第二話『野良犬が遠吠えろ!』 その⑫雨が降って地面がこう、こう、、なるやつだ!



「は~~い、それじゃあアリ先撮りますよーー!」



「え、エヘっ!」


「はい死ぬほど可愛くないんで撮り直しま~~す!」



 三軒茶屋駅の駅長室。そこで多数の目に監視されながらに、駅長さんと握手までしてもらいましての写真撮影という拷問みたいなソレが行われていた。


 白石のカムバックを望み、なかなか三軒茶屋駅の撫子権を明け渡そうとしなかった駅員さん達だったが、こうして大人数で詰め寄られちゃあ認めざるを得なかったようで。


 陸上部、とそのお友達の一年生。それが最初にオレのことを認めてくれた人達だった。



 校章を返し、めぐに陸上部の先輩どもに謝らせた。それがまだ昨日の放課後の話。


 めぐも意外と素直に謝るもんだから変に可愛くて、先輩どもも潔く許しちまってくれて、オレとしては凄く助かったのが実際のところ。ほんとはオレなんていなくともめぐがちょこっとでも先輩との仲を築こうとしたのならば、すぐに解決したんだろうなぁって思う。


 それぐらいに皆いい奴で、めぐも可愛く生意気な後輩なのだ。



「アリ先! ピースピース!! ってなんで逆ピースするんだこのアホカスッ!!」

「だってピースとかはずいし……」



「「「アリサ先輩可愛い~~~!!!」」」



「や、やめろ! 殺してくれっ!!」


 助け舟を求めるように優妃を見たが、またしても「バーカ」と口をパックリ開くだけで。


 スマホを弄って、オレの視線を避けるように先に帰ってしまうのだった。



「もうそれなんなのよ」


 撫子に為るように勧めたのはあんたなのに、こっちが無理して頑張ってるのにそれだ。


「あらら、妬いちゃって可愛いなー松島先輩は」


 オレの逆ピースをひっくり返しながら小野田が耳元で言う。こっそり匂いも嗅がれた。


「妬いてる? あいつが誰に??」

「きっと松島先輩は自分でアリサ先輩のポスター写真撮りたかったんじゃないッスかー? まぁめぐめぐは一度懐くとあんなんなんで大目に見てあげて欲しいッス」


 正面でカメラを弄ってにやけ面なめぐ。きっと変顔が撮れてないか確認してやがるな。


「アレで懐いてんのか? 依然とバカにされてるようにしか思えねぇんだけど」


 呼び方も『アリ先』のままだし、超リスペクトとやらは以前よりも更に遠く感じない。


「感謝してるって言ってましたよ。めぐめぐ」


「陸上部の連中と仲直りさせたことをか?」

「いえ、蹴ってくれてよかったって。あのまま頭から廊下に落ちてたらもう二度と陸上できなかったかもしれないって。そう言ってました」


「要するにオレの蹴りが貧弱だったと」

「ええ、マネージャーのチヨからしてもナイスクッションだったッス!!」



 アリサシュート……。もう二度と出すことはないだろう。


 所詮部活も運動もしてない奴が繰り出す蹴り技なんて、蹴った方が痛いレベルのソレでしかないのだから。だってまだ痛いもん、足の甲。



 まぁただそうだな。たかがコンビニ店員の蹴り足が、がむしゃら青春部活生の蹴り足を守ることもあるって話だ。


 レジ打ちのバイトだって立ちっぱなしだし、少しの重みを支える筋肉くらいはあったんだろう。なんてのは少し都合良すぎかもしれないけど、あの一撃で色々と片が付いたのならもうそれでいいだろうと、オレはそう前向きに思うことにした。


 だから今は、撫子らしく堂々と前を向いてやる。ほれ、お望みのピースサインだ!!


「アリ先。その顔ウザい」

「なんなんだよお前は! ならお前がお手本みせてみろや!!」


「いや、めぐはどうせ来年あたり撮ることになるんで大丈夫かな」

「来年だとオレがまだ三年生だよ! 撫子やってるよ多分!!」

「アリ先に続ける自信あったの? あんな勝ち方でしかめぐに勝てなかったのに??」


 お互いに相棒がぶっ壊れてるからって言いたい放題だ!!

 ほんと可愛い後輩だよクソがっ!!!



 高校生の一歳差は、ただの一歳差じゃない。


 でも、だからこそヘンテコで無駄に重々しく、超リスペクトな関係ができあがるのだ。


 その証拠にオレがめぐの煽りに反応するとわざわざ笑いに包まれて。


 なんか。ちょっと恥ずかしいんだけど。


 ああ、オレは撫子に為れたんだなって。


 ようやくそう思えたような、そんな撮影会なのでした。


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