第三話『そこにアイはあるか』 その⑮めぐのやり方
走って、走って、走って、アイスを食べて、走って、走って、コンビニのトイレで部活の陸上着に着替えて、走って、走って、走って、タピオカを飲んで、走って、走って、、
それでも鷹木も、残りの六人衆の一人も見つかんなくてめっちゃ無駄足踏まされてた。
「たくどこほっつき歩いてんだよ! そもそも歩いてすらないってパターン!?」
室内のどっかでたむろってる? それはめぐてきには少しも面白くないんだけど!!
この無駄に走らされた鬱憤を早くどいつかで晴らさなくちゃ気が済まないよッ!!
「こっちはしょっぱな鷹木でもいいってのに! ……ん? チヨっちからメッセだ」
『ボーナストラックっていうショッピング街でナンパしてるかも』
瞬間全速力っ! あの場所は知ってる! ここからめぐの足なら二分としない!!
路地を曲がり、曲がり、直線、邪魔だお前! 壁を蹴って、駅前を通過して直線で、、
ほら白くて四角い建物! それが数件並んで緑の低い木がわさわさ生えてて優しい照明、カフェに木製のテーブルにで超お洒落!! 確かにナンパにはもってこいの雰囲気かも。
でも道が狭くて走り難いところが最悪だけどねっ!!
さてさて腰に茶色の皮ホルダー、腰に茶色の皮ホルダー、腰に茶色の皮ホルダー、、お。
「みいぃつけたああああぁ!!!」
「……あぁん?」
前方二人組、気弱そうな男子に絡んでる。その片方が間抜けな声を出して振り向いた。
先手必勝! それがめぐの喧嘩美学だッ!!
八人掛かりでアリ先を虐めたんなら! これくらいで文句言うなよな!!?
「超電磁キック!!」
「ぼふぁあ!!?」
超ぉ気持ち良いぃッ!! 背中に一発! 過去最高にぶっ飛ばしてやったぜい!!!
「鈴木ぃ!!」
ツンツン頭がぶっ飛んだ鈴木とやらに叫びながら、もう自分の銃を抜き取っている!!
速い! ツンツン頭は早抜きの佐藤だっけ!?
てか鈴木は確か膝壊し!? なら超ラッキーじゃん!!!
「何者だてめ―ッ」
目を合わせられる直前に体勢を直して駆け出すっ! 来た道を逆にィ!!
発砲音! ほんとにパンパンって音ッ――、
「うわぁ!?」
当たった! 背中、上半身が前方に押し出される―ッ、、
けど! なんとかバランスを保った!!
やっぱり大正解! この為にわざわざ
「逃げんなコラぁ!!」
更に後方から数発、フェイントも入れてギリ、真横のレコード屋さんの中に飛び込めた。
「かはぁ、はぁ、、ほんとは通りまで逃げ切りたかったけどしょうがないかぁ……」
ほんと陸上と喧嘩の走り方って全然違う。こんな短距離で息切れなんて信じられないよ。
でももうあと10m先まで走れていたら、この小さなショッピング街から脱出してどうすることだってできたのにな、、こんな小さなお店じゃまさに袋のネズミってやつ。
「でもあのまま真っ直ぐ走ってたら絶対に足とか撃たれちゃってたからしかたないよね。たく、アリ先のスマホガンがよっぽどヘナチョコ銃なのが分かるよ」
って今はアリ先のことなんて考えてる場合じゃなかったんだ!
お店のおじさんが迷惑そうに見てるけど、それも無視して作戦を考えなきゃだ。
入口は狭いし、店の中も狭いし、向かいのお店までの道幅もかなり狭い。
だから走るスピードも出せないし、銃弾を避ける空間もほぼ皆無ってこと……。
佐藤が来るまであと何秒? それとも外で入口見張ってる? まさか仲間を集める??
いっそのことここから飛び出すべきなのか、向こうが顔を出すのを待つべきなのか、、
「こういう時アリ先だったら……ってだからアイツのことはいいんだって!!」
焦ってるし追い詰められてる! 頭の中がグチャグチャでめっちゃムカつく!!
けど! ここで安易な考えを選んだら負けるのはもう知ってるから!!!
「おーいてめー、誰だか知らねーけど、誰に喧嘩売ったのかは分かってんだろーなー?」
佐藤が店の外から声を掛けてきた。
やっとだ。やっぱジッと銃を構えて入口を見張っていたんだ。
もちろん返事はしないよ。向こうはこっちの位置を探ろうとしているんだから。
「ダンマリかよ? どうせ三葉かどっかのバカだろうがいま謝んだったら―あん??」
店内の試し聴き用レコードプレイヤー。それを音量マックスの状態にしてヘッドホンを引き、イヤホンジャックを引っこ抜いた。おじさんに超睨まれたけど、これが撫子絡みの喧嘩だとは察しってくれたみたい。ならある程度は許してよねおじさん。
大音量の古い洋楽が店外まで流れ出る。すっごくポップな感じ? オブラディラダ??
「さてさて、それで入って来れるのかな??」
自分の声すら聞き取れないくらいの爆音。外の音なんてまるで聞こえなくなっている。
これはめぐからの挑戦状だ。賢い人ならまず乗って来ないような安い挑発だ。
でも、相手をナメてる、三葉をナメてるような頭の悪い奴なら乗ってくると思った。
「だってこっちもめっちゃ頭の悪いことしてんだからさ」
レコードプレイヤーは店の扉から真っ直ぐ、レジのすぐ隣にある。
外からだって奥にはめぐがいないってのは見えるよね?
で、更にちゃんと観察すれば実はめぐがどこにいるかは丸分かりでしょう??
そう、床。見るべきはヘッドホンのケーブルだ。
抜かれたイヤホンジャックから伸びるケーブルは何処に続いているのかな、、、
はい正解。入口、入ってすぐの真左にめぐはいる。
小さな建物だし、外からでもその先のスペースが2mもないのも分かるはずだよ。
銃相手には入口付近で待ち伏せて横から飛びつく。映画でもよくある常套手段だよね?
来るっ! お店のガラス戸にツンツン頭が反射して映った――!
「そこだあぁ!!」
佐藤は入口を潜ると同時に、ちゃんと何の疑いも無く左に銃を向けた!!
おめでとう! バッチリめぐもそこにいるよ!!
「なんだそりゃァ!??」
1、2ぃ、1、2ぃ、1、2ぃ、1、2ぃ、1、2ぃの、今ぁ―ッ!!
「りゃッ―」
佐藤がトリガーを引く瞬間! めぐはこの右足を解放したッ!!
ビックリだ。ほんとにパッて光ったみたいに速かったから―――。
銃を握る手首を真下から爪先で蹴り叩いた。その感触すらも全然分からなかった。
護身用陸上シューズ。それをフルパワーの状態でその場にキープして腿上げをし続ける。
あのね、マジに腿とふくらはぎの筋肉がつる寸前で泣きそうだったから。
でも、頑張れた。やってやった。これが日々の成果だ。こんな地獄メニューはお断りだけど。地道な筋トレに掛けた時間は、必ず自分を裏切らないんだ。
「ま、レコードの爆音で腿上げの音を誤魔化すなんて、くだらない先輩のおかげだけどさ」
佐藤は泡を吹いて倒れていた。手首をやっちったのかもね。べつに謝る気もないけど。
「こんな反則武器で喧嘩しようってんなら、お互い様だもんね」
拳銃のマガジンを回収して最後の弾も抜いた。そしてレコード屋のおじさんにも謝って、から逃げ出て、、なんかまだ倒れたまま泣いてた鈴木からもちゃんとマガジンを没収する。
「よーし終わり! とりあえずチヨっちにメッセ送っか!!」
そしてさっきから気になっていたスムージー屋さんでパインシトラスを注文した。
とっても冷たくて甘いぃ! なんだよ下北最高じゃん!!
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