣『嶋田繁太郎』大将は相当、反対したそうだが山本の迫力に負けて渋々と許可したという事だからな。ちなみに彼は自分の意見を持たない人物だから東條閣下の後釜に座った陸軍大臣の言葉にそのまま頷くだけと見ている」


「そういえば山本長官率いる連合艦隊が本日の夜に入港するとの事ですがその件について話をするのでしょうね?」


「それは勿論、そうだな! 俺の予感では……う~む、とんでもない事になると思うが我々は独立して動いているからその都度の状況に応じて行動しようと思う。ま、それは暫く置いといて明日は正月だ! 大いに飲んで食べて騒ぐか」


 日下の最後の言葉に歓声が沸き起こる。


♦♦


 昭和十六年十二月三十一日午後十一時二十分、山本長官率いる連合艦隊がハワイ真珠湾に到着する。


 その連合艦隊を石原莞爾を始めとする三人の師団長と南雲中将が迎える。

 歓声の嵐に迎えられて山本長官が桟橋に足を乗せてハワイの地を踏む。


「山本閣下、ハワイへようこそ! お聞きになったと思いますが本土は驚天動地に陥っていると思いますがこのハワイは正月を迎える準備が終わっていますので新たな情報が来るまでゆっくりとしてください」


 石原の言葉に山本は頷くと固い握手をして石原の案内で総司令部へ一緒に肩を並べて歩く。


 山本は伊400が現在、何処にいるのかな? と聞くと石原はマウイ島にいますが自分達の正体は秘匿していたいのでお構いなくとの事ですという。


「そうか、今回の一連の事は伊400の存在があってこそだからな、本土から日本各地の大吟醸を沢山持ってきたからお裾分けでもしたらどうかね?」


「それはいいですな、明日にでも持っていきましょう」


 山本の命令で本格的な陸軍兵器の荷揚げは明日以降となり一日だが休息が与えられて全艦艇の乗員が喜ぶ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る