第三話『そこにアイはあるか』 その⑰ブス


 ヒトミさんは流行りの女性ボーカルロックバンドの曲を好んで歌った。 


 かと思うと、急に男性アイドルグループの曲を踊りながら歌ったり、ちょっとイタめのアニメソングを頭を振りながら歌ったり、とにかくアタシを楽しませようとしてくれて、、


「フゥ……汗をかいてしまったし、少し休憩だ」


 豪快にアタシの隣に座り、コーラを飲んで上品に、少しだけ恥かしそうにゲップをする。



「歌えって言わないんですね」

「うん、僕君は優妃君と二人で居れば楽しいからね。彼女らには悪いことをしたけれど」

「そんなに悪いって思ってないでしょ」

「ハハハ、優妃君には敵わないな」


 なんでアタシがヒトミさんに気に入られてるのか、徐々にだけど分かってきた。


 ヒトミさんは、自分に気圧されない気の強い子が好きなのだ。それがたまたまアタシで。


 確かに、同じ学校の子だったら難しいのかもしれない。ヒトミさんにしても同じ学校の子に自分の弱味を見せるのはどこか違うのだろう。だからほんとにたまたまだ。



「優妃君。アリサ君の事とは別に……君と話したい事があるんだ」


「ねぇ、それよりもアタシ、、ちょっと眠いの」


 アタシはヒトミさんの膝の上に頭を乗せて寝転がった。そうするのがいいと思った。


 ヒトミさんが何の話をしようとしたか、分かった気がしたから。



「顔が赤いわよ? 白い鷹さんなのにね」

「か、からかわないで欲しい! 僕君だって人並みには照れもするっ……!」


 ほんと、アタシって性格がブスだ。

 自分の見てくれが良いからってすぐ調子に乗るし、思ったことズカズカ言うし。


 こうして純粋な人を困らせて楽しんでる。


 自分の望むモノが手に入らないからって、こんなの酷い八つ当たりだ。



「まだ何か思い悩んでいるんだね。なら今は僕君の膝の上でいいならゆっくり休むといい」

「そうかもね。それもいいのかもね」


 でもこの人なら……。


 頭を撫でられてるのに嫌じゃない、この人なら…………。


 なんだか、本当に落ち着いて、心地良くて、だんだんと眠くなって………………。



 次に目が覚めた時、彼女の話を逃げずにちゃんと聞こう。そしてちゃんと返事をしよう。


 アタシはそれだけを決めて、、ゆっくりと目を閉じた、、、


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る