第一話『右十字のアリサ』 その③タイマン
さほど大きくない公園の中央に二人。お互いの距離は15メートルってところだ。
後藤の取り巻きはオレが逃げ出せないように四方の隅に散っていた。
「でぇ? いつから始めようかぁ??」
後藤が能天気なトーンの声で聞いてくる。まるで負ける気がしないのだろう。
分かっている。それくらいにRE-6とゼロワンの性能差は残酷なのだ――。
「もう始まってるけど」
「……ふ~ん」
オレの挑発を聞いてもまだ、後藤はスマホガンを構えようともしなかった。
その素振りから恐らく後藤はこっちのスマホガンの性能を知っていると見える。
二人の距離15メートル。だがゼロワンの射程距離はせいぜい8メートルが限界。
つまりは、こちらの電磁弾を当てたければこの距離を半分までにしなくてはならない。
が、対する後藤のスマホガン。RE-6は射程距離が確か20メートルだったかな。
スマホガンが世に出て7年。日本の技術力の高さに今日ほどムカついたこともないぜ。
「そもそもなんだけどさぁ甲本、それってまだ弾撃てんの?」
なんと失礼な。
「どうだろうな。一回近くで試してみてもいいか?」
「へー、まだ撃てはすんだ。でもやっぱりここまで届かねーんだな」
するとなんと後藤はスマホガンを構えるどころか、余裕たっぷりにスマホガンの画面を覗き込んで、そのまま普通に画面をスクロールし始めやがった。
「今ウィキ見てんだけど、一発およそ消費電力20%に
ドッと四方のギャラリーが沸いた。最早オレも笑う。こういう空気嫌いじゃないぞ?
「元々痴漢とかストーカー対策用に作られたのが始まりだからな。最近のが異常なだけだ」
自分で言っておいてなんて老害感だろう。同い年相手にジェネレーションギャップってのを酷く感じる。オレの言葉はやはり後藤を良い気にさせただけだった。
「これじゃあ不公平だから、アタイのスマホガンの性能も教えとくわ」
自慢か。おい自慢か。
「一発の消費電力は6%。再装填1秒! 20メートル先まで弾道はブレないしオートで対象をロックしてくれるから、アタイは微振動にしたがってトリガーを―ッ!!?」
オレは走り出していた。直線ではなく左。
『プシッ!』
後藤からの一発目の電磁弾、、オレの後頭部をかすめた。
『プシッ!…プシッ!』
続いてニ、三。しかしその電磁弾は段々とオレの後頭部からより離れた後方をかすめる。
「な、なんで!? なんでだよ!!?」
何も驚くことはない。そのオートロックシステムとやらが喧嘩に向いてないだけだ。
そう、喧嘩に。
「さっき言ったよなぁ!? 痴漢やストーカーのおっさんがこんなに速く動くかよ!!」
内部のカメラで対象を認識し、その銃口を向けたベストな位置で微振動のお知らせ。
無駄。ラグが多過ぎる。最後は自分でトリガーを引くのだから三工程もあるってことで。
「そもそも銃なのに振動するってのが終わってんだよなぁ!!」
「くそが! 当たれよぉ!!」
「――ぬわッ!?」
雑に振り回すように撃ってきやがった!?
左足をかすった、だけだけど熱痛いっ!
「もらったぁ!!」
「―チぃ!」
オレは咄嗟に砂利の地面を蹴り、足をやや滑らせながらも今度は右回りに走る。
『プシッ!』
頭を下げ間一髪避けてそのまま全速力!
オートロックはともかく再装填1秒は厄介だ。
「相変わらず気の抜けた屁みたいな音出しやがって!」
「あん? なに言ってんだ死ね!!」
最近始めた後藤が知らないのもそのはず。これは業界用語だ。
『
業界売り上げ一位ながらいつも古参からはそうバカにされてきた!
それがMachinaシリーズなんだよっ!!
「老害なめんじゃねえ!!」
オレは覚悟を決め後藤に向かった。
今まで斜めに走り縮めてきた距離を一気に縦に!!
距離はやっと10!
そこでオレは初めて右手のスマホガンの銃口を向けるっ!!
「バカが! そこからはまだ届かな――うそッ!?」
『ババヂィッ!』
「ぬわあぁあ!!?」
後藤はオレの電磁弾が当たる直前、両腕をクロスにして顔面への直撃を防いだ。
ギリギリの射程内とはいえ流石
「色々と弄ってるけどなぁ!!」
一気にこのまま決めるために走った。後藤には悪いがこれで終わ―、
「姉さん!」「エリ姉!!」
突如叫び声。だからどうしたと目線も変えずに走る!
再装填まであと1と5秒!!
「ぬはっ!」
距離4。そこで後藤は尻をつきながらも顔を上げた。
なんと右手にはスマホガンが握られている。腕で防ぎながらも落とさなかったか。左腕を前にしたな。オレと違ってスマホリングもしていないのにそこは褒めてやるよっ!!
「―――ぃいねえアリサぁ!!!」
感極まる表情。後藤は掠れた声で叫びながら右手を振り上げた――。
距離3。馬鹿でも当たる。
『プシッ!』
「ぬうぅりッッ!!」
右つま先、、全ての力で! 地面を叩き、弾いた――。
寂しいくらいに透明で澄んだ空。そこにキンッと伸びた白が見えた。
「そんなバk!!」
右下から聞こえた声が今度は左下から入り、再び後藤のイキイキした顔が見えて、、
ようやく自分が一回転したのだなと、速過ぎる時間の中でそう遅く認識する。
再装填まで0。
オレは前髪、右目の十字を意識した。
落ちながらに揺れるその髪先、の真ん中。
ちょうど90度の四角い角に、後藤の額がピタリと合わさるのを待った。
そして訪れるその時に。なんでだろう。
あの放課後。先生と二人きりのオレンジ色の教室を思い出していた。
「先生、オレにだってあるんだよ」
『ババヂィッ!』
余計な音はもう聴こえない。後藤の額は真後ろに消えていく――。
そして右肘から地面に落ちたせいか、刺さるような激痛、、の中、改めて思った。
「この反動。この反動なんだよなぁ」
だってこのじゃじゃ馬君にしか出せないもの。今日はいっぱいメンテしてやるからな。
なんてたっぷりと思いながら、オレは肺の空気を全て出してよっと立ち上がるのだった。
「……………………」
後藤は大の字にノビている。もうしばらく起き上がってはこないだろう。
「姉さんおい!」
「しっかりして姉さん!!」
「おまえ少しは加減しなさいよ!!」
四人が後藤に駆け寄り、順にオレをキッと睨んできた。そしてデブ男が怒りで震えだす。
「てめえよくもやってくれたなぁ!!」
「これが女のタイマンってもんだろうが。見ろよ、この後藤の満足したって面を」
「失神! してるだけだろッ!!」
変なとこで区切ったデブ男が向かってくる。ぶっとい腕を振りかぶってラリアットか?
『ババヂィッ!』
まぁ関係ないんだけども。
デブ男は「がぁ!」とか言いながら倒れた。とても醜い、、
「ちょっと何なのおまえぇ!? マジ何なのぉ!!?」
「やめろヒスるな」
「ひっ―ッ!」
女の一人が向かって来る前に銃口を向けた。まだ5秒経ってないんだけどね、てへっ。
「正当防衛だ。それに水とかぶっかけてりゃそのうち起きるよ。で、なんか文句あんなら聞くけど、ナメた発言だったらお前も敵としてみなすからな。気をつけて口を開くように」
もうあとは雑魚しか残っていないだろう。まだ喋ってないガリ男と、オレの腹を蹴った暗めな女と、今さっきヒスった女のみ。この有象無象どもめ。
とは言わずに、オレはその場を立ち去ることにした。
が、ここにきてガリ男が何かに気付いたのか、オレの背を指差しながら急に声を荒げる。
「な、何発撃った!? そいつ何発撃ったぁ!!?」
あら賢い。あとこいつ子供の頃やってたアニメの眼鏡の泣き虫に似てるな。あの黄色いTシャツの。
「えっと……確か三発じゃない?」
「だ、だったら一発20%! 三発で60! 充電100%でも残りあと二発なんだ!!」
三人が慌てたようにオレを見て、足に力を入れた。おいおい本気かよ。
「こ、ここここここっちは三人よ! 二人やられても必ずお前を倒す!!」
「そんな震えながら言われても。それにいいか? 最後の奴はオレと殴り合いすんだぞ?」
「「うるせえチビ!!」」×3
何故か息ピッタリだったのがムカついたので。オレは早々に女二人を順に撃ち。最後に残ったガリ男の腹を殴り。蹲った股間を蹴り上げてから、自転車を取りに学校へ戻った。
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