第三話『そこにアイはあるか』 その⑪貴方が憎らしい
「優妃君。今日はやけに落ち込んでいるみたいだけど、嫌なことでもあったのかな?」
もうなんでもよかった。
アタシはいつの間にかヒトミさんと連絡を取り、こうして放課後にはまた下北沢にいる。
昨日はダーツだったけど、今日はカラオケだ。
アタシとヒトミさんと昨日と同じ七人組。大人数だからパーティ部屋に通され、皆いつもそうしているかの様にバカ騒ぎしていた。
「……べつにいいでしょ」
集団とは離れ、隅で隣に座るヒトミさん。アタシが不機嫌な態度をとろうと少しも動揺しない。ヒトミさんはアタシの頭に手を置くと、ポンポンっとそれを弾ませた。
「アリサ君のことかな? 急なことだったし事故みたいなものだよ。それに最後は和解もしたから気にすることはない。お互い子供でもないし、少しすれば話もまとまるさ」
アタシの態度から今日何があったのか、それを勝手に、完璧に理解したみたいだ。
「何でアタシに隠してたんですか?」
「アリサ君だって、君には知られたくなかったんじゃないのかな?」
だから喧嘩したんでしょ? そう言われてるみたいで腹が立った。
殴りたい! 噛みつきたい! この人が憎らしい!!
でも、それをやってしまったら、本当にアタシはこの人のことを…………。
「僕君が今言えるのは、落ち込んでる時は思いっきり声を出すのが一番ってことかな」
はぐらかすようにカラオケの端末を差し出された。順番で回すならアタシかヒトミさんが選曲する番なのか。青服の一人が小走りで来ると、金色のマイクを差し出してきて。
「さぁ何でも好きなのを歌ってくれ優妃君。この子らもカラオケは来なれているから安心して歌ってくれていい。もし自信がなくても皆で楽しんでしまえば問題ないだろ?」
「嫌よ。好きでもない人たちに、自分の好きな歌を聴かせたくないもの」
なんてことを言ってしまったんだ、と、思った時には遅かった。
のに、ヒトミさんだけは目を丸くしたかと思うと、途端に声を上げて笑って、、
「優妃君! 優妃君はなんて魅力的な人だろうっフッフフハぁ!!」
「不愉快です」
その笑い顔も可愛くて、ムカつくの。
「ならこうしよう。この子達にはもう帰ってもらうよ。それで僕君にだけだったら優妃君の好きな歌を聴かせてくれてもかまわないだろ? 勿論僕君も先に歌わせてもらうから」
自分は好かれていることに何の疑いもなくて。
強引にわがままで。楽しそうに選曲する姿はまるで子供みたいで。
そんな強がらない姿をアタシにだけは見せてきて。
こんな大部屋に二人きり。残されてしまったら、アタシはもうダメかも、です、、
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