第2話 皇妃の侍女

18歳になったリーヤは、単身皇都に来ていた。


皇妃様の侍女に選ばれる事になったのだ。


リーヤの父は子爵位を持っている。でも、父の先代の時に領地で大規模な水害があり借金をして領民の生活を支援した。その後何年か領地改革をするが、成果に乏しく借金返済の為領土は国に返還している。


名ばかりの子爵である父は、現在や役所に働きに出ていて、ほとんど平民と変わらない生活を送っていた。


リーヤはそれなりの教育を受けていたが、皇妃の侍女に選ばれる程の身分では無かった。


ひと目見て皇帝に心酔してしまったリーヤはなんとか皇城での働き口を探していた。ちょうど皇妃の侍女を、貴族から探していると情報があり、駄目だと思いながら応募した選ばれる事になった。



「本当に、行くのかい。リーヤ」


「はい。お父様。私精一杯勤めてきます。」


「ああ、体調に気をつけるんだよ。たまには帰っておいで。」


父の子はリーヤしかおらず、子爵は父の代で絶えると考えられた。

母は既に鬼籍に入っている。

持参金もないリーヤには嫁ぎ先も無かった。


皇帝陛下の肖像画を大事に荷物の奥にいれ、身の回りの物を持ってリーヤは旅立った。








皇都につき、さっそく皇城に向かう。


すぐに使用人部屋に案内され、明日から勤務が始まるという。



身の回りのものを片付け、皇帝の肖像画を手に取る。



皇妃に仕えるのならば、皇帝にお会いできる機会もあるはず。リーヤはうっとりと肖像画を見ながら、これからの生活を夢見ていた。


丁寧に皇帝の肖像画をベットの隣にある鍵付き引き出しに片付ける。



リーヤは浮かれていた。皇妃の侍女に選ばれるという事がどういう事か知らずに。










翌日、侍女服に着替えて皇妃の部屋に向かう。


部屋に入り侍女長に言われ挨拶をする。


「お初にお目にかかります皇妃様。リーヤでございます。」



深々とお辞儀をして頭を上げる。



皇妃は冷たい目でリーヤを一瞥し、すぐに興味がなさそうに目を逸らした。


「よく励みなさい。」



リーヤは祝宴でみかけた愛想がいい皇妃のイメージだったので少し驚く。

周囲の侍女達の表情も何処となく暗い気がするが気のせいだろうか。



一部のものはリーヤを哀れむようにみてきた。


(なんだかお通夜みたい。)



さっそくその日から侍女の仕事が始まった。

皇妃の侍女は沢山いて、新人のリーヤは雑用をこなす事が多かった。


何週間経っても、楽しみにしていた皇帝にお目にかかる機会が来ない。


皇帝は皇妃と公務以外でほとんど会わないみたいだった。


(もう第一王子様がおられるからいいのかな。)


皇帝の長子は7年前に生まれてスクスク育っているらしい。代々帝国の子供は15歳まで専門の侍女や侍従が付くらしく、皇妃が息子の元へ訪れる時は皇妃の侍女は付いていく事が無かった。



リーヤは侍女となり一ヶ月経った頃、一人の先輩侍女が、物陰で泣いているのを見つけた。


慌てて声をかけようとすると、隣にいた別の侍女に止められる。


「やめなさい。どうしようも無い事もあるのだからそっとしておいてあげて。」


その侍女も泣きそうな顔でリーヤを諭してきた。


言われた通りその時はその場を離れる。


次にリーヤはが出勤した時、泣いていた侍女の姿が無かった。


気になり先輩に尋ねるが、首を振り教えてくれない。



そういう事か毎月のように続き、リーヤも気がついた。


皇妃の侍女がいなくなるたびに、皇城で側妃の子供が死んだ。怪我をした。側妃が病気になったと噂が流れる。


いなくなった侍女が二度と戻ってくる事はなかった。



現在帝国には黄金眼を持つものが少ない。黄金眼を持つものを増やす為に、皇帝には沢山の側妃が後宮に集められていた。

皇帝は側妃の元へ通い、何度も子ができるが、産まれてしばらくすると亡くなる事が多く、5歳をこえて育っているのは皇妃の息子だけだった。



目の前で穏やかそうに微笑み皇妃が優雅にお茶をしている。


入れ替わりの激しい侍女達。


皇妃の息子以外、成長しない皇女や皇子達。





ああ、とんでもない所に来てしまったかもしれない。

リーヤは初めて後悔していた。












その日は珍しく、皇帝が皇妃の元を訪れていた。

皇帝が来た時は、頭を下げ眼を合わせないように侍女達は指導される。



頭を下げ続けるリーヤの前を皇帝が通り過ぎる。


10歳の時から憧れ続けた人が目の前を通る。

あの美しい眼を想像しながらリーヤは嬉しくて泣きそうになっていた。


皇帝はしばらく皇妃と話をして帰っていった。




その直後、リーヤは皇妃に呼ばれた。



「リーヤです。皇妃様」


「貴方に頼みたい事があるの。また子供が産まれるらしいわ。忌々しい事。」


いつもの微笑みを消した皇妃は顔を歪めてリーヤに告げる。


「子供を殺しなさい。その後は貴方は逃げるなり死ぬなり好きにすればいいわ。もしできなければ、家族がどうなるか分かるわよね。」



ドキドキと心臓が音を立てる。


ついにリーヤの順番がやってきたのだ。


「どうやって、、、」


「やり方は任せるわ。バレそうになったらすぐに逃げるか死ぬ事よ。皇帝の子供を殺そうとした者の家族がどうなるか想像がつくでしょ。


貴方には暗殺者をつけるわ。逃げようとしたり、この事を誰かを話そうとしても無駄よ。」


ああ、失敗しても成功しても殺されるのだ。


いなくなった先輩の侍女達は皆死んでしまったらしい。




「分かりました。」


リーヤは深く頭を下げながら返事をした。

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