第7話:布哇沖海戦②

 ハルゼー艦隊が潰滅する様子を見ていた伊400艦内では日下艦長以下乗員達が感嘆の声をあげていたのである。

「流石は初期の日本海軍ですね、惚れ惚れ過ぎる熟練度です」

 橋本先任将校がドローンから送られてくる映像を見ながら感動する。

 日下も又、ウンウンと頷きながら惚れ惚れとして見ていた。

「重巡“シカゴ”雷撃は無意味だったな、次はキンメル戦艦部隊との戦いが開始される頃だな……。ドローン四号機の映像を映し出してくれ」


 日下の命令にオペレーター員がキーボードを操作すると前面のモニターに四号機からの情景が映し出される。

「……ふむ、やはり主力部隊だけあって戦艦部隊を護っている駆逐艦や巡洋艦は邪魔だな、少なからずの損害が二航戦や五航戦に発生するか……」

 日下はじっと数十秒間考え込んでいたが何やら決断した様子で機関室に通じるボタンを押すと在塚機関長に質問する。


「機関長、核融合出力を百二十パーセントまで上昇させればどれぐらいいけるか?」

「こちら在塚です、十五分間なら可能です!」

「よろしい、限界速度を突破して七十ノットまで増速して一気にキンメル艦隊を雷撃できる距離まで縮みさせる!」


 機関室核融合炉制御管制室内で在塚は、緊急時にする出力増幅のレバーを引くと核融合炉内の活動が活発になる。

「よしよし、良い子だな! 御機嫌バッチリではないか」

 伊400は水深百二十メートルを七十ノットの高速でキンメル艦隊へ向かって行く。


♦♦


 一航戦がハルゼー艦隊に突入しようとした時に二航戦と五航戦は会敵まで後三十分という距離であった。


 キンメルは布哇航空基地に上空援護として全機出撃させるように命令していて二十分後には二百機の護衛機が到達する予定である。


 戦艦“ウエストバージニア”艦橋ではキンメル大将が過去の記憶を思い出しながら南雲機動部隊がいる方角へ全速力で向かっていたがその南雲忠一が前世の記憶を蘇らせて歴史の流れが変わった事を未だ知らなかった。


「ハルゼーも明日には攻撃機を出撃させる予定だからそれに合わせて突撃だな」

 キンメル大将がそう思った時に通信士が血相を変えて艦橋に飛び込んできて大声で報告する。


「ハルゼー艦隊から入電! ジャップの奇襲攻撃を受けて現在、交戦中との事です」

 この報告にキンメルを始めとする幕僚達は驚愕する。


 その時、レーダー員から謎の大編隊をキャッチして後、三十分後に接触しますとの連絡を受けた時、もう一人のレーダー員が布哇から友軍機二百機が間も無く上空に到達するとの事を聞く。


 キンメルは頷くと全艦隊に第一級戦闘配置の命令を出すと共に巡洋艦や駆逐艦に対空迎撃を命じる。


「所詮は黄色い猿の飛行機だ! とは言っても前世で四年近くも戦った国だから油断大敵だな」


 この状況は伊400でもキャッチしていて日下達が議論を重ねていた。

「この時代の敵機はゼロ戦の敵ではないからハエを叩き落すぐらいの余裕さを見せるだろうが万が一もあるから援護射撃が必要だと思うのだが?」


 日下の言葉に橋本がならば浮上して残存僅かな対空用MOAB弾の使用をしてはいかがですか? と提案してくる。


 橋本の言葉に日下は成程と頷くと浮上命令を出そうと思った時、西島航海長が今、浮上すれば敵の偵察機に発見されますが? と質問してきたが日下は笑いながらそれはそれで好都合で敵さんは戦力分散させるだろうからと言うと西島も頷く。


 既に伊400は核融合炉出力を八十パーセントまで落として距離をかなり縮ませる事に成功して酸素魚雷射程距離内迄通常速力三十ノットで十分の時間であった。


「浮上開始だ! ベント弁開放、浮上開始! それと同時にレールガン起動開始」


 海水を吐き出しながら伊400は浮上を開始して間も無く海面が盛り上がると共に独特のシルエットの格納庫が出現して上部船体を海面に曝け出す。

「対空MOAB弾装填開始!」


 CICでは徳田がタブレットモニターを操作しながら敵機の編隊との距離を測り最適な加速と時間を計算する。


「レールガンの出力を九十パーセントで発射すれば編隊の上空で爆発します」


 徳田の声に日下は頷く。

 後部十五センチレールガンに対空MOAB弾が装填されて敵編隊の方向に砲身が向けられる。

 数秒後、轟音と震動と共にMOAB弾が撃ちだされて速度マッハ七で飛んで行く。

 キンメルは水平線の彼方から雲霞の如く現れた友軍機を双眼鏡で確認する。


「おお! B17爆撃機もいるぞ、頼もしいな」

 二百機以上の大編隊が肉眼からも見える所まで来た時に突如友軍機の編隊上で謎の大爆発が起こる。

 その瞬間、上空を我が物顔で飛んでいた大編隊が粉々になって一機残らず消滅したのである。

 キンメル以下の幕僚達を始めとする乗員達は何が起きたか分からず茫然として誰もが暫く言葉を発せなかったが対空指揮所で監視をしていた見張り員が十一時の方角から日本軍の大編隊が現れた旨を報告するとやっと我に返る。

「対空戦闘用意!! しかし何が起きたのだ? 爆発音と共に一機残らず粉々になるとは……ジャップの新兵器か?」


 キンメルは背筋がぞっと寒くなると同時にこの戦いが敗北するのではないかと言う恐れが沸き起こった。

 それと同時に悲報が飛び込んでくる。

 それはハルゼー機動部隊が潰滅して駆逐艦数隻が生き残り他は全て撃沈されてハルゼー中将が壮絶な戦死を遂げた事であった。


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