第三話『そこにアイはあるか』 その⑧我が家のルール
昨日からお姉ちゃんの様子がオカシイ。
下北沢で買い物の後、ボクにクレープでも食べて来いと背中を押した時からだ。
お姉ちゃんは、その時からボクには見せようとしないお姉ちゃんに切り替わっていた。
そして夜遅く。帰ってくると電気も点けずにジッと音もないリビングで座っていて。
そのうちお風呂に入ったかと思えば、シャワーを二十分も浴びていた。
何があったのかくらいは、弟のボクだ。頭の奥底では理解している。
でも、ここまでのことは今までになかったんだ。
その前に来た優妃さんも、お姉ちゃんが家にいないことになぜかホッとしてたみたいで、お弁当だけ置いて帰ると長居もしないですぐに帰っていた。どこか、オカシイのだ。
それでも、我が家のルール。
お姉ちゃんが一人で頑張っている時は、弟のボクは口出ししない。
二人が生活していく中で、二人の空気が勝手に作っていたルールだ。
姉弟仲は世間的に見ても、信じられない人がいるくらいにはずっと良い方なんだと思う。
でもね、
ズタボロになっても、それでも一人で黙っているお姉ちゃんを隣の部屋から黙視するしかないこの時間は、惨めで、なにより自分を許せなくて、とてもとても辛い時間なんだ。
だけど、ボクの役割がそれで。
そうやって二人して生きてきたから。
お姉ちゃんのおかげで生かされているボクだけど、
お姉ちゃんを頑張らせなきゃいけないのがボクなんだ。
他の人からしたら何を言っているのか、さっぱりだろう。
姉弟のことは、姉弟にしか分からないのだから。
「レオン君……」
隣のリビングから今にも消え入ってしまいそうな声が届いた。今日もバイトから帰ってからずっと座っていて。もう深夜の一時で。それでもボクに声を掛けてきたお姉ちゃん。
ボクは、返事をしなかった。
きっとお姉ちゃんも、それを望んでいるから。
「オレさ、もう前髪切り揃えてもいいかなぁ?」
初めて聞くような、そんな弱音に、ボクは耐えられなくなって、、
鼻を啜る音がぜんぜん抑えられなくて、、、
姉弟でしばらく壁越しに鼻を啜る。そんな不器用で辛い家族の夜を過ごすのでした。
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