第9話:凱旋と石原莞爾の決意
キンメル艦隊を葬った日本軍は続々と自軍空母に着艦する。
大戦果を挙げて帰投したパイロット達を整備兵達が歓声を上げて迎える。
その様子を見ていた南雲は満足そうに頷いていると艦橋に淵田中佐が元気よく入り報告する。
その報告を聞いて御苦労と笑顔で答えると結局、未帰還機は六機だったが奇跡的にパイロットは重傷だが命には別条なく全員が帰投できたことを言うと淵田は嬉しそうに頷く。
「それで、再度出撃したいのですが未だ敵艦隊はいるのでしょうか?」
淵田の質問に南雲は偵察機からの報告によると撃ち漏らした戦艦三隻は例の最新鋭潜水艦が撃沈した事を伝えると共に現時点で太平洋艦隊は壊滅した事を言う。
「そうですか、しかし……俺達の獲物を搔攫うとは……味方ながら悔しいですね」
淵田の言葉に南雲はまだまだ米国には空母・戦艦が西海岸や大西洋にいるからこれからも出番があると言うと淵田も頷く。
「それでだ、我が機動部隊はこのまま布哇諸島へ進軍して上陸作戦を展開するがこれにも貴官達にも出撃してもらうので今日はゆっくりと疲れを取って英気を養ってくれ」
南雲の言葉に淵田は敬礼をすると元気よく艦橋から出ていく。
甲板からは艦隊上空を援護する為、交代でゼロ戦が離艦していく。
「前世の記憶……もう二度と無様な失敗はしない! サイパンで玉砕したあの日の事を詳細に思いだす……」
南雲は夕暮れの水平線を見ながら思いにふけっていた。
♦♦
その頃、輸送船“日の丸”に乗船している『石原莞爾』と『牛島満』・『栗林忠道』の三人が舳先で立ち話をしている。
三個師団分の輸送船二百隻が数隻の駆逐艦に護衛されて南雲機動部隊の後を追尾していたのである。
三個師団と言っても兵員のみで戦車等の火器は後から運ばれる手筈となっている。
一番、怖いのが潜水艦からの攻撃であったが既に布哇周辺には米国潜水艦は一隻もいなかったのである。
いないというか全て伊400により体当たり攻撃を仕掛けられて全隻が通信途絶したのである。
「石原閣下、海軍さんは米国太平洋艦隊を潰滅させたようですね? 皆が喜んでいますが本当に布哇を占領するのですか? 占領した後の維持が大変かと思いますがそこはどうお考えですか?」
栗林中将の問いに石原大将は最もな意見だと言うと通常なら補給の問題が難しいがそれは日本海軍が全面的に協力してくれるとの事。
「はあ? 本土の戦艦や重巡を始めとする艦船が布哇に進出する時に必要な物資を一緒に運んでくれると? 海軍がよく許可しましたね?」
牛島中将がありえないという表情で唸る。
栗林中将も陸軍と海軍の仲が悪いのは良く知っていたがまさか全面的に協力してくれることが信じられなかった。
「何か見返りでも要求されたのですか?」
「いや、特に要求されていないが最終目標は米国西海岸“サンディエゴ海軍基地”を叩きつぶして占領する事だ」
石原の言葉に牛島と栗林は正に( ゜Д゜)ポカーンの表情である。
「……し、正気ですか!? 満州と違うのですよ?」
「失礼ですが米国の国力を過信しているのでは?」
二人の唖然とした表情に石原は貴官達のいう事は正しいし狂気の沙汰だと思うのは至極当然という。
「だが、可能だ! 貴官達は黙って私に付いてきてくれればいい。絶対に後悔はさせないと誓おう」
石原は前世の出来事を思い出す。
ポツダム宣言を受け入れる前夜にクーデターが起こりそのまま戦争が続き絶望的な本土決戦を展開したことを。
「今度は我々のターンだ!」
石原の言葉に二人はこれ以上、何を言っても駄目だろうと思い先に部屋に戻っていますと言い石原から去って行く。
石原が前方を航行する空母“瑞鶴”を見ていると背後から声を掛けて来る者がいた。
「ここにおられたのですか、そろそろ日が沈みます。今夜は新月なので真っ暗だそうですよ?」
石原が振り向くと『樋口季一郎』中将が笑みを浮かべながらやってくる。
樋口と石原はたわいもない話を一時間ほどすると二人揃って船内に入って行く。
「今から二十四時間後にはダイヤモンドヘッドだな。そこから上陸開始だ」
♦♦
その頃、伊400では今後の指標について日下艦長以下六名の分隊長が大会議室で会議をしていた。
「晴嵐でパナマ運河を破壊する事は重要事項だ! 山本長官からは好きなように動いたらいいとお墨付きも貰っているが何かするときは事後報告でもいいからとの事」
「しかし今回の作戦でアリューシュン列島攻略は中止となってその戦力を布哇に向ける事という事ですがそれによりアッツ島玉砕はこの世界で発生しないのですね?」
「そうなるね? 陸軍も南方には進出するがインド洋には出ないという事で中国大陸に派遣している師団を米国本土へ持っていく方針だ」
「今回の作戦の最終目標は何処ですか? 何を以て講和に漕ぎつけるのでしょうか?」
「最終目的は米国西海岸“サンディエゴ海軍基地”を破壊占領する事でそこで米国に講和を結ぶ代わりにナチスドイツと手を切り、連合国の一員として入りたいと交渉する予定だな」
「Σ(゜Д゜) Σ(゜Д゜) Σ(゜Д゜) Σ(゜Д゜)」
分隊長達の上記の様子を見ながら日下はコーヒーカップを手に取るとゆっくりと口に運ぶのであった。
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