第18話 友人の訪問
ルドヴィカは自室で紅茶を飲みながら今日の出来事を思い出した。
今日は数日ぶりにジャンルイジ大公の部屋で食事を済ませた。
ジャンルイジ大公から声をかけてくるのははじめてだったように思える。今まではルドヴィカが訪問、声をかけて応答の繰り返しであった。
まさか、気にかけてもらうなんて。
「でも、私の減量計画に最近乗り気ということでこれは大公家にとって良いことよ」
一歩一歩ジャンルイジ大公の体調は改善してきている。
以前はお肉が全体的にたるんで、液体のように変形していたが今は全体的にしゅっとなったように見える。
体重がどの程度減ったかはわからないが、5kgは確実に減ったと思える。
可能であれば体重評価の為に体重計を探してみたが、畜産業のあるものしか見当たらなかった。
あまりに巨大な器具で、3階まで持ち運ぶのは難しいので断念した。その上、ジャンルイジ大公に家畜用の体重計を乗せるのは躊躇してしまった。
彼の精神面も考慮すると。
アリアンヌが彼を豚と呼んだこともあり、嫌なことを思い出させてしまいそうだ。
「100kg用の体重計に乗れるまでは、巻き尺で判断していくか」
散歩用の衣装も準備したいことだし。
長い間、外に出たことのない彼はちゃんとした服を着なくなっていた。
メイドが目算で適当に作った寝着のみである。
「うん、もう少ししたら衣装の発注もしましょう! きっと彼も気分が乗るに違いないわ」
明日、パルドンにお願いして紳士用の服のカタログを持ってきてもらおう。
「大丈夫。きっとよくなる」
ジャンルイジ大公は確実によくなっている。
ルドヴィカが前世経験した悲劇から少しずつ遠のいていると感じられた。
◆◆◆
ちょうど同じ頃、就寝前のジャンルイジ大公は横にならず書類を眺めていた。
ルドヴィカが作った運動方法のメモである。
一人でもできそうな内容を上肢、下肢、腹部に分類して書いてあった。
メニューを作るのに、トヴィア卿、ガヴァス卿も協力してくれたそうだ。
「失礼いたします」
パルドンがノックをして声をかけてきた。ジャンルイジ大公は中へ入るように応じた。
扉が開かれパルドンと共に入ってきたのは魔法使いのローブを着た青年であった。
夜の薄暗い照明の中、それでも一目みて美しいとわかる青年だった。
あのアリアンヌが一目惚れしてお抱えの美男子らを放り出した程だ。
「久しぶりだな」
青年はちらりとパルドンを一瞥し、姿勢を正した。
「ジャンルイジ大公殿下。魔法棟所属のルフィーノ・アルフィーネ、参りました」
ルドヴィカが数日前に会いに行った魔法使いのルフィーノであった。
「今はここには私とパルドンしかいない。軽くしていい。ルフィ」
ルフィーノは先ほどの姿勢を崩した。相変わらずの変わり身の早さである。
「それで話というのは、ジジ」
二人は幼馴染であった。
先代大公が用意した家庭教師の元、勉学の友があれば一層励むだろうと一緒に授業を受けたのがルフィーノとフランチェスカであった。
ジジというのはジャンルイジ大公の愛称である。
「まぁ、何だ。お茶を飲みながら……まずは椅子にかけてくれ」
ジャンルイジ大公はルフィーノを椅子へとかかるように促した。
すとんとルフィーノがベッド傍に置かれている車いすの方へ腰をかけた。
とんとんと手すりの方を叩いて、ブレーキの棒を確認する。
「いや、その椅子ではなく、そっちの普通の」
ルドヴィカが発注した車いすが随分と気になったようだ。
「なるほど……普通の車いすに比べて、ごついし、こんなに留め具がいるかと思ったがお前専用か。もしかして階段脇にあった謎の道具と関係しているとか」
ジャンルイジ大公の話そっちのけで自分の興味あることを口にする。
察しが良いのだが、今はジャンルイジ大公が語りたいのは別のことだ。
「その、お前に話をしたいのは……私の妻についてだが」
車いすの操作を確認していたルフィーノはぴたっと動作を止めた。
「お前は彼女をどう思うか?」
「アリアンヌ・ロヴェリアの姉」
未だにアリアンヌは彼にとってはトラウマになっていると推測される。
追い掛け回し、研究の邪魔をしただけではなく、薬を盛り襲われそうになったのだから。
「やはり、彼女の協力するのは難しいか?」
「そんなことは言っていないぞ」
ルフィーノの言葉にジャンルイジ大公は首を傾げた。
「彼女はお前に私の減量計画に協力をしてほしいと言っていたが断ったと聞いた」
「断ってはいないが」
ルフィーノは何があったか語った。
ルドヴィカがはじめて訪問した時、ルフィーノは研究から手を放せない程忙しく、例のアリアンンヌの姉が会いたいと聞いて苛立って追い帰してしまった。都合の悪い時期にルドヴィカが訪問してしまったようだ。
先日二度目のルドヴィカの訪問では、研究も踏ん切りついたことと、手紙の内容が気になったから会う気になったという。
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