第2話:石原莞爾

 お忍びとして呉軍港から汽車に乗り、伊勢神宮に向かった山本五十六は深夜二時に設定された場所に着いて時計を見る。


「丑三つ時まで後三分か、それにしても神聖な空気にこの場所が護られているような感じがして実に清々しい」


 その時、一人の女性が山本の所にやってくるがその横に石原莞爾も一緒であったので山本は挨拶する。


 石原は山本に横にいる女性を紹介すると吃驚する。


「祭主様!? 伊勢神宮最高位の! これは失礼しました、私は山本五十六と言います。以後、よしなに」


 山本の慌てた挨拶に祭主はにっこり微笑むと先頭に立って歩いていく。


 石原は、山本に近くの浜辺にお迎えがいますので行きましょうと言うと山本も無言で頷いて後を追う。


 五分ほど歩いて砂浜に出ると二人の海軍軍人が立っていて挨拶してくる。


「山本五十六連合艦隊司令長官ですね? お聞きかもしれませんが私は伊400潜水艦艦長『日下敏夫』海軍少将です、横にいるのは先任将校『橋本以行』海軍大佐です」


  日下と橋本が敬礼を以て山本に返すと彼も頷いて敬礼する。


 そこで祭主が一旦、戻りますので用事が済めばもう一度あの場所に来て頂ければと言い、ゆっくりと去って行く。


 それを見つめながら山本は浜辺に乗り上げている揚陸艇みたいなものに日下の案内の下、石原と共に乗り組む。


「それでは、山本長官! 伊400までご案内しますので」

 日下がそう言うと橋本は艇の起動スイッチを押す。

 無音に近い音と共に自動的に出発する。


「……し、信じられないが……これは無線誘導かな?」


 山本の質問に日下が頷くと石原が私も初めて乗った時、吃驚したと答えると山本は石原に何回か来たことがあるのか? と聞く。


「この世界では二回目ですが前世の場合、一回乗っています」


 そうこうしている内に艇は沖合のある地点で停止すると同時に直ぐ横から海面が盛り上がってくる。

 吃驚している山本の目に軽巡洋艦クラスの大きさの潜水艦が出現した事に目を見開いて茫然としている。


「……何だ、この大きさは? これが潜水空母?」

 日下は笑みを浮かべて山本の方に身体を向けると敬礼しながら答える。

「ようこそ、潜水空母“伊400”へ!」


♦♦


 山本と石原が伊400艦内で四時間にも及ぶ話し合いをして再び浜辺迄送ってもらって日下達が引き上げていくのを見送り姿形が見えなくなったときに口を開く。


「石原さん……私は夢を見ていたのだろうか? まるで未来の時代へ行った感じだったよ」


「ええ、山本さんの反応は至極真っ当だと……。それで決意しましたか? 真珠湾攻撃だけではなくハワイ諸島占領を?」


 石原の質問に山本は直ぐに首を縦に振り勿論と答える。


「考えようだがあの潜水艦一隻で世界中の海軍と戦っても圧勝できる力を持っているから彼らに米海軍を全滅させてもらったほうが楽なのだがな」


 苦笑しながら山本が言うと石原も笑いながら頷くがそれはそれで面白くないですと言うと山本も頷く。


「石原さん、これから私は呉に帰り再度計画を練り直しますが陸軍の方は大丈夫なのですね? 貴官と仲が悪い『東条英機』大将の天下なのでは?」


「ああ、それについて心配はありません! 私も驚いたのですが今上陛下も先の記憶をお持ちで直に私を召し出して現場に復帰させて頂きました。普通なら予備役に送られて無為に過ごすしかなかった私なのですがね? 話は戻りますが、彼は前世の記憶はありませんがこのままいくと日本の国が滅亡へと転がる事を詳しく話したら信じてくれましたよ。カミソリと渾名が付く御仁ですので馬鹿ではないので。それに布哇方面陸軍指揮官はこの石原を任命してもらえるように伝えましたので」


 石原の言葉に山本は再度、吃驚したが直ぐに頷いて期待していますと言うと石原も頷いて二人で大笑いする。


 こうして日下達と邂逅が終わった山本は急いで呉に帰り真珠湾計画を一から練り直す事を大西達に命じる。


 一方、石原も布哇攻略の為に必要な陸軍兵力の捻出を捻りだして中国大陸方面に展開している三個師団を引き抜いて布哇攻略の兵力にすることに成功する。


 勿論、関東軍や中国方面の将官達から怒号や怒声が石原に浴びせられたが不倶戴天の敵と思われていた東條英機が彼を擁護と支持をしたので一瞬で収まる。


 何と言っても東條英機は内務省を押さえていて泣く子も黙る憲兵隊と特高警察を支配しているので誰も文句を言わなかったというか出来なかったのである。


♦♦


 こうして着々と真珠湾攻撃及び占領計画が立てられて昭和十六年十一日下旬、択捉島から『南雲忠一』中将率いる第一機動部隊が出撃する。


 布哇上陸軍総司令官『石原莞爾』大将で各師団長に『樋口季一郎』中将、『栗林忠道』中将(少将より昇任)『牛島満』中将が任命されて輸送船に乗船していた。


 この人事は陸軍内でも話題になったようで前線で華々しく活躍している将官ではなく高名ではない名を知られていない人物だった。


「しかし、この三名の方は後年、歴史に名を残す偉人だからね? 前世の記憶を持っている石原さんからすれば有能すぎる手を離せない人物だろうね」


 伊400艦橋内で日下艦長は橋本先任将校に石原から預かった詳細な資料を読みながら答えると皆が頷く。


「さあて、賽は投げられた! 後は米国が我らが知っている史実と同じ動きならいいのだが物事には意外性と言うのがあるからね?」


 キスカ島南方二十五キロ海上を伊400は航行していた。

 それから少しして伊400はゆっくり潜航開始していった。


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