第三話『そこにアイはあるか』 その⑫下北沢上陸作戦



「下北にとうちゃーーく!! マリ先もテンション上げていきましょーー!!!」



「はいはい。さっさと済ませてさっさと帰るわよ。あんまり好きじゃないのよこの街」


 ファッションだのライブハウスだの微塵も興味がない街だ。建物も低くて古臭いし。


 私が今、興味があるのは喧嘩というものだけ。


 スマホガン三台なんてただの口実で、私が喧嘩をする理由が欲しかったにすぎない。


「そんなに喧嘩が偉いって言うんなら、照明してみなさいよ」


 こうもムカついていたら、部活だって集中してできやしないのよ。



 その原因はあいつ、甲本アリサだ。


 あいつの放った三発。後ろを向いてのバク宙からの三発。


 あんなふざけたこと、って思ってしまった。


 別にアレを習得したいのではない。しかしだ、喧嘩が部活より優れていると、そう認めなくてはならないのではないかと、自分自身に問われているような気がしてウザったい。


 だから今日、それを否定する為にここへ来た。


 私はあいつらより強い。それに海外製の護身銃? 上等じゃない。撫子にしたってそう。『喧嘩が強くて一流』みたいなふざけた上からの空気、今日はそれを全部否定してやるの。



「で、どうするッスか? 聞いた情報によると鷹木とその他七人は放課後は駅前でずっと遊んでから帰るって話ッスから、その辺にいるとは思うんッスけど」


「松島がその鷹木って奴らと一緒にいんだろ? 連絡先知ってれば聞き出せたのにな」


 速水めぐの他にも小野田ちゃんと男が付いてきていた。


 この二人の戦力には期待しない。特に男なんて何考えてここに来てんのかしら?


 私が微妙な顔を送ったからか、小野田ちゃんが気を利かせたようにスマホを取り出した。


「あ、じゃあここにいる人だけでもグループ作るッスか。めぐめぐは走りたいだろうし、駅にも人がいたほうがいいッスよね? だから駅にはチヨが残って情報回すッス!」


 小野田ちゃんは馴れた様に素早くグループチャットを作ると皆にスマホをかざすように促す。この子は喧嘩とかしないはずだけど、イベント事のようにテンションが高かった。


「えーっとグループ名は何がいいッスかねー。『アリサ先輩を助け隊』とかでいいッスか?」

「ふざけないで。『甲本アリサを嫐り隊』ならいいけど」

「じゃあチヨっちとマリ先の間を取って『清女をぶっ飛ばし隊』ってとこでどうよ?」


「「じゃあそれで」」


「女ってのは物騒だな……」


 グループ名も決まったので、それに参加しようと画面をタップした時だった――。



「清女がなんだって??」



 青い制服が一人。近付いてきた。それも腰には茶色の皮ホルダーが巻かれていて、、


 ビンゴ! こうも早く見つけられるとは。



「駅前で三葉の奴らがたむろしてんなよ。ここはもう易々とお前らが遊びに来ていいとこじゃねぇぞアホども。お前らんとこの撫子が鷹木さんに世話になってんの知ってんだろ?」


 まったく誰かさんのせいですっごいナメられっぷりだわ。でも、都合が良い。


「あの、あなたのお名前を伺ってもいいかしら?」


 私は周りを確認しながらスマホを弄り、そのまま女の正面に向いた。……こいつ一人だ。


「あたしはここいらを仕切ってる鷹の七人衆が一人、その名も不動のごnがはぁ!」


「はい、不動の権田終了。何が不動なのかは知らないけど」


 。そんな自然な動作でも、その手に持っているのがスマホガンならば必殺の構えとなる。スマホガンの護身用武器としての初歩も初歩の技だ。


 でもこんな技でも実際に使うのは初めてで、人を撃ったのも初めての経験だったけど、、


「ほら、やっぱり何でも無いじゃない。喧嘩なんて」


 普段部活で練習していたことがそのまま自然と出来た。何の事はない。余裕よ余裕。


 しっかり眉間を撃ち抜いたから、相手は倒れている。私のは喧嘩の我流とは質が違うのよ。



「とどめだごるああぁあああ!!!」

「おばあああぁ!!!」



 速水めぐが両足で権田の腕を踏みつけていた。なんて野蛮なのかしら――、あれ??


 手にはっ!!?



「気をつけたほうがいいよマリ先。喧嘩ってのはそうお上品じゃないからさ」


 速水めぐは権田の手から銃を奪うとマガジンを抜き取り、彼女のスマホもポケットから抜き取った。


 相手が残り七人。そして権田が復活しても戦力にしないこと。そういう動きをする。


 そして、そんなことも分からないの? て顔。この子もいつか撃ってやろうかしら。


「ありがとう、勉強になるわ。じゃあ私も勉強ついでに一つ教えておくわね」


 私は速水めぐから銃を受け取ると、権田の背中に向け、トリガーを引いた。


「あぎゃあッ!!」


「銃っていうのはマガジンを抜いても一発は装填されてるの。だから油断しないようにね」


 撃ってみて分かった。この銃は脅威だ。もしスマホガンが竹刀なら木刀ってくらいには危険。タフなことが売りらしい不動の権田も、この一発で完全に戦意を喪失したみたいで。



「まー今のは二人の手柄ってことで! そいじゃめぐはいってきまーーす!!」


 速水めぐは今のでより高ぶったのか、我慢できずに飛び出して行く。なんて速いのかしら。


「ここにいても目立っちゃうだけなんで、寺林先輩と佐久間先輩もレッツゴーッス!!」


 小野田ちゃんは笑顔でガムテープ? を片手に、権田を駅の裏道へ引きずって行く、、、


 あの子も普通じゃないわね。私は、普通だと思うけど今はそんなこと問題じゃないか。



「女、怖ぇよ女……」


 男が隣で震え上がっていた。何しに来たのよお前は。白石にも負けるはずね。



「じゃ、私らも行くわよ」


 でも荷物持ちくらいにはなるでしょう。私は男を引っ張りながら下北沢に繰り出した。


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