ネコ型土下座ろぼのお仕事

Tempp @ぷかぷか

第1話

『誠に申し訳なかったにゃ』

 どげざねこが土下座した。

 どげざねこの正式名称は箱書きを捨ててしまったから覚えてないけれど、高さ10センチ程度のリラクゼーション系ロボットだ。何故持っているかというと、たまたまスーパーでやっていた販促品のくじに当たったからだ。


 実際のところちょっとイライラしてたのが、どげざねこが間抜けな声で土下座する姿を見れば、なんだかどうでもよくなってきた。

 ストレスを溜めすぎないという意味でも、案外悪くないのかもしれない。

 今俺がイラっとしたのは10連ガチャを10回してSR2枚しかでなかったから。せめてSSR出てほしかった。すでに何かが失敗している気がする。

 ガチャ運はおいといて。

『どうかご勘弁にゃ』

 謝罪には少しだけバリエーションがある。今月の予定していた課金上限を使い切ったけど、まあ、いいや。よくはないんだけどさ。


 たしかどげざねこの機能は、半径1メートル以内にいる人の脳波のイラつきを検知して、ええと確かθ波とα波が低くてβ波が高い時、とかだったかな、ともあれ人がストレスを強く感じる脳波を出している時に謝ってリラックスさせる、というものだったと思う。

 それでこんな感じでどげざねこはストレス値を緩和してくれるのだ。

 よく考えなくともレアが出ないのはよくあることだし、俺は実のところそんなにイラっとはしてないんだけどな。

 どげざねこをツンツン突いたけれど、反応はなかった。

 どげざねこは単機能ロボットで、土下座によるストレス値の緩和しか効能がない。せめて音楽が流れてリラックスする機能とかあってもいい気はするんだけど。


 そんな毎日が続いていたある日。

 そんな毎日が続いていたある日。

「なんか最近調子悪いんだよねぇ」

「大丈夫なの? 引越してからずっと言ってるよね」

 友人の智樹ともきに相談すると、思ったより心配そうな顔をされた。

「まあなんて言うか運が悪い感じ、こないだもコンビニ行ったら携帯の電波なくって決済できなくてさ。慌てて財布探したりとか」

「あぁー、そんな感じするよね?」

「そんな感じって?」

「あ、うーん」

 ただの愚痴なのに、なんだか智樹の返事の端切れが悪い。

「まあ続いたら対策考えよっか」

「対策? お祓いにいったりとか?」

「そんな感じかな?」

 智樹は茶化すような感じでそういったけれど、なんだか妙に真面目そうで、余計に気になった。そうすると悪いことはなんだか続いた。でもこれってアレだと思う。気にしたらよけい気になるという奴。

 例えば小銭が落ちてるのを何回か見つけたら俺ってラッキーな気がしてくるのと同じで、よくないことが目につくと俺ってアンラッキーって気がしてくるやつ。

 だからまあ、ちょっとした不運は目についたけれど、実際にはそんなに気にしていなかった。俺はどっちかっていうと楽天的なので。


『失礼仕ったにゃ』

 家で寛いでると、どげざねこが突然土下座した。

 ……俺、今そんなにイラついてたかな? とりたててハッピーな思考ではなかったような気はするけど。咄嗟の時の気分なんで、気にしてもいなかいからよくわからない。。

 このどげざねこの影響も少し受けているのかなという気がする。どげざねこが謝ると、ひょっとしたらイラついていたのかな、という気分になって、実際ちょっとイラっとする。最近ちょっとこの『イラついてる』という状況の範囲がよくわからなくなっている気はしなくもない。

 けれども俺はなんとなく、まあいいかと思ってエロ本を広げた。すっきりしない時はすっきりするに限るのだ。


『申し訳ござにゃぬ』

 あの、賢者タイムのときにそれ言われると心がザワつくんですけど。

 今は別にイラついてはなかったよな。少なくとも、それは自覚的にNOな気はする。むしろ放心していた。ひょっとしたらこのどげざねこは少し壊れているのだろうか。

 こつこつ頭を叩いてみたけど、特に反応はなかった。どげざねこには土下座する以外の機能はない。残念なやつだ。

 そして更にその数日後。

「やっぱ運悪いでしょ」

 帰り際、突然、酷く心配そうな智樹に声をかけられた。

 どうだったかな。気のせいだと思ってスルーしてたけど、ガチャ運は変わらず微妙な気はする。でもやっぱり運悪いっていうほどじゃないような。

 それより何故智樹はこんなに心配するんだ? そっちのほうが心配だ。

「なんで? 良くはないと思ってるけど悪いというほどでも」

「いやなんでっていうか。ええと」

 改めてそう問い返せば、智樹は慌てて目をそらす。

「なんかモヤるからさ。はっきり言って」

「いやでも……」

「怒んないから」

「いや、怒られる筋合いはないんだけど。……ええと、幽霊とか信じる?」

「いや別に」

「だよね……」


 幽霊? その言葉は全く予想していなかったものだ。というか、幽霊がいるかいないかも真剣に考えたことはない。

「俺に幽霊がついてんの?」

「まあそう、なんかヤな雰囲気してる、家が呪われてるとかない?」

「どうだろ、幽霊って天ぷらにして食えるって聞いたことがあるんだけどそうなのかな」

「何言ってんの?」

 そんな噂を誰かから聞いた気がするんだけど。あれは塩をふるといいからだっけ。天つゆをかけても幽霊って消えるのかな。

 結局のところ、幽霊がいるかはよくわからないがなんだか智樹が気になる。

 だからとりあえず智樹を家まで案内すると、ぽかんと口を開けてめちゃ固まった。

「なにそれ俺の家そんなやばい感じなの?」

「ぐぅ、なんでここで暮らせてるのさ」

 智樹の顔がみるみるうちに青くなる。白いチューリップを青い色水につけた時みたいだ。

「え? 普通に快適に」

 とりま家に入らないと話が始まらない。茶も煎れられないよね。

 完全に腰が引けてる智樹をおいて、玄関を開けると声がした。

『面目ないにゃ』

 あれ? なんでどげざねこ?

 まだ効果範囲には入っていないと思うんだけど。

 ドサリという音がして振り返ると、智樹が昏倒していた。

 え、そんなに?

 でも俺そこまで運が悪い実感ないんだけど。


『平に、平ににゃ~』

 振り返っても誰もいない。幽霊?

 ちょっとだけ考えて結論づけた。

 ひょっとしてどげざねこがヤバい幽霊のストレス値を緩和していたんだろうか。だから俺に悪いことは起こらなかった?

 そう考えると凄い性能?

 けれどもカスタマーセンターに問い合わせても、きっと妙な目で見られるだけだろう。

 とりあえず倒れた智樹をそのままにしておけなかったから家にいれたけど、そのままにしといたほうがよかったのかもしれない。起きた時阿鼻叫喚だったから。


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