第二話『野良犬が遠吠えろ!』 その⑪初防衛戦 with めぐめぐ


 昼休み。オレは廊下に立っていた。


 そうわざわざ明記するくらいに、堂々と立っていた。


 小野田が再びオレの教室にやって来なかったってことは、オレの出したこの条件が受理されたってことだ。太っ腹な奴だぜめぐめぐは。


 オレが出した条件は一つ。



『昼休みにオレの教室前の廊下でケリをつける』



 ただそれだけだった。


 一見、単純明快な女らしい条件だが、実のところ滅茶苦茶セコい。


 それに気付いたところでなかなか断れないような文章なのもこれまたセコい。


 だが、それでもこの条件を呑んだってことは、めぐはそれでもオレに勝てる気でいる、、



「早く来やがれッ……!」


 昼休みが始まってもう二十分。五十分刻みの我が校のタイムスケジュールであと三十分。


 まさか昼飯を食べてる訳でもあるまい。でもお腹が空かないように前の休み時間にでも軽食を食べておいたはずだ。オレはそうした。カロリーメイトのチョコ味だとも。


 なんてことを考えてしまうくらいに焦らされていた。決して廊下には出ず、弁当を食べながら見守るギャラリー共もそろそろ我慢の限界のようで。


「おいおいまだかよ」

「すっぽかされたんじゃね?」

「何それダッセぇww」

「てか廊下ってズルくね?」

「銃持ってこんな一本道で待ち構えるだけとか最低だわ」



「シャラーーーップ!!!」


 外野が喧しいんじゃ! その条件を向こうが呑んでまで行われる女と女の勝負を貴様んらは黙って見とればいいんじゃい!!



 廊下は無人。オレの立つ地点から右と左に37m程伸びている。そして両サイドともにこの地点から20m進んだところ辺りに階段があるため、めぐが階段から姿を現した時点でお互いの距離は20mということになる。ちなみに二階なので窓から突如として現れることもないだろう。廊下の幅は3mも無く、途中に柱も無い。つまり、めぐは約20mの長さを3mの道幅で、オレの電磁弾を避けながら到達しなくてはならない。


 そして極めつけは昼休みという時間制限だ。これで抜かりはない。はずだが、、


 しかしだ、20m。

 一度目にしただけだが、あの走力を考えると2秒と掛からない距離なのは間違いない。


 が、それはトップスピードの場合の話だ。階段から現れた時点から走り出したとして、トップスピードにいきなり為るってことはないのだろう。


 だから奴のスピードが乗り切らぬ前に、この廊下の幅の制限付きで、奴をスマホガンの射程距離10m。そのギリギリで撃ち抜く。そして飛び蹴りが来たのならなんとか避ける。



 可能だ。それくらいは可能だとも!


「だから早く来やがれ! もっとも走るのは遅くて構わないがなぁ!!」


 自分でもこのテンションの高鳴りを抑え切れないようだ。何だかんだでこういう策略を考えるのは楽しい。それがオレの駄目なところでもあり良いところでもある。はず!



「なん、あ、あぁ……」


 そして、毎回思った通りにいかないのが喧嘩だったりして…………。



 めぐが姿を現した。


 廊下の一番端っこ。

 教室扉からガラッと出てきたのだ。そこ二年の教室なんだけどなぁ。


 つまりここから37m先の地点にめぐがいる。マジモードなのだろうから、陸上着で、例のシューズもバチバチに履いていて。ゆったりとストレッチ、準備運動を始めた。


 余裕たっぷりと準備運動するのも当然。ここからではオレの弾は到底届かないのだ。


 そしてこれだけ距離が離れていたら、ここに来るまでにトップスピードも出せるはずで。


 なら、今のうちに近付くべきなのだが……あえてそれはしないことにした。


 それってつまり『自分の当てが外れましたよ』って公言することだからだ。そう感単に弱みを見せてはいけない。依然としてこの条件ならオレの方がまだ有利なはずだ。


 そう、バカみたいな話だが表面上は『たまたまこの条件を指名しましたよ?』って顔をしていなくてはならないのだ。廊下の幅? そんなこと考えても無かったなぁ。


 そんなオレの間抜け面を観察するように、めぐはたっぷり三分も準備運動に費やした。男子共はそんな彼女の衣装と肌とおへそに釘付けである。女のオレですらちょっと分かる。



「それじゃあ、位置について」



 めぐが宣言しながら廊下の端っこの壁で、クラウチングスタートの体勢に入った。


 オレも右腕を伸ばし、リングに指を通し、スマホガンを構える。



「よ~~い!」



 その掛け声にややドギマギする。ややなんてもんか! 心臓が締め付けられ高鳴るっ!


 次の一声で始まるのだ。明らかに、この掛け声にはめぐの方が慣れていた――。



「ドン!!」



 考えてももう遅い! 始まった!! 始まったのだ!!!


 距離は急速に縮まるっ! もう20も無い!!


「速いッ!」


 オレの声ではない、観客の声だがまったくもその通りだ!! 



 これでまだトップスピードじゃないのか!!?

 これに当てるのかオレは!!!??


 そう叫びたくなるくらいに真っ直ぐ、直線的に近付いてきた!!


 廊下の幅! その真ん中の白線を堂々とッ―――ッ!!!


「チイイィイイ!!」


 とっくに10mは過ぎていた。


 多分7―。そこでオレは撃った。真っ直ぐにだ。


 が―、撃つ直前からの悪寒。震える指で引いたトリガー。



 めぐは、のだ。

 壁に向かって飛び、それを蹴り、また蹴り、オレに――ッ!!?



「超電磁キック!!」

「うわあああああ!!」


 恐怖のあまり、オレは、、尻もちをついた。



 が、、それでなんとかなった。らしい。



 頭の僅か上をめぐのシューズが逸れたのを、スローに見たのだ。


 今ばかりはこの低身長を称えよう。オレがそう、走馬灯のように思った時だった。



「わきゃあああああ!!!」



 めぐが、そう猿のように叫びながら走ったのだ。そのまま真っ直ぐ廊下の向こうまで。



 あれ?? いまオレめちゃくちゃ隙だらけだったんだけど???


 なんなら戦意すら喪失してたのに、、でもめぐは猿のような悲鳴を上げて廊下の反対側まで走っていった。ギャラリー共もポカンとしてる、、、



「む、むこうも怖いのか……??」


 多分そうだ。向こうもオレが怖い。壁を平気で走るような奴でもオレが怖い。


 いやそうに違いない! 向こうもオレと同じ、と思っていたのだ!!



 考えてもみれば当然の話だ。めぐが必殺キックを外したってことは、走っていた向きと反対側に相手がいることになり、そちらの向きに対して得意のスピードが0の状態だ。


 そして恐らくだがめぐはその0距離と0スピードから始まる泥臭い戦い、ただの肉弾戦には自信が無いのだ。やったことすらないのかもしれない。お互いにこの体格だし互角な戦いになるかもしれないが、一応スマホガンは0距離でも使えるし離れて正解、なのか。



「…………なるほどな」


 めぐは廊下の端で今度は掛け声もなしにクラウチングスタートの体勢に入った。赤い顔。


 あぁ楽しい。楽しいなぁ! 今まで以上に楽しくて怖ぇ!!


「めぐめぐ、おまえ最高だよ!」


 オレはスマホガンの音量調節ボタンの下を押す。もう画面を見ないでも何%になったかくらいの感覚は掴める様に練習もした。今は4%。再装填は1秒。これでいいはずだ。



「よーいドンだ!」


 オレが言ってやった! めぐもそのタイミングでしっかりスタートする。意地だ!!


 一本目とまったく変わらぬ速さ。70~80キロの速さはあるのだろうか。が、さっきよりはオレも目が慣れているっ! その廊下を焦がす音も心地良いぜ!!


 撃つ。しっかり10で届くようにめぐが16にいる段階で撃つ! その左足元――に、


「うわっ―!?」


 めぐも驚いたようだ。転ばないまでもバランスを崩す。


 弾は当たりはしなかったが、それでもめぐの歩幅を乱すのには充分だった。


 そう。足を上げ、着地させる地点は予測し易い。それでもとんでもなく速いのに変わりはないが、めぐの走りが洗礼されている分そのリズムは一定で。


 そしてそのリズムを崩したのなら、減速は免れない。もう距離も無いっ!


 めぐが4m先で再装填完了。火力は期待できないがちゃんと当てさえすればビリッとはくるはずだ! それで組み付いて時間を稼ぎ、最後に0距離で撃つ―!!


『パチッ!』


 可愛い音で発せられた電磁弾。もし左右の壁蹴りで避けられたとしても、めぐの減速を見るにそこまでの飛び蹴りは来ないと予測! ならそいつさえ耐えればオレの―― 


「ぜええぇっ!!」


 めぐは左右に飛びもせず両足を前にピッタリ揃えて廊下を トンッ と踏んだ。



 オレの電磁弾はめぐの胸、腹、足、えっと、、どれにも当たらず後方に消えていく――


 上に跳んでる―― 体操選手とかがやるみたいな―― 前宙ってやつか――― 


 そっ― そんなこと考えてる場合じゃねえ!!!



「らぁあああああ!!!」


 頭上から迫り来るかかと落とし! ドロップキック落としにオレは本気で恐怖しt―、


「おわあああああ!!!」


 よくも身体が動いたものだ。オレは頭から教室扉に、、何一つ考えずにダイブしていた。




 黒く、、なるっ、視界と、ガラス片のシャワー、、、なんとか、意識はあるっ!!


 ズムンとくるデコの痛みに涙が出たが、前転で教室の中に入り、入口に銃口を向けた!


「さぁ来やがれ!!」


 目を擦らずに開くと、……そこには誰の姿も無かった。



「そ、そらそうか………」


 もしもその狭い入口から入って来ようものならどこを狙わずとも当たる。めぐにもそういった喧嘩独特の感は備わっているようだった。合格だよクソが!!


 だが実際この状況で廊下に再び出てもいいものなのか。出た瞬間にめぐが数mの助走で蹴りを入れてくるってことも考えられる。それにこのダメージ、まだ頭がクラクラする。



「アリサ先輩~! 撃たないでくださいッスね~~」


 小野田の声だ。どういうことかとキリキリする頭で考えていると、ひょこっと引き戸の無い入口からその顔を出してきて、なんだか難しい表情をしていた。


「この度、アリサ先輩は残念ながら今回の撫子戦のルールを破ったッス。自分で指定した教室前の廊下から逃げ出したんッスからね」


「……………………。」


 痛いところを突かれた。いつもそれなりに慕ってくれた後輩にだ。うわ、やっちまった。



「おいおいこんなんで終わりかよ!」

「ダッサwww」

「右十字のアリサさんよっわ~~」



 ああ、ギャラリー共のムードまでもが全てめぐに側にもっていかれる。尻もちついて、教室に逃げ込めば当然だろうな。オレだってどっちが優っていたかくらいは認めるさ。



 だが、、まだ終わらない。言いたい奴には言わせておけばいい。


 喧嘩してんのはオレとめぐ。こんなんで終わるか。あいつだって一発かましたいはずで。


「廊下から出たら負けなんてルールも決めてなかったろ?」


 大ブーイング!! どうでもいいわばーか! オレルールがじゃ!!!


「はい、その通りッス。でも、アリサ先輩が逃げ出したのも事実。なのでここに、チヨはめぐめぐのマネージャーとしてアリサ先輩にルールの改正と制限を求めるッス!!」


 歓声が起きた。オレのクラスなのにだ、……くそう。


「ああ、重い制限でも呑むよ。そしてめぐに悪かったなと伝えといてくれマネージャー」

「はい!」 と答えた小野田は何故だかとても嬉しそうだった。


 こいつも楽しんでいるのかもな。そらお友達二人が本気の喧嘩をしていたら面白いか。


 そして小野田の口から出た制限は痛むデコに追い討ちをかける重さで、……くそう。






 再び廊下に出る。硬くてツルツルな廊下なのに、かかと落としの箇所には物騒なヒビだ。


 とんでもねぇ女。そいつが廊下の隅でギラリと狼みたいにオレを睨んでやがった。


 次の一撃で決める。


 そうせざるを得ない制限がオレには設けられていた。



『アリサ先輩はスマホガンをあと一発しか撃てない』



 えらく単純な話だ。次の弾を外せばオレの撫子生活は終了するってこと。それと勿論、『廊下から逃げ出したら負け』というようにルールも改正された。しかもご丁寧にめぐは一回だけなら教室に逃げ込んでもセーフともなってる。名マネージャーだぜほんとさ!


 この制限のおかげでさっきのような、小電力の電磁弾でバランスを崩させて減速を狙うといったことができなくなった。倒すならならやはり胴体を狙うしかない。


 のだが、どうだろうか。あいつのバチバチシューズにこのスマホガンの撃てる最大出力35%の電磁弾を当てたとしたら、あのシューズはショートして壊れるんじゃないか?


「それは夢見すぎかもな」


 めぐはやろうと思えば右にも左にも上にだって飛べるのだ。信じたくもねぇが壁だって数歩なら平気で走りやがる。確かに飛ぶ瞬間ってのは絶対に強く踏み込む足が必要だが、めぐだってオレがそのことにはずだ。それに究極、銃口やオレの目線が足元に向いているのを確認したのならば、めぐはフェイントを入れて真横の教室に逃げ込んで誤射させることも可能。正直な話フェイントかどうか迷いながらあの足に狙いを定める自信は無い。それくらいにめぐの足は速い。だから撃つ時は撃つ。


(やはり足元よりは胴体を狙うほうがいくらかは現実的か………?)



「それじゃあいくッスよ~~~!」


 呑気な小野田の声で我に返った。オレは何秒くらい考え込んでいたのだろう。


 それでもまったく、考えがまとまっていない。狙いを一点に絞らなくてはならないのに。


 胴体か、足元か、何をすべきか、、まだ何一つ定まっていないのに小野田は続けた。



「位置について~」



 まて、待って欲しい。いや待ってくれ!!


 めぐを見た! あいつはもう、覚悟を決めていて、、

 蹴られる。蹴り飛ばされるっ!!



「よ~~い」



 頭が真っ白だ。どこだここ? そりゃ嘘だけども!!


 もう、さっきまで何を考えていたかも覚えちゃいない。ああ、畜生。畜生!



 ただ、めぐの前に飛び出そうとするフォームを見て、カッコいいとだけ、そう思えた。



「ドンッス!! ウエェええぇ!!?」


 きっと羨ましかったのかもしれない。


 オレは走り出していた。


 ただ真っ直ぐ! めぐに向かって一心不乱に足を回転させた!!



「なんのつもりだあああぁ!!!」


 めぐが猛スピードで迫りながら叫んでくる!! 


「オレだってしるかああぁ!!!」


 考えがまとまらぬなら、相手を同じ土俵に持ち込むしかない!!


 というか普通に走りたくなったのが半分だ!!


 この50m10秒の脚でやるしかないっ!!!



「ぬううぅウ!??」


 めぐは明らかに困惑していた! トップスピードが出ていないぞ!!


 9。7。もう飛び蹴りが届く距離! でもまだ踏み込んでこない!!


 よし決めた! これしかねェ!!



「オレが弾になるッ!!」


 オレはめぐの足元にむかって思いっきりスライディングをしたっ!!


「あぶなっ―!」


 咄嗟にめぐはオレを、、飛び越えた! 大股のスキップをするみたいに。


 床を滑りながらスマホガンを真上に向けるも、当たり前のように間に合わない。


 だが別にいい。もう、決めたから。



 めぐの敗因を考えるなら、ここでオレを踏まなかったことだろう。


 どこでもいい。そのシューズで踏めば、オレのどこかしらの骨は砕けたはずだ。


 ただ、それも難しいのだろうな。それはめぐの陸上選手としての本能。


 例えば、


 全力で走ってる最中に人の身体なんて踏んだら十中八九捻挫、悪ければ骨折もするかも。


 走るのが生きがいの奴にとって、そんなリスクは本能でビビッちまうのは当たり前だ。


 だけど「今、踏めばよかった」ってのは頭の片隅で思ったんだろうな。


 スマホガンの射程外まで走るめぐは、名残惜しそうに一度だけ後方を見やがった。


 そしてUターン。オレがまだ立ち上がっていないのを確認し、勝機と踏んだのだろう。


 オレは右腕を地面に叩き付けて上半身を起こす。下半身はついてこないがしかたない。


 距離9と5! 咄嗟にスマホガンを構えた!!


「……あっ!」


 スマホガンがオレの手からスッポ抜けたぁ!!?


「え!? ばかっ!!」



 叫ぶめぐの一瞬の困惑、そして歓喜の表情。



 喧嘩にはトラブルなんて付き物だ。レフリーストップもありゃしない。


 勝ち確。間抜け。瞬間。距離4。床。スマホガン。


 きっとめぐの脳内は今、幸福な物質で満たされたに違いない。



「これで終わりッッ!!」


 そして。走りながらに、オレのスマホガンを――。


 スマホなら踏める。さっき踏めなかった分、思いっきりに。オレの道具はひしゃげた。


 勝利を確信したオーバーキル。


 その余裕がめぐにはあり、オレにはなかった。


 

『パパッヂッ、バババ!』



「んなぁ!?」


 煙と異臭。青緑色の火花がシューズとスマホガンの干渉を許さず、お互いを拒絶する。


 誰から見るにその異常でスローな緊急事態に、オレだけは冷静に立ち上がった。



 右腕を地面に叩き付けた衝撃で鉄レールとスマホガンの接続部を切り離し、リングから指を抜きながら、オレはただ音量調節ボタンを押し込んでいた。


 消費電力50%。それを蓄電した状態で前方に、あたかもミスしたかのように投げた。


 めぐはそれを踏まないこともできた。そのままオレを蹴りにくることもできたのだ。


 だが撫子戦はそんなに甘くない。ここで相手を倒したとして、リベンジされない保障がない。だから相手の手段をここで潰してしまうのが最高最善で、めぐはそれを選んだ。


 部活をやる奴らにとっての護身具。それは友人以上に信頼し合う相棒なんだろうよ。


 例えそうだろうが、オレとあいつだって負けちゃいねえ!!

 どんなに扱いが酷くたって、オンボロコンビでここまで足掻いて来たんだ!!!



「唸れぇ! オレの相棒!!」



『ズパンッツ!!』


「はわあぁ!!?」


 相棒は破裂した。


 めぐのシューズをぶっ飛ばして、そいつ自身を弾き飛ばしながら――、


 距離1と8。走る勢いのまま前方にぶっ飛んできためぐは、両手をバタつかせて――、


 顔から、受身なんて取れそうもなく――、、せーーの、で。



「アリサァシュウウトオォ!!!」

「おぶすッ!」



 全身全霊の右足、アリサシュートはめぐの顔面を蹴り上げ、、その重みに普通に負けた。



 めっっちゃ痛かった。足の甲のでっぱりの骨が心配になるくらいになまら痛い。

 が、決して飛び跳ねない。ここで飛び跳ねるようではダメなのだ。


 そう、オレは必殺シュートでめぐに勝ったのだから。


 しっかりと両足で立ち、堂々と言う。



「オレの勝ちだ」



 返ってくる声は無かった。めぐはうつ伏せでノビてしまっている。



 焦げたシューズの臭いが充満する廊下。誰一人としてこの決着に納得なんてしていない。


 それでもオレは、この右足の充実感に嘘は無いことを理解しているのだ。


 それはきっとめぐだって…………。


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