第三話『そこにアイはあるか』 その⑥アタシ、変じゃないよね?


 アリサは学校を休んだようだ。


 先週は肉まん事件のせいでお弁当作ってあげなかったし、今日は特別にプリンも持ってきたのにちょっと残念だったな。そろそろバイトの時間、ちゃんとやってるか気になる。


それとも風邪とかで寝込んでる? うーん、こういう時に連絡取れないのが面倒よね。



「考え事かな? 次は君の番だよ」

「ああいえ! 大したことじゃないんです!!」


 ダーツなんてやったことないし、ダーツバーっていうのかな? 慣れない大人びた環境につい、アリサのことをぼーっと考えてしまっていた。


 放課後。ヒトミさんにまた相談に乗ってもらえることになり、下北沢に着くと案内されたのだ。連日で迷惑に思われてなければいいんだけど、気を遣われっぱなしだし。


 それに今日はヒトミさんの他に、ヒトミさんの友達らしい清女の人たち数人も一緒だ。ヒトミさんはその中だとより輝くいてるように見えて。ダーツの腕なんか、何も知らないアタシですら分かるくらいにかなり凄い。真ん中と、3倍? のところにしか当ててない。


 お店の人とも知り合いなのか、ほぼ貸しきり状態。彼女のダーツを投げる姿には見とれずにはいられなくて。そして、アタシの番になったら後ろで優しく教えてくれて……。


「力む必要はないんだよ。ダーツも、他のこともね。優妃君は硬く考え過ぎているようだ」

「そ、そうですか? これでも普通のつもりなんですけど」


「いいや。気を張っているよ。周りを気にせずに自由になればもっと上手くいくさ」

「あはは、アタシ見栄っ張りだからなぁ」


 投げたダーツは17点の2倍のところに当たった。ギリギリのところで少し恥ずかしい。


「ちょっと失礼」

「……へ、キャッ!」


 後ろから背中を抱かれるように手を取られた! いや、抱かれるというか支えられてるだけだけど、こんなの自然にされたら恥ずいわよ!! あ、でも真っ直ぐに投げれたわ。



「ヒューーー♪」


「そ、そこの人も口笛吹かないっ!」


 アタシが指摘すると清女の人たちはゲラゲラ笑った。やだ、絶対顔が赤いもんっ!


「お前達。優妃君をからかうのなら帰ってもらうよ。今日も軽率に口を開くなと言ったろ」

「すみませーん鷹木さん。あっしらは大人しくしてますんでどうぞ続けてくださいーー」


 清女の人たちはソファーに座って仲間内に小声で談笑を始めた。なんなのよもう。


「やれやれ、彼女らもアリサ君くらい可愛げがあればいいのだがな」


 耳元でヒトミさんからアリサの名が出て跳ねるように驚いた!! 咄嗟に振り向く!


「あ、アリサに会ったんですか!!?」

「ああ、昨日ね。優妃君と別れたあとに偶然ばったりと会ったのさ。すぐに分かったよ」


 冷や汗! アイツがヒトミさんに何かしでかてないかと考えるだけで汗が止まらん!!気を遣って偶然会ったって言ってくれてる気しかしないし、なにしてんのよアイツ!!


「アイツが何かご迷惑をお掛けしなかったでしょうか??」


 スマホガンなんて撃ってたらアタシがぶん殴ってやる! せっかく善意でプロデュースしてくれるって言ってくれてるのに、その話の前にアイツが喧嘩でも仕掛けてたら、、


「フフフ、迷惑なんて掛けられなかったさ。むしろ礼儀も正しかったくらいだよ。随分と素直な可愛い子じゃないかアリサ君は。こちらのプロデュースの旨もスムーズに受け入れてくれたし、近いうちには三人で打ち合わせもできるだろう。だからアリサ君については優妃君、僕君にしばらく任せてくれないかい? 時が来たら優妃君にも伝えるから」


「そ、そうですか……?」


 意外だった。あのアリサが礼儀正しく、しかも素直にプロデュースの話を受け入れた??


 どうせ「余計な事するんじゃねぇ!」ってアタシに怒ってくるだろうと思ってたのに。


 そうか、アリサも真面目に撫子としてやっていこうって決めてくれたのかも。レオン君のこともあるだろうし折れてくれても不思議でもないか……。ちょっと安心した。



「あの、、やっていけそうですかね。アリサはちゃんとした都内の撫子として」


 白い鷹。ヒトミさんクラスの撫子の目から見てアリサはどう映ったのだろう。アタシが不安そうに訊いたからか、ヒトミさんはそっと微笑んでくれた。ほんと綺麗な目だなぁ。


「心配なんだね。優妃君はその名前の通り、とっても優しい人だ」

「……そんなこと、ないですよ。それに自分ではあんまり気に入ってないんです。今どき漢字の名前なんて親バカでしょう? たかだかコンビ二店員の娘なのに」


「自分の名前に意味を見いだせることは、それだけで素敵なことだよ優妃君。僕君は幼少の頃、親の都合でドイツに住んでいてね。向こうではヒトミなんて名前はただの音でしかなかった。だから自分で物心ついてからも意味を意識したことなんてなかったのさ」

「ヒトミって名前、アタシは素敵だと思いますけど」


「ああ、僕君も。右目の視力を失ってからそう気付いたよ」


 なぜだろう。暗い話をしたと、謝りながら寂しそうに笑うその左の瞳もやけに綺麗で、、


 アタシは、しばらく目が離せずにいた。


 いけないことだと、分かっているはずなのに、とってもとっても心地が良いの。



「今日はもう帰ります! ごめんなさい、でもとっても楽しかったです」


 唐突に、アリサに会わなくてはと思った。


「そうだね。僕君も楽しかった。また、近いうちに会ってくれるかな?」


 だからそんな顔をされると、、頷いてしまうじゃない。バカ。


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