第5話 エピローグ

皇帝が知らせを聞き皇城に帰ると、血だらけの部屋だけが残っていた。

生存確認の魔法を使うが、娘の生死がはっきりしない。

(すでに帝国を出たのか?)



皇帝に即位する前も即位してからも鑑定眼を持つ為、眼を合わせてくる者が誰もいなかった。そもそも帝国では黄金眼と眼を合わせるなと言われている。


何度も続く側妃の子の死亡、流産を不審に思い、影を使って調べたら、皇妃の仕業だとわかった。


皇妃とは、もう何年も連れ添い過ごしている。元々祖母が皇女である妻は、隠しているが傲慢な所があり、苦手だった。


だが、自分の子供を長男以外全て殺すとは思っていなかった。


一人庭園で項垂れていると、枝を折る音がする。


目を向けると、相手の娘と目が合った。


皇妃でさえ、目を合わす事など無いのに、目の前の娘は見惚れたように見つめてくる。


初めての経験だった。


娘を見ていると、すぐに影から報告があった実行犯と思われる侍女だと気がついた。影でも手口が分からないらしい。


そうだ。この娘は安全かもしれない。


娘はリーヤと名乗った。すぐに側妃に迎え、一緒に過ごす。リーヤはいつも嬉しそうに迎え、躊躇いなく目を合わせてくる。


その時間が心地よくかけがえのないものになっていた。


油断していたのは事実だ。まさか皇妃が再び動くとは思っていなかった。リーヤとイリアの行方は全く掴めない。


帝国外へ出ているだろうが、僅かに反応する生存確認の魔術から娘が死んでいないのは確かだ。


(リーヤ。今どこにいる。もう一度会いたい。今度こそ守るから帰ってきてくれ。)


巨大な帝国の中心部で、皇帝は一人で佇み遠くを見る。自分の唯一の愛おしい女が返ってくると信じていた。




















リーヤは帝国を出て船に乗り小さな港町にたどり着いた。


追手がかかる事は覚悟していた。


持ち出した皇帝から贈られた宝石をお金に変え、追手を撒くために同じ年頃の身代わりを雇った。



宝石は跡が残る。できるだけ慎重に売っているが残りもほとんどない。



見つからないように、何度も引っ越しを繰り返し、僅かな金銭を得るための仕事をしながら娘を育てている。



(彼の方はお元気かしら。)



遠くの夕日を見ながら愛おしい彼の方の瞳を思い出す。


皇妃は執念深い、何度か暗殺者が迫ってきているのを感じた。


だが、リーヤも暗殺者ギルドから指導を受けた身だ。暗殺者の行動もある程度読める。




(これで良かったのよ。贅沢はできないけど、私も娘も生きている。きっと皇城では娘を守れなかった。)


最後の日無惨に殺された護衛や侍女達。

次の皇帝の母親の権力は絶大だ。



一時だけ交わり、間近で見た光り輝く美しいあの人。


(貴方の娘は元気に育っているわ)


毎日のようにリーヤは光り輝く黄金の瞳を思い出していた。

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光り輝く貴方の為に 仲 懐苛 (nakanaka) @nakananaka

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