第三話『そこにアイはあるか』 その⑱そい家
「だらああぁあああ!!!」
豪快に自転車を乗り捨てた。下北沢駅前、汗はもうダラダラだけど気にしてらんねぇ!
当ても無く来たけど、もう下校時間から二時間近く経ってるし行動するしかない!!
オレが青の制服を見つけ次第、そいつの胸ぐらを掴もうとした時だった――、
「アリサさん! こっちッスー!!」
自転車の転倒音が聞こえたのか、何故かいた小野田が駅の裏道からひょっこり現れた。
「なんで小野田が……ってうぉ!? 誰だそいつ!!?」
裏道まで入っていくとガムテープで両手、両足、口元が縛られている青服がいて、、、
「不動の権田さんッス! いま情報吐かせてるッスから!!」
いきなりチョークスリーパー!? しかも口をガムテープで縛りながらっ!!?
「やめろ小野田! 死んじまうぞ!!」
「大丈夫ッスよ~、絞め技には心得があるッスから~~」
とても大丈夫には見えない。不動の権田さんも動きまくりで首を横にブンブン振るう。
「とにかくもう止めろ! ……で、今はどういう状況なんだ??」
目の前の惨い現実を拒否する様に、小野田に聞いた。さっきからニコニコしてて怖い。
「めぐめぐが今さっき二人倒したって。寺林先輩と佐久間先輩は音信不通ッスね。で、今しがた権田さんから新たに引き出した情報で、放課後よく行くラーメン屋さんがあるとか」
「佐久間も来てんのかよ。でもラーメン屋か。確かに仲間と遊んだ後に行きそうだな」
「ちょっと離れたとこみたいッス! で、どうしまス? めぐめぐの合流待つッスか??」
「いや、もう充分だ。これは元からオレの喧嘩だからな。あとはオレがケリを付けてくる。だからマリと佐久間にもここに戻るように伝えといてくれよな。無事だといいんだけど」
例え無事でなくともオレが仇を取る。それが撫子ってもんなんだろう。
オレは小野田からラーメン屋の場所を詳しく聞くと、銃のマガジンを忘れずに回収して更に一発撃つ様にと釘を刺された。流石はマリだな、銃も荷物になるし賢いやり方だ。
んで出発。あの笑顔が怖いので振り返らないように小走りで数分。ラーメン屋『そい家』はあった。家系ラーメンでご飯無料、値段も安い。高校生の財布にも優しいって訳だな。
だけどオレはラーメンを食いに来たのではない。覚悟を決めて
「しゃあせええい!!」
凄い熱気。豚骨醤油スープの匂いが漂う店内。学生、サラリーウーマン、それらが汗を垂らしながら熱心に麺とスープ、白飯を掻き込んでいる。
………見つけた。鷹木はいなかったが青いのが二人。三点バーストの高橋と、死体撃ちの木村。奥のテーブル席に陣取っている。ので、オレは入口すぐのカウンター席に座った。
席の距離は6と5m。テーブル席とカウンター席の間には仕切り代わりの低い棚があり、カウンター席には客が他に四名。二人は絶賛夢中になってラーメンを啜っていて、片方の木村はこちらに背を向けている。…………いける。
悪くない条件だ。この距離からでは電磁弾が届かないものの、何とか隙を見て近付き、奥のこちらを向く高橋に奇襲を掛けられたのなら、後ろ向きの木村を後で処理するのは楽。
あとはタイミング。それさえ決めればもうどうってことない喧嘩だな。
「お客さんご注文は?」
「もうちょっと待ってくれ」
こっちはラーメン食べてる場合じゃないんだよ。攻めるタイミングを決めなくては、、
よし決めた! 高橋が次に水のコップを掴んだ瞬間。その瞬間を狙って一気に近付く!!
まだかまだかまだかしかしうまそうにくうなまだかまだかまだかまだか―――。
そして遂に! 高橋がコップに目線を移した!! 今だっ!!!
「おう? 甲本じゃねぇか! まさかお前もそい家ファンだったとはなぁ!!」
…………立った瞬間に、声を掛けられた???
…………赤スカジャンに金髪、、後藤、、、だった。
後藤のクソアホ野郎が入店して来たなり、オレを見つけて『
「「甲本ォ!?」」
そらそうですよね! オレは一気に距離を詰めっ、仕切り代わりにある棚に身を伏せる!!
ここからならオレの電磁弾も届く! が、二人で一気に来られたら詰みだっ!!
「おう甲本ぉ! なんかトラブルみてぇだな!!」
後藤がオレのとこまでスライディングしてきた! なにイキイキしてんだてめぇ!!
「清女と戦争中! 相手はテーブル席の青い二人! 武器はゴム弾のハンドガンッ!!」
右上に銃口を向けながら叫ぶ! もういつ来てもおかしくないんだかんな!!?
「ゴム弾のハンドガンんん?? なら負ける訳にはいかねぇなぁおい!!」
「ああそうだよ! せっかく奇襲掛けようとしてたんだ!! 責任取れよな!!!」
そんなピースサインいらん! せめて勝ってからにしろっ!!
もう十数秒は経ったのに奴らも攻めて来なかった! あいつ等も慎重なのか!!?
ゴンッ、、ビシャアアァ!!
スープと麺。まだ食べかけのどんぶりが二つ投げ込まれた。
「「フハハハハハハハ!!!」」
服に、、、くっっせぇ、、、、
「おっし、甲本。あいつら殺すぞ」
「だからそう言ってんだろ」
こっちは真面目にやってんのにさ。どんぶりを投げた後も隙を突いて攻めにも来ねぇし。
超ベトベトするし、この後お前らぶっ殺したら鷹木ともやんなくちゃなんねぇのによ。
「一発で決めるぞ後藤。オレは右、お前は左だ」
「指図すんなよ甲本! でも、それでやってやる。合図はアタイだかんな」
無言で頷くと、
後藤は指で 3、 2、 1、とカウントダウンして―――、
「せーーので!!」
声に出すなよアホッ!!
オレは立ち上がり右ッ――!! 三点バーストの高橋!!!
三連続の発砲音。
それらは後方、窓ガラスを割った。
バカだな。銃ってのはそんなに焦って撃つもんじゃないんだよ。
『ババヂィ!』
ビリッときた。
オレの相棒は発砲すると手の中で僅かに放電するようだ。消費電力14%。悪くない。
高橋は後頭部を黄ばんだ壁に打ちつけた。
「痛ってぇなぁ! 死ね!!」(後藤エリカ)
「てめぇが死ねや!!」(死体撃ちの木村)
下手くそどもが、、隣でパンパン撃ち合っている。
『ババヂィッ!』
「あぎゃッ!?」
木村はテーブルの上にぶっ倒れた。それを後藤が更に二発ぶち込む。死体撃ちだな。
「あーーいってぇ! てか甲本ぉ! アタイの獲物に手ぇ出すんじゃねえよ!!」
「だって負けそうだったから」
「ぶっ殺すぞゴラァ!?」
「嘘だよ。ありがとな、助かったよ」
オレが言うと後藤は「お、おぅ?」っと調子を崩した。分かるよ、だが何も言うな。
「お礼にラーメンの一杯くらい奢ってやろうか?」
「…………いや、いらねぇ。食欲失せたわ」
それはもっと分かった。こんなに身体中から豚骨醤油の臭いがすりゃそうだろう。
オレは二人の銃からマガジンを回収し、弾抜きも済ませ、最後に後藤と店主に一言お礼。
そしてこのままでは嫌だったので、とりあえず駅に戻ることにしたのだった。
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