第三話『そこにアイはあるか』 その⑯想定外&想定外


「おいまだ仕掛けねぇのかよ」

「五月蝿いわね。少し黙ってなさい」


 小野田ちゃんからのメッセージが来るよりもだいぶ前に、私は七人衆を見つけていた。


 二人。何気なく入ってみた大きな三階建てのゲームセンター。その一階クレーンゲームコーナーで筐体を叩き、揺らしながら遊んでいるバカ共を見つけたのが今から約三十分前。


 新聞の写真からすると、伏せ撃ちの渡辺と、待ち伏せの中前か。名前からして弱そう。



 なんだけど―― まだ仕掛けずにいる私がいた。


 横にいる男に急かされるのもしょうがない。だって二個隣の筐体に張り付いているのに、もう欲しくもないぬいぐるみに二千円も使ったのに、相手の横顔すら見れていなくて、、


「もう小銭もねぇよ。両替しに行くか?」

「ダメに決まってるでしょ!?……いいからあなたはそこに突っ立ってなさい!!」


 私と七人衆の間に立たせている男。何その不満顔。カップルにでも見られてたらこっちが最悪なんだから! 

 ええそうよ! ビビってるわよ!! 何か文句あんの!!?


 実質、二対一という状況。それにさっきの不動の権田との一件が頭から離れない。



 ちゃんと、、仕留め切れなかった。



 私のS2じゃ喧嘩には電圧が足りてないってことなの??


 散々雑誌やらネットで言われ続けてきたことだ。だから次世代のSシリーズの電磁弾は電圧が年々上げられ続けてる訳で、、私が馬鹿にしてきたことがやっぱり正しかったとかそんなの絶対認めたくない。


 でももし一発で仕留め切れないのに、いきなりここで二人組を相手にしちゃったら……。


 あぁもう! どちらかがトイレにでも行ってくれたらいいのに。



「なぁにお譲ちゃん。そのぬいぐるみが欲しいの??」

「はひっ!?」


 話しかけてきた!? 向こうから!!?


「その制服三葉だよね。てか君らカップル? じゃなかったら取ってあげるんだけどなー」

「男の子はどっちがタイプぅ? うちらどっちでもイケるから選んでいーよー!」


 馴れ馴れしいし下品っ! そのニヤけ面で近付かないでよ気持ち悪い!!



(おいどうすんだよ……)


 そう目線で訴えてくる男。ああもう! やればいいんでしょ!!


「……あの白熊が欲しいの。私たちカップルじゃないし。えっと、連絡先交換しますか?」


 私は画面を操作しながら片方にスマホガンを向けた。それをやや上向きに傾けて――、



「おい! こいつが持ってんのスマホガンだ!!!」


 !!? 私は咄嗟にトリガーを引くッ!!



『チキュンッ!』

「あぶな――っ」


 何よその柔らかい体勢!!? しまった! こいつ伏せ撃ちの渡辺かっ!!!


「こいつら甲本の仲間だっ!」

「死ねぇ!」


 二人に銃を抜かれる! このままじゃ蜂の巣!? 

 そうだ男ぉ!!


「ちょ―ふざけひっぱんなッ!? あアぁあいぎぃああああ!!!??」


 容赦の無い集中砲火! この男がデカくてよかった!!



 男の脇の下から腕を出し、下、体を異常に屈ませている渡辺を撃つ! もう一発撃つ!!


「渡辺ぇ!? くそ! なんなんだよお前ら!!」


 盾を持たれている状態では分が悪いと判断したのか、中前は店の角奥に逃げ込んだ。



 危ない危ない危ないよかったよかったよかった……。でも見たぁ!? 威力が弱ければ二度撃ちで仕留めればいいのよ! 再装填が速いのもこのS2の強みなんだから!!


「あふぇ、、おわっえぇ、、、、、」


「なによ筋肉ダルマのくせしてだらしないわね」


 見れば男は涙と鼻水を垂らして倒れた。何発撃たれたのか、もう使えそうにない。



「そっちは行き止まりのはずだけど、、残ったのが待ち伏せの中前か」


 不吉ね。店の角も角。クレーンゲームの筐体の先の角っこ。そこで待ち伏せされている。


 こちらが撃たれないように腕だけを筐体の先に伸ばして撃つ、ということも可能だけど、それはこのS2の電磁弾の威力では望ましくないやり方だった。下手に近付いたところを相打ち覚悟で飛び出されたら、その弾丸の威力に耐えられないのは間違いなく私だろう。


「私が勝つには、相手に撃たれるより先に急所を撃ち抜くしかない」


 急所。顔じゃなくても胸か喉か、とにかく上半身に限られる。手を撃って銃を落とすのは狙える時間がないのなら夢物語だし、とにかくパッと出てパッと上半身を先に撃つ!



 ただどうやって? 中前だって銃口を角に合わせてジッとしているに違いない、、


 要するに角待ちってやつよね。なら圧倒的にこちらが不利……いや、そうでもないかも。


 決め撃ち。

 見えない的の位置を予測して、動きながらに撃つ。


 部活ではそのどちらの経験も無い。けれど、それが今この場で必要な事だと理解する。



「甲本アリサ……あの子ならそうするんでしょう?」


 何が喧嘩よ! 何が甲本アリサよ!! 私の方が凄いんだから見てなさいッ!!!


 全力で! 靴音を鳴らしながらでも!!

 バレバレだろうと!! 角待ちされてようとぉ!!!

                    


「真っ直ぐに飛び込んでやるわよぉッ!!!!」



 わ、ちょっ― なにコレッ― こんなにクッキリハッキリと――。 


 驚愕する中前の顔が― ゆっくりの時間の中で――。 



 私の脳裏にジリジリと焼き付いていく―――。


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