第8話:太平洋艦隊潰滅

 二・五航戦航空隊を率いている総飛行隊長の『江草隆繁』中佐は海面を航行する戦艦部隊の航跡を発見する。


「むう……大艦隊じゃないか! しかも上空には護衛機がいない! 正に狩場に相応しいな」

 江草は風防を開けると信号弾を一発、放つ。

 それを見た他の航空隊も翼を横に振りながら了解したと事を示す。


「よっしゃ! 急降下爆撃隊は周りの駆逐艦等を叩きつぶして対空兵器を破壊だ! それと同時に雷撃隊は戦艦に殴り込みだ!」

 百四機の艦攻が降下し始めた時、米艦隊の駆逐艦六隻に突如、巨大な水柱が立ちあがり一瞬で駆逐艦六隻が轟沈する。


「むっ! そう言えば最新鋭潜水艦がこの戦に出撃していると聞いたがそれか!」

 伊400が放った酸素魚雷が命中したのである。

 発令所で日下艦長が次々と次弾装填を命令していて次々と艦首から酸素魚雷が発射される。

「戦艦の周囲を先ず、葬って片づける!」


 “ウエストヴァージニア”艦橋でキンメルは唖然としながらも対潜警戒を命令するがそれを嘲笑うかのように次々と伊400から放たれた酸素魚雷が駆逐艦や巡洋艦に命中して程なく轟沈していく。

「丸裸にするつもりか! 全戦艦部隊に対空砲火を密として敵機に魚雷を撃たせるな!」

 全戦艦から対空砲火が撃ちあげられるが練度は低く日本軍機には全く当たらなかったので江草は拍子抜けだった。


「油断大敵、行くぞ!」

 雷撃隊は十数機編制六群に分かれて突入する。

 戦艦“アリゾナ”艦橋では艦長が口角泡を吹き飛ばしながら迎撃だと叫んでいる。

 対空兵器の弾幕を潜り抜けていく雷撃隊は海面から僅か数メートルを飛行しながら肉薄していく。

 “瑞鶴”隊の『若杉道夫』兵曹長は“アリゾナ”から四百メートルの地点まで近づいて魚雷発射ボタンを押す。

 航空用酸素魚雷が海面に投下されて“アリゾナ”に突き進んでいく。

 他の機も次々と投下して機首を上げて空域から離脱していくが練度が一航戦や二航戦に比べて低い機は対空砲火に掴まって火達磨となって墜落する。


 それでも魚雷は“アリゾナ”右舷に八本が命中する。

 機関室に飛び込んで爆発した魚雷は機関員全員をミンチにする。


 三本が第一砲塔・第二砲塔の弾火薬庫室に命中して爆発した為、一瞬で誘爆して閃光が閃いたかと思うと“アリゾナ”の船体が轟音と震動と共に真二つに折れて轟沈していく。


「アリゾナが!!」

 “ウエストバージア”の真横を航行していた“アリゾナ”が轟沈していく様相を一部始終見た乗員達は真っ青になる。


 その瞬間、“ウエストヴァージニア”の船体が大きく振動すると共に爆発音が響き渡る。


「右舷に四本の魚雷が命中です! 幸いに兵員区画な為、左舷に注水して水平性を保ちます」


 その瞬間、再び数万トンの巨体が大きく揺れる。

「右舷に二本命中! 衝撃で注水扉が故障して傾斜回復不可能です、長官! 総員退艦命令を!」


 キンメルは唇を思いきり噛みながら頷くと幕僚達と退艦するが甲板に出た時、急降下爆撃機三機が爆弾を投下してくるのを見る。


 爆弾は艦橋後部に命中して構造物を吹き飛ばしその衝撃と爆風でキンメル達は吹き飛ばされて海面に落とされる。


 “ウエストヴァージニア”は間も無く横転転覆して海中に没するが暫くして船体が折れたようで大渦を発生する。


 “テネシー”は右舷に魚雷六本、左舷に三本、爆弾七発を受けて大火災を起こしていたがダメコンチームの必死の作業もむなしく弾火薬庫に火が到達して閃光と共に大爆発を起こして轟沈する。


 “メリーランド”は左舷に三発の魚雷を受けたが幸いにも重要区画ではなくて右舷に注水して転覆を免れたが速力が落ちる。


 だが、艦橋に爆弾四発が命中して艦長以下幕僚達が戦死する。

 “オクラホマ”は右舷に魚雷六発を受けて弾火薬庫に命中して火柱と共に船体を真二つに折りながら轟沈していく。


 “ペンシルバニア”は後部船体に二発の魚雷を受けて後部船体が吹き飛んで艦が停止する。

 そしてその直上から急降下爆撃機隊が最適な標的として次々と爆弾が投下されて十発の直撃弾を受けて甲板上構造物を吹き飛ばしていく。


“カリフォルニア”は戦闘直後に舵が故障して円を描くようにして周回航行をしていたが日本軍はそれを見て最後に仕留めようとした為、被害を免れた。


 魚雷及び爆弾を全て落とした日本軍は再爆雷装填する為に引き返していく。

 損害は戦艦四隻・重巡一隻・駆逐艦十五隻が沈没したのである。


 駆逐艦“フレッチャー”に収容されたキンメル大将以下幕僚達であったが全員が重傷を負っていて布哇へ引き返す事にする。


 燃え盛る戦艦“ペンシルバニア”は沈没を免れたが停止した状態で低速だが航行可能な戦艦は“メリーランド”カリフォルニア“であった。


 だが、日本艦載機隊が戻る前に彼らの頭上に死神の鎌が今まさに振り落とされようとしていたのである。


 伊400発令所で日下が米艦隊に止めを刺す事を話すと皆が賛成した為、日下は誘導魚雷の使用を決定して一番管から三番管に計三発の“51式誘導魚雷”が装填されて発射口が開放されると同時に魚雷管制室内で標的の座標がプログラミングされて誘導魚雷にインプットされる。


「発射!!」

 日下の命令でCICの徳田が魚雷発射ボタンを示すタッチパネルを三回押すと艦首から魚雷が放たれる。

 最大速度に達する前に僅か数秒で三隻の戦艦に命中する。


 突如、直下地震が起きたかのような振動がしたかと同時に三隻の米戦艦は巨大な火柱が船体中央部から噴き出して一瞬で爆散して轟沈する。


 戦艦七隻が轟沈したと同時に太平洋艦隊が潰滅した瞬間であった。


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