第3話 暗殺
リーヤは項垂れた。
今日は、皇帝に近づけて幸せだったのに、遂に皇妃から声がかかりリーヤの番になってしまった。
部屋で皇帝の肖像画を取り出し眺める。
涙で視界が滲み、前がよく見えない。
皇妃は狡猾だ。
使い捨ての駒を用意する為にあえて身分が低いものを侍女に採用しているのだろう。
もしリーヤが死んでも、皇妃に抗議できるような親族は誰もいない。
あの時見た、なによりも綺麗な黄金をもう一度見たいと願った事がいけなかったのだろうか。
ああ、嫌だ。
死にたくない。
せっかく皇城まで来たのだもの。
ここにいれば、また今日みたいに彼の方の側に近づける機会があるかもしれない。
私は何をしてもいい。どうせいつかは殺されるのだろうから。
翌日、リーヤは皇妃に面会を求めた。
人払いされた部屋で皇妃に会う。
「どうしたの?怖気ついたのかしら。」
「いいえ、皇妃様。私は必ずやり遂げます。何度でも皇妃様に従います。」
「何度でも?」
「はい。なので、私がやったとバレない限り私を見逃して欲しいのです。そのかわり、皇妃様が望む全ての子を私が排除していきます。
もちろん、私が上手くできない時は皇妃様の好きにして頂いて構いません。」
「うふふ、まあ、そんな事を言った子は初めてよ。皇帝の子を殺す事が怖くないの?」
「ええ、私の命に変えられませんから。」
「気に入ったわ。やってみなさい。貴方名前はなんだったかしら。」
「リーヤと申します。皇妃様。」
それからリーヤは、暗殺者ギルドへ行き、暗殺について学んだ。
暗殺者ギルドは、皇妃の侍女から何度も依頼があったらしいが、相手が相手なので引き受けていなかった。
リーヤが尋ねた時は、またかと嫌な顔をされたが、暗殺術を習いたいと告げると、同情されながら教えてくれた。
皇妃の侍女が今までどうなったか知っているのだ。
「あんたは変わっているな。暗殺業を習いたいって言った侍女は初めてだよ。」
「私が死んでも、どうせ次の子が犠牲になるだけだわ。」
「まあ、そうだろうな。あの皇妃はどうかしている。自分の息子以外の黄金眼を認める気が無いらしい。」
「ええ、私はできる事をするだけだわ」
(そして、できればまたあの方の近くに少しでも近づきたい。)
リーヤは毒との相性が良かった。様々な毒を習い、自分でも調べた。
特に流産を促す毒を調べ、いくつか入手した。
今のターゲットは、妊娠中の側妃だ。お腹の子供を殺せと言われた。母親は関係ないはずだ。
後宮の厨房にリーヤは来ていた。ここ最近は毎日通い、厨房人と皇妃の食事について話をする。
皇妃が何を喜んだとか、どんなものを食べたいと言っていたか等と談笑する。
食事ができたようだ。
あらかじめ調べておいた側妃の食事に無味無臭に加工した細かい粉を周囲に見つからないようにふりかける。
リーヤが調べ作ったその粉は、いくつかの植物を合わせている。個々の植物はほとんど人体に害を与えない。ただ合わせたら妊娠中の流産を引き起こす。
側妃は流産するだろうが、他の者が食べても影響がなく、調べても気付かないだろう。
リーヤはいつものように、皇妃の食事を受け取り戻った。
3日後、側妃が流産したと知らせがあった。
すぐに皇妃に呼び出される。
「リーヤ。どうやったの?誰も流産させられたなんて疑っていないわよ。」
「暗殺ギルドで得た知識を使いました。何度でも私なら上手くできると思いますわ。」
「そう。いいわ。貴方は役立ちそうね。しっかり仕えてね。」
リーヤはホッとした。どうやら今回、私は殺されずにすみそうだ。
他の侍女達は、皇妃に呼び出され側妃が流産したにも関わらず、変わりなく勤めるリーヤに驚いた。
「リーヤどうやったの?」
「私は皇妃様に従っただけよ。心配しないで、失敗しなければ私がずっと役目を負うわ。」
「そんな。貴方。もし分かったら大変な事になるわよ。」
「いいのよ。私には父しかいないし、家門ももうすぐ無くなるわ。心配しないで、上手くやるから」
リーヤはそれから定期的に毒を使った。殺すのはお腹の子供だけで、側妃には手をつけなかった。皇妃は自分の息子以外の黄金眼が増えないように暗殺をしているらしい。
側妃の妊娠が判るたびに毒を使い、リーヤがしている事が気づかれないまま、24歳になっていた。
最近は、皇帝は側妃の所へ通っていない。
何度側妃が妊娠しても、子が無事に産まれる事が無く、皇帝の子供を望む声も減っていた。
来年には第一王子が15歳を迎える。優秀な第一王子は既に黄金眼の兆候が見られるらしい。
リーヤは暗殺ギルドで、聞いた話を思い出す。
「皇帝が流産の事を疑っているらしい。皇帝の影が皇妃の周りをウヨウヨしている。リーヤも気をつけろよ。」
リーヤの毒は、リーヤしか知らない。配合し使った後は、毎回全て処分している。
それぞれの植物はよくあるもので、疑われる可能性は低い。
もう一年も毒を使っていなかった。そろそろ私はお祓い箱かもしれない。
皇妃の侍女の入れ替わりは相変わらず激しい。些細な事で首にしている。
リーヤは24歳でありながら、最も年長の侍女になっていた。
リーヤは皇城の中庭を歩いていた。
いつも歩いている道だ。
ふと生垣の向こうがキラリと光った気がした。
不思議に思い、生垣の向こうへ行く。少し歩くと、ベンチがあり、男性が一人座っていた。
ブラウンの髪の男性は、項垂れている。
ああ、見つけた。
リーヤはふらふらと近づいていった。
長年探し続けた宝物をやっと見つけたような感動が胸を襲う。
足元の枝を踏みつけ、パキッっと音がする。
目の前の男性はその音を聞き顔を上げた。
輝くなによりも美しい黄金眼がそこにあった。
侍女は皇帝の目を見てはいけない。頭を下げなければならない。
でも、リーヤは、もうすぐ皇妃に殺されるだろう。役目を終えたリーヤをあの皇妃が生かしておくとは思えない。
どうせ死ぬなら、憧れ続けた黄金眼を目に焼き付けてから死にたい。
不敬を承知で皇帝を見続けた。
「其方は、怖くないのか?」
皇帝はリーヤに問いかけた。
「どうしてですか。こんなに美しくて素晴らしい瞳が怖いはずがありません。」
皇帝は驚いたようにリーヤを見る。
「其方名前は?」
「リーヤです。陛下。」
リーヤや皇帝の眼を見ながら嬉しそうに微笑んだ。
その日リーヤは皇帝と夜を共にした。久しぶりの側妃誕生に、臣下達は喜んだ。
すぐに後宮に部屋を与えられ、そこに居を移す事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます