第3話:提督と提督の前世の記憶

「だから言っているではありませんか! 必ず日本軍は来月の十二月七日朝に航空機で奇襲攻撃を掛けてきます! ですから大統領、こんな旧式戦艦だけではなく大西洋艦隊の空母も回してください!」


 太平洋艦隊司令長官『ハズバンド・キンメル』大将が電話でアメリカ合衆国大統領である『フランクリン・ルーズベルト』に電話で直訴していたがルーズベルトに鼻であしらわれて電話を切られる。


 キンメルは乱暴に受話器を置くと椅子に深々と乱暴に座る。


「……やはり、歴史は変えられないのか! 前世の出来事を知っているという事は何と惨い事なのか」


 キンメルは両肘をつきながら悔しそうに呟く。

 彼は一週間前に突如、前世の記憶を思い出したのであった。

 暫くボーッとしていたがゆっくりと椅子から立ちあがると窓辺の方に向う。


「俺の権限範囲内でするしかないか、奴らの裏を掻いてやらないといけないな」

 キンメルはそう言うとハワイ近海の地図を張り出して対策を練ると共に真珠湾を監視しているであろう商社マンと偽っている日本のスパイの逮捕を考える。


「……必ず裏を掻いてやる! 見ていろ」


♦♦


 その頃、伊400は一足早くハワイ諸島オワフ島真珠湾口南方三キロ地点にて潜望鏡深度で停止していた。

 水中速度六十ノットと言う信じられないスピードでここまでやってきたのである。


「よし、偵察ドローンと無人戦闘機“晴嵐”を射出させて真珠湾を徹底的に監視する。南雲艦隊が攻撃機を出す時間まで後、五日間だからな! ステルスモード及び光学迷彩シールドの展開も忘れるなよ?」

 魚雷発射管にドローンを搭載している魚雷を装填する。

 この魚雷には先端部に四機のマイクロ小型ドローンが収納されていて射出十秒後に海面から飛びだして先端が割れてドローンが放たれるのである。


 勿論、使い捨てではなく何回も使用出来る。

 しかも動力がマイクロ核融合炉を搭載しているのでほぼ永久的に飛ばすことが出来るのである。

「艦長、いつでも発射できます」


 CIC区画の武器管制システム責任者として配置されている徳田大尉が答えると日下は頷いて発射を命じる。

 艦首発射口からドローンが搭載された魚雷が発射されて数秒後に海面に出て四機のドローンが出現して真珠湾へ向かって行く。


 十分後、四機のドローンは指定の位置に高速で向かい一時間後に停止して映像を伊400に転送していく。

 その光景を見ながら日下達は解析していく。

「ふむ、現時点では同じ配置だな……。だが、もしかしてキンメル大将も前世の記憶を思いだせば一気に様相が変わるだろうな」

「そうなれば艦長、我々が知っている真珠湾攻撃ではなくなるかもしれませんね? 艦隊決戦になるかもしれないという事ですね?」

「ま、そうなっても……日本軍の勝利は間違いない! 何しろ我々がいるのだから」

 日下にしては珍しい口調に乗員達は頷く。

 吉田技術長が“武御雷神の矛”の出番はないのかもしれませんね? というと橋本も頷いて日下の方を見る。

「まあ、使用する機会がないかもね? この戦はあくまでもこの世界の人達によって成功させなければいけないからね? 本当に危機になった時に使用するかもしれないが今の段階では全く考えていない」


 日下の言葉に吉田も了解して発令所から出ていく。

 実を言うと日下もバンバン使用したいと思っていたのだがそれは禁じ手とする。


♦♦


 南雲機動部隊旗艦である航空母艦“赤城”艦橋にて司令官の『南雲忠一』中将は荒れている海面を眺めながらじっと考え事をしていた。

「(……何という事だ、私は過去をやり直しているのか!)」


 択捉島に停泊している時にタラップから滑り落ちて頭を打った拍子に前世の出来事が一気に頭の中に流れ込んできたのである。


 あの忘れることが出来ないミッドウェイ海戦から最後はサイパン島にて米軍の上陸作戦に伴って最後の最後まで戦い抜いて玉砕した事を思いだしたのである。


「(……折角、過去をやり直し出来るのだからこの真珠湾攻撃は必ず成功させてやる! 空母二隻も必ず仕留める)」


 南雲が過去を思い出しながら硬い決意をした時に先程から自分を呼んでいる声に気が付いてその方向に顔を向けると航空参謀の『草鹿龍之介』大佐であった。

「おう、草鹿君! 何かね?」


 南雲の言葉に草鹿は今回の真珠湾攻撃で布哇を占領すると言う計画について再度、確認したかったという。

 草鹿の言葉に南雲は今回の真珠湾攻撃作戦について前世で経験した出来事と大幅に変わっている事を思いだす。


「布哇諸島占領か、参謀長は本当に可能だと思うか? 陸軍三個師団を満載した輸送船団を引き連れて?」

 前世とは全く違う内容に南雲は択捉島から出港した時から考えていたのである。

 南雲は草鹿と再度、布哇占領について確認しながら前世と違う内容を反復していたのである。


「(今回は、潜水艦隊の派遣と特殊潜航艇がない代わりに極秘命令で動いている超最新鋭の潜水艦、それもたった一隻だと……。意味が全く分からないがこの潜水艦からの情報が布哇占領計画に必須な存在であると言っていたな、山本長官は)」


 今回、択捉島に行く前に空母六隻に特殊無線受信機が積み込まれていてこの受信機が受信した信号の内容を参考にするようにといったのである。

 しかもこの受信機で傍受する周波数は未だこの世界のどの国でも採用されていない特殊無線の事である。


 南雲の言葉に草鹿は笑みを浮かべて絶対に成功しますと断言する。

 その笑顔を見て南雲も釣られて笑い、頷く。

「さあ、後四日後には真珠湾か」


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