第三話『そこにアイはあるか』 その㉒幸せ者


「なんで怒らないの?」


 カラオケルームを出て、アリサを支えながら廊下を歩く。ほんとに歩けないみたい。


 勇気を出して訊いたアタシの言葉にアリサは何も言ってくれなくて、見てもくれてない。



「ねぇ、なんか言ってよ」


「………………」


 無言。左足を引きずりながら痛々しく歩くアリサ。


 ヒトミさんの膝の上で寝ていたのは、そういうことだし、言い訳をする気もない。


 それに最後にアリサの前に出たのだって、普通に考えたら怒られるのが当たり前で。



「なんで、なんで来てくれたのよ」


 アリサにとってどれだけ言われたくないことを自分が言っていたのかも、

 どれだけして欲しくなかったことを自分がしていたのかも、

 後々になって気付いた。最低、最低な女だ。


 なのに、アリサはアタシを迎えに来てくれた。


 今日だってヒトミさんにボコボコにやられて、

 もう無理だって自分でも分かってるはずなのに、泣きながら虚勢を張って、

 そんなダサい姿をアタシに晒してまで諦めないでいてくれて。


 思わず全然得意じゃないのに歌っちゃったけど、

 それも空回りだったのかな、、



「せめて怒ってよぉ……」


 アタシは耐えられなくて泣いてしまう。


 やっぱりアタシはブスだ。


 どうしょうもないくらいに醜いブスで、アリサを好きでいる資格なんて無いんだ。



 なんてブスブスなことを思っていると、アリサは頭を乱雑に掻きながらに唸って、、



「だからこうして黙って怒ってんだろうが」



 それだけ言ってくれた。それ以上はもう何も言ってくれなかったけど。


 アタシは幸せの中で、これからこの人を一つずつ知っていこうと、ただそう強く思った。


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